英検の替え玉受験で取得したスコアを使い、教え子を大学に合格させたとして、元塾講師の男が罪に問われている。事件は単なる「カンニング」の域を超えている。大学入試そのものが、外部資格試験の本人確認に依存する時代になったことを浮き彫りにしたからだ。
大阪地裁で8月27日に開かれた初公判で、元塾講師の野口瑞希被告(35)は起訴内容を認めた。起訴状などによると、野口被告は2025年9月、当時勤務していた学習塾の教え子になりすまして英検2級を受験。そのスコアを利用し、同年11月に近畿大学の推薦入試に出願して教え子を合格させたとされる。

顔写真まで「合成」して出願
さらに驚くのは、その手口だ。検察側によると、替え玉受験の発覚を免れるため、大学への出願時には被告と教え子の顔を合成した顔写真が作られていた。教え子から「いいんですか? バレない?」と尋ねられた被告は、「大丈夫」と答えて承諾させたという。検察側は「他の受験生の人生も狂わせた」として拘禁刑2年を求刑した。
近大の入試には、英検など外部試験の成績を外国語の得点として換算できる制度がある。つまり英検で高いスコアを取れば、それが事実上、大学入試の得点になるわけだ。
便利な制度だが、ここには重大な問題がある。大学側が自ら英語試験を実施しない以上、「本当に本人が英検を受けたのか」という確認まで英検側に委ねることになるからだ。
「英検に合格した人」と「入学する人」は同一人物なのか
従来の大学入試であれば、試験会場に受験生を呼び、受験票と本人を照合する。しかし外部試験利用型入試では、その試験の一部を別の組織にアウトソーシングしている。
そこで本人確認に穴があれば、大学側がいくら厳格に入試を運営しても意味がない。今回の事件では、替え玉で英検2級を取得したうえ、合成した顔写真まで使って大学への出願を突破したとされている。
デジタル化によって願書提出が簡単になった一方、「写真が提出されているから本人だろう」という前提そのものが危うくなっている。画像生成や顔写真の加工が容易になった現在、写真だけを本人確認の根拠にする方式には限界がある。
英検も本人確認を厳格化
英検側も対策を進めている。日本英語検定協会は2026年度第1回検定から、1級から3級について、試験当日に顔写真付き身分証明書の原本提示を原則必須とした。受験者本人、受験票の写真、身分証明書の3点を照合する仕組みだ。
ただし英検協会によれば、この本人確認強化は今回の事件を受けて急きょ導入したものではなく、2025年から準備していたセキュリティー強化策だという。今回の替え玉受験が行われた2025年9月は、新制度導入前だった。
外部試験を使うなら本人確認も「入試」である
事件では被告個人の責任が問われている。本人は公判で、仕事量が多く、生徒を早く合格させれば業務量を減らせると思った趣旨の説明もしている。もちろん、どんな事情があっても替え玉受験が正当化されるわけではない。
しかし問題を「悪質な塾講師がいた」で終わらせてはいけない。大学が英検やTOEFL、民間資格などを入試に利用すること自体は合理的だ。同じような試験を各大学が何度も実施する必要がなくなるからである。
その代わり、外部試験の本人確認も大学入試制度の一部になる。生成AIで顔まで簡単に加工できる時代に、「写真を提出してください」だけでは本人確認にならない。便利になった入試制度には、それに見合う認証制度が必要である。







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