
不動産価格は上昇基調にある。
国土交通省の令和8年地価公示では、全国の地価は全用途平均で5年連続の上昇となった。一方、令和8年3月適用の公共工事設計労務単価も14年連続の上昇となり、建築費も高水準で推移している。建替え、改修、開発、土地活用の採算は、以前より厳しくなっている。
重要なのは、地価がバブル期を超えたかどうかではない。都心の一等地と地方の低利用地、駅前商業地と郊外の工場跡地とでは、価格の動きも活用可能性も大きく異なる。不動産は全体として値上がりしていても、すべての物件が同じように価値を高めているわけではない。だからこそ企業は、保有不動産の一つひとつに、どのような役割を与えるかを考え直す必要がある。
特に見直しを迫られているのは、中小企業の不動産である。
本社、工場、倉庫、社宅、駐車場、資材置場、賃貸不動産、遊休地——創業以来の土地、先代から引き継いだ工場、使われなくなった社宅など、中小企業の多くが多様な不動産を抱えている。問題は、不動産を持っていることではない。それを経営に活かせているかである。
国土交通省「令和5年法人土地・建物基本調査」によれば、法人所有の宅地等のうち低・未利用地は12.4%を占め、その74.8%は5年前と状態が変わっていない。眠ったままの不動産は、決して珍しい存在ではない。
ここで必要になるのがCRE戦略、すなわちCorporate Real Estate戦略である。企業が保有・利用する不動産を、固定資産や担保としてではなく経営資源として位置付け、事業戦略、財務戦略、事業承継、M&A、資本配分と結びつけて考える視点を指す。
大企業では、不動産を経営資源として戦略的に管理・活用する手法が定着しつつある。しかし中小企業では、不動産は「昔からあるもの」「担保になるもの」「台帳に載っているもの」として扱われがちだ。その結果、不動産の判断は経営判断から切り離される。本社はそのまま使う。工場は古くなれば修繕する。使っていない土地はとりあえず残す。賃貸不動産は賃料が入るから持ち続ける——ひとつひとつは自然な判断に見えても、会社全体で見れば、不動産が資本を固定化し、成長投資を妨げ、承継やM&Aの障害になっていることがある。
中小企業にとってCRE戦略は、成長のためだけの話ではない。経営者の高齢化が進み、事業承継、M&A、時に廃業までが現実的な選択肢となる時代である。そこで問われるのは事業そのものだけでなく、老朽化した本社ビル、使われなくなった工場、低収益の賃貸ビル、自宅兼店舗・作業場など、事業と一体になって残された不動産をどうするかである。後継者が引き継ぐのか、売却するのか、賃貸化するのか、建替えるのか、M&Aの対象に含めるのか——いわば、不動産の終活である。
不動産の終活とは、古い建物を処分することでも、次世代に何を残すかを決めるだけでもない。より重要なのは、残す不動産をどのような形で残すかである。
事業用不動産なら、老朽化や耐震性、修繕計画、資金計画を整理した上で引き継がなければ、残したつもりの資産が次世代の重荷になる。賃貸不動産なら、賃料が入っているだけでは足りず、修繕負担やテナントリスク、将来の建替え・売却余地まで整理しておく必要がある。自宅兼店舗のように事業と生活が一体化した不動産では、権利関係や相続人の意向まで含めた検討が欠かせない。
問われているのは、残すか残さないかだけでなく、どの状態で、誰に、どのリスクとともに引き継ぐかである。
この判断を、不動産単体から始めてはならない。起点とすべきは、会社の将来像である。どの事業を伸ばすのか、どの拠点を残すのか、どの不動産を収益化し、どの不動産を整理し、どの不動産を後継者に引き継ぐのか。そのうえで保有、活用、売却、組み換えを比較し、経営戦略、収益性、資本効率、リスク、将来性の観点から検証して、会社にとって最適な意思決定を導く。
これは大企業だけの課題ではない。むしろ人材や資金が限られ、経営者の判断が会社の将来を大きく左右する中小企業にこそ必要な視点である。不動産価格の上昇や建築費の高騰は、保有不動産を見直すきっかけにすぎない。本当に問われているのは、自社の不動産が会社の未来に貢献しているかどうかである。
中小企業が抱える不動産の中には、まだ十分に活かされていない資産が眠っている。それを単なる固定資産のままにしておくのか、それとも成長、承継、M&A、そして事業の終活を支える経営資源として、次世代が使える形に整えるのか。その分かれ目に立っているのが、CRE戦略である。こういう時代だからこそ、不動産を持つ中小企業にとって、CRE戦略は避けて通れない経営課題になっている。







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