中国のAI企業Moonshot AIが発表したKimi K3が、アメリカ政府をパニックに陥れている。Kimi K3はコーディングなどの評価でアメリカの最先端モデルに迫り、一部のテストではOpenAIやAnthropicのモデルを上回った。

Kimiの発表イベント
利用料金はアメリカ製モデルより約40%安いとされ、7月27日にはモデルの中核(ウェイト行列)を公開する予定だ。企業や政府は自前のサーバーに導入し、自由に改造できるようになる。厳密にはオープンソースというよりオープンウェイトである。(Axios)
ホワイトハウスで浮上する「中国AI禁止論」
問題は、性能だけではない。アメリカ企業が数千億ドルのデータセンター投資を続け、AIモデルを高価格で販売しようとしている横で、中国企業がほぼ同じ性能のモデルを安価にばらまけば、アメリカのAIビジネスモデルそのものが崩れかねない。
Axiosによると、トランプ政権内部では以前から、中国製のオープンモデルを事実上締め出す案が検討されてきた。
具体的には、中国のAI企業を商務省の「エンティティー・リスト」に加える案、中国製AIの安全保障上の危険性を警告する政府勧告、さらには中国製モデルを提供するアメリカ企業に安全性の保証と事故時の責任を負わせる大統領令案まであったという。
これらは規制慎重派の反対でいったん見送られた。しかしKimi K3の登場により、政権内の安全保障強硬派が再び勢いづいていると報じられている。
ただし、7月21日時点でトランプ大統領が禁止令を出した事実はない。ホワイトハウスと商務省も報道へのコメントを出していない。現段階では「大統領令が検討される可能性がある」という話であり、発令が決まったわけではない。
「禁止」といっても消去はできない
そもそもオープンウェイトのモデルを完全に禁止することはむずかしい。モデルの重みがインターネット上に公開され、世界中のサーバーにコピーされれば、アメリカ大統領が署名しても消すことはできない。ビット列に国境警備隊を配置することは不可能だからだ。
実際に考えられるのは、次のような事実上の締め出しである。米政府機関による利用禁止、アメリカのクラウド事業者による提供制限、エンティティー・リストへの追加、重要インフラでの導入規制、安全事故が起きた場合の厳しい法的責任などだ。
形式上は禁止しなくても、「中国製AIを使ったら後で問題になるかもしれない」という規制リスクをつくれば、大企業は自主的に利用を避ける。政府にとっては、そのほうが直接禁止するより簡単である。
国家安全保障か、アメリカ企業の保護か
規制論者は、中国製モデルにはバックドアや政治的検閲、安全管理の不透明さがあると主張する。重要インフラや軍事、政府機関で無条件に利用することには、当然ながら慎重であるべきだ。
しかし規制の恩恵を最も受けるのは、OpenAIとAnthropicである。OpenAIの戦略責任者ディーン・ボール氏は、トランプ政権が中国製オープンモデルの利用をめぐって「大量の規制リスク」をつくる可能性があると予測した。
これに対し、トランプ政権でAI政策に影響力を持つデービッド・サックス氏は、閉鎖型モデルを提供する大手2社が政府を利用してオープンモデルとの競争を排除しようとしていると強く反発した。(Business Insider)
国家安全保障という看板を掲げれば、単なる企業保護も立派な政策に見える。半導体では中国への輸出を規制し、AIモデルでは中国からの輸入を規制する。トランプの保護主義は、もはや珍しい光景ではない。
禁止令は中国を止められるのか
トランプ大統領が規制に踏み切っても、中国のAI開発そのものを止めることはできない。むしろアメリカ企業が安価な中国製モデルを利用できなくなり、アメリカ内のAI開発コストが上がる可能性もある。
Kimi K3が示した最大の脅威は、中国政府がアメリカを攻撃できることではない。アメリカ企業が巨額の資金を投じて囲い込もうとしているAI技術を、中国企業が安価な公共財に変えてしまうことである。
トランプ政権が守ろうとしているのは国家安全保障なのか、それともOpenAIとAnthropicの企業価値なのか。
大統領令が出るかどうかはまだ分からない。しかしKimi K3によって、アメリカが誇ってきた「自由な競争」が、アメリカ企業の勝っている間だけ適用される原則であることが明らかになった。







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