人間はなぜ永遠に生きられないのか:不老長寿の進化学

不老長寿の進化学 我々はなぜ「死」を選んだのか (新書) / 山田俊弘 (著)+[販売店ノベルティー]2026年09月17日発売 進化生物学 老化 寿命
山田俊弘
2026年9月17日
★★★★☆

不老長寿は人間の夢だが、生物の世界には珍しくない。7000年も生きるサンゴや、若返るクラゲ、3000年も生きる屋久杉など、自然界には長寿の生物はたくさんいる。バクテリアは栄養が続く限り死なない。

ただし長寿の生物も、細胞レベルでは同一ではない。外部からエネルギーを供給して細胞を更新するので、物理的にはつねに死んでは生き返っている。人間にとって死が重要なのは意識をもっているからで、ほとんどの生物にとって個体の死は意味がない。

人間はなぜ死ぬのか

ではなぜ人間は100歳足らずで死ぬのだろうか。この問題には、決定的な答は出ていない。27兆個の体細胞レベルはつねに更新しているので、永遠に生き続ける人がいてもいいはずだ。細胞の更新に失敗して少しずつ劣化していくとしても、サンゴのように7000年生きる人がいてもおかしくない。

よくあるのは「死なないと個体が増えすぎて人類が全滅するからだ」という答だが、これはおかしい。もし全人類の寿命が無限になると人口が増え、食物が足りなくなって弱い個体は淘汰され、適正な人口で安定するだろう。

「世代交代して子孫に道を譲るために親が死ぬ」という説もあるが、何のために道を譲るのだろうか。親が繁殖能力をもっていれば、そのまま生きて繁殖するのが生存戦略としては確実である。事実、多くの単細胞生物は世代交代しないで単に細胞分裂する無性生殖を続ける。

有性生殖という戦略

これは多細胞生物が有性生殖するという問題と関係がある。有性生殖は一見すると無駄のようにみえる。オスがメスを見つけて子孫をつくる不確実性は大きく、多くの場合は失敗する。単純に無性生殖するほうがはるかに簡単である。

ところが多細胞生物の多くは有性生殖である。それは親と半分違うコピーをつくるためだ。細胞の中のDNAは30億個もあり、細胞分裂するたびにコピーされるが、一定の確率でコピーにはミスが生じる。無性生殖では生存にかかわる重大なミスがあると生物が全滅するので、複雑な多細胞生物には進化できない。

それに対して有性生殖では、子は親の遺伝子1対を受け継ぐが、そのうち表現形質になるのは優性の遺伝子だけだ。劣性(劣っているという意味ではない)遺伝子は1対そろわないと形質として出てこない。つまり劣性遺伝子はバックアップのようなもので、環境の変化に対応しやすい。

「赤の女王」仮説

特に多い環境変化はウイルスなどの感染である。無性生殖だとすべての個体の遺伝子が同じなので、ウイルスが感染したら全滅するが、有性生殖だとDNAには半分バックアップの遺伝子が入っているので、優性遺伝子の個体が全滅しても、劣性遺伝子で子孫をつくれば生き残れるかもしれない。

感染症以外の環境変化に対しても、親と少し違う遺伝子を残しておくことが生き残りに有利になる場合がある。ミジンコは環境が一定のときは無性生殖で、環境が悪化すると有性生殖になるという。リスクが大きくなると、資産を分散投資するようなものだ。

多くの生物が有性生殖するのは、なるべく多様な遺伝子プールを残して、さまざまな環境変化に対応するためと考えられる。そのためには古い個体がずっと残るより、常に遺伝子を変化させて多くの個体が生まれるほうがいい。これが赤の女王仮説である。

人間の寿命はなぜメバルより短いのか

では寿命が来たら、なぜ動物は死ぬのだろうか。それは細胞が一定の確率で有害な突然変異を起こすためだ。その代表が癌である。癌細胞は突然変異だが、子供のころは正常な細胞が圧倒的に多いので、変異は成長しない。

しかしその影響は蓄積するので、50歳を過ぎると癌が発症する。生存に不利な遺伝子は子供のときは発現せず、年をとってから発現したときはその子に遺伝しているので、こういう遺伝子は蓄積され、それが寿命の限界になる。

ここから考えると、そういう環境変化の少ない環境では寿命は長くなるはずだ。事実、脊椎動物の中でもメバルは200歳、ニシオンデンザメは400歳など、魚の寿命は長い。これは外敵が少ないためと考えられる。

それに対して哺乳類の寿命は短い。その原因は、2億年前から恐竜と共存したためではないか、というのが最近の仮説である。1億年以上にわたって哺乳類を捕食する恐竜と共存していたため、寿命が短くなり、年をとってから発現する病気の遺伝子が増えた。

捕食されやすいネズミの寿命は3年程度である。ヒトは哺乳類の中では例外的に寿命が長いが、これは医学の発達によるもので、縄文時代の人骨から推定した寿命は15歳ぐらいで、犬や猫と同じである。年をとってから癌になりやすいのは、最初からそういう遺伝子をもっているからなのだ。

 

 

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント