米イスラエル軍の空爆(2月28日)で殺害されたイランの最高指導者アリ・ハメネイ師の国葬の告別式典が9日、終わったが、それを待っていたといわんばかりに、米軍とイラン間で本格的な戦闘が再開し、双方に多くの死傷者が出ている。ワシントンとテヘランは6月14日、パキスタンの仲介により枠組み合意に達し、その後60日以内に平和条約を締結する予定だったが、ホルムズ海峡の支配権をめぐる対立から、7月中旬には戦闘が再燃した。米軍はイランの港湾に対する封鎖を再開した。

テヘランではアリ・ハメネイ師の葬儀行列で「トランプを殺せ」と書かれた横断幕を掲げている、イラン・インターナショナル2026年7月10日から
米中央軍によると、イラク北部で撃墜したイラン無人機の爆発物を処理していた米兵1人が18日に死亡したほか、ヨルダンではイランの攻撃で行方不明になった米兵の捜索中に身元不明の遺体を発見した。17日にもイランが弾道ミサイルと無人機でヨルダンを攻撃した際に米兵2人が死亡し、1人が行方不明になった。米軍側の死者数が増えてきた。トランプ米大統領は「非常に残念だ」と述べ、橋や発電所など民間インフラを破壊する報復攻撃を行うとイラン側を脅している。
両国間の停戦交渉の見通しは立っていない。イラン外務省は「第3国を通じて間接協議を続けている」と述べているが、その進展具合は不確かだ。双方が報復攻撃を繰り返すだけで、戦闘の出口戦略が見られない。
ちなみに、新最高指導者のモジタバ・ハメネイ師は18日の声明で、米国との戦闘終結に関する覚書について「完全に無価値で信用に値しない」と述べ、米国側への更なる攻撃を呼び掛けている。
海外のイラン・メディア「イラン・インターナショナル」は10日、「イラン当局はアリ・ハメネイ師の死後、国民に統一を呼びかけているが、そのメッセージは復讐の要求、妥協を疑われる当局者への攻撃、内部分裂が敵に利益をもたらすという警告だ。イランの深刻化する経済、安全保障、外交危機の解決に関する団結ではなく、復讐、抵抗、そして新しい指導部への服従をめぐる団結だけだ」と指摘している。イスラム革命防衛隊(IRGC)は、ハメネイ師や他の犠牲者への「血の復讐」は「確実で正当かつ忘れがたい要求である」と述べている。
同紙はまた、「トランプ大統領を脅す横断幕やポスター、殺害の呼びかけや賞金に関する言及は、ハメネイ師の葬儀行列で繰り返し見られた。復讐の言葉を式典の最も目立つメッセージの一つだった」と、イラン国内の状況を伝えている。
イランは米軍の攻撃に対して湾岸諸国の米軍関連施設に報復攻撃。一方、米兵士が死去し、米軍基地が破壊されたという理由で、米軍は今度は報復攻撃に乗り出す。両軍の間で「報復」と「攻撃」が何度も繰り返される。「これは攻撃か、それとも報復か」が分からなくなってくる。
イラン問題の専門家ヴァルター・ポッシュ氏はオーストリア国営放送(ORF)とのインタビューで、「イランは攻撃を受けている限り、彼らは結束を保つことができる。事態が変化するとすれば、戦争が確実かつ説得力のある形で終結した場合に限られる」という。
すなわち、米軍がトランプ氏の命令でイランに報復攻撃を繰り返している限り。イランのムラ―政権は反米、反イスラエルで結束できる。しかし、米イスラエル軍の攻撃は止み、外交交渉で何らかの停戦が実現した場合、「イランには国を結束できるものが無くなるから、変革の時を迎えることになる」というのだ。
世論調査によると、米国民の多数は米軍のイラン軍事活動に反対している。一方、イラン国民の間で現体制がどの程度の支持を得ているかを見極めるのは難しい。
なお、ポッシュ氏はイランの政治情勢において、過去40年にわたり権力を争ってきた3つの主要な派閥を挙げている。現在最も有力な勢力は「イラン・ヒズボラ」だという。同組織は 1990年代に結成された、イランの最高指導者や保守強硬派に忠誠を誓う民兵・自警団組織。イラン国内で「反体制的な動きの弾圧」や「イスラム的道徳の強制(西欧文化の排除)」を暴力的な手段で行ってきた。学生運動の弾圧や、女性の服装(ヒジャブ)の取り締まりなどで悪名高く、米国などから人権侵害の対象として制裁指定されている。イラン革命防衛隊(IRGC)の内部に組み込まれた正規の派閥ではなく、制度上は完全に別の組織(非公式の民間自警団)。
二つ目の主要な政治勢力は、1980年代のイラン・イラク戦争の退役軍人たちで構成されている。ポッシュ氏によれば、このグループには、イランの現在の首席交渉官であり国会議長のモハンマド・バゲル・ガリバフ氏が含まれる。このグループは米国との交渉に対して前向きな姿勢を示しているが、外交政策に関する専門知識に欠けている。そして三つ目の勢力は、改革派運動の残存勢力や穏健派勢力で構成されており、現政権やマスード・ペゼシュキアン大統領らが含まれる。
ポッシュ氏は現在、体制に対する内部からの脅威(大規模なデモや国内の少数民族による蜂起など)は存在しないと見ている。同氏によれば、「イラン国民の間には諦めの空気が漂っている。しかし、その諦めにも限界があり、ある時点で事態は爆発するだろう」という。「紛争が確実に終結すれば、すべてが変わる。そうなれば経済政策、失業問題、復興、蔓延する汚職、そして体制の疲弊した実態といった問題が前面に押し出されることになる」と予想している。少々皮肉なことだが、米軍のイラン攻撃が続く限り、ムッラー政権は安泰だというのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年7月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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