「社内ニートの天国/地獄」論争は「年齢で決まる」

黒坂岳央です。

「社内ニート」をめぐる議論は、いつも真っ二つに割れる。

「仕事をしなくても給料がもらえるなんて最高」「暇な時間に資格試験の勉強をすればいい」といった天国派がいる一方、「毎日8時間も暇なのは拷問」「スキルが身につかず、転職できなくなる」と見る地獄派もいる。

筆者はこれまで会社員として複数の大企業に勤務し、社内ニートと呼ばれるような人をそこそこ見てきた。その経験からいえば、社内ニートの運命は「年齢」で決まると思っている。持論を述べたい。

若い時期の社内ニートは地獄

20代で社内ニートになり、年収500万円をもらいながら毎日ほとんど仕事をしない。表面的には夢のような話に見える。実際、そうした若手ニートも過去に見てきた。だが20代でこの状態は焦った方がいい。

理由はシンプル、若い時期の会社員はスキルや実績がないと発展性が消えるからだ。20代の給与は「将来のポテンシャル」の前借りみたいなものだ。

仕事を任され、失敗し、修正し、少し難しい仕事を任され、後輩を教え、やがてプロジェクトを動かす側になる。20代から30代は、「これからの活躍」を前借りして人的資本が形成される仕組みになっている。

ところが22歳で干され、その後30歳まで社内ニートになれば「ビジネス戦闘力0の30歳」という「リアルニートそのもの」である。こうなったら次の行き先はなくなる。

「だったら暇な時間に資格の勉強をすればいい」という反論もある。もちろん、取り方やキャリアの文脈では資格は非常に効果がある。社内ニート期間を職業訓練期間のように使う価値はある。

しかし、それは「キャリアありき」であることが多い。前職の経験の話が何も出来ず、「こういう視覚を持っています」だと「資格を持ったニート上がり」なだけだ。

人手不足で「とにかく誰でもいいから働いてくれ」という職場なら通用するだろうが、まともな会社が見るのは「資格よりキャリア」なのでまず面接で通らない。

定年間近なら天国

ところが年齢が上がると、これまでの話は全部ひっくり返る。責任のない社内ニートは天国に変わるのだ。

たとえば50代半ばですでに住宅ローンの返済にめどがつき、子育てもほぼ終了。ある程度の金融資産もあって残業も責任もほとんどないならその人の人的資産は「債券」みたいなものだ。

50代ともなれば時間とキャリアは硬直性が高まる。どういうことかというと、20代のうちだと「1年をどう過ごしたか」をしっかり見られるが、50代だとこの時間軸が10倍くらいになるイメージだ。すでに40代まである程度、どういう仕事をしてきたのか説明できるなら、50代から社内ニートをしても大して評価は変わらない。この場合、「どう過ごしたか?」ではなく「給与をもらっているか?」であることが極めて重要になる。

これはつまり若い社員と正反対だ。定年間近なら人的資本の残存利用期間そのものが短いため、その損失は小さくなる。逆に、自由時間の価値は上がる。

「社内ニートが天国」は会社の存続前提

ただし、これまでの話はすべて「勤務先が逃げ切りまで存続している」という大前提が必要だ。ここを無視して「社内ニート最高」と考えるのは危険である。

かつてなら、大企業に入れば定年まで会社が面倒を見てくれるという期待には一定の現実味があった。しかし現在は、黒字企業でも早期・希望退職を募集する時代になった。これは社内ニートにとって非常に重要な変化である。

なぜなら社内ニートとは、見方を変えれば自分の収入を一社の雇用継続に集中投資している状態だからだ。会社にいる限りは問題ない。だが会社側が人員構成を見直した瞬間、社内ニートは「職業」ではなく「リスク」に落ちる。

いざ「転職しよう」と思っても、何年も実務から離れていれば市場で売れる経験がない。社内では高い年収を得ていたのに、社外ではその年収を正当化できる実績がないということも起こり得る。

そしてここでも年齢が効いてくる。20代なら元社内ニートでも仕事は探せるが50代は非正規雇用になる。そうなると収入は半減する。

つまり社内ニートの「天国度」を決めるのは、突き詰めれば残りの労働人生なのである。

筆者は会社員をしている頃、仕事を干されて社内ニートのようになった人がいた。周囲は完全に同じ認識をしていてその人の話題も一切しなくなった。自分が退職後、会社の組織編成が大きく変わったがその人が生き延びたかは分からない。社内ニートは自分の人生を会社に預け、労働市場価値をゼロにするリスキーな行為だ。

社内ニートは何も起きなければ平和で楽な生き方だろう。問題は今の変化と競争が激しい時代、「何が起きても不思議ではない」という点である。

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Z世代を甘やかすな」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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