なぜ、疑いもせず英国は移民で治安が悪化したというデマを信じるのか

 

先に結論
  • 英国に抜かれるのは2027年の予測。いまはまだ日本が上。IMFの最新見通しで2026年は日本4.34兆ドル、英国4.27兆ドル。2027年に英国4.49兆ドル、日本4.47兆ドルで逆転。差はたった213億ドル
  • 抜かれる理由の約6割は円安。2012年の為替(1ドル79.82円)で計算すると、2025年の日本のGDPは8.35兆ドルで英国の2倍以上。英国の実質成長の速さが効いているのは1割強だけ
  • 英国の成長の正体は人口増=移民。1人あたりの実質GDPの伸びは、日本+14.4%、英国+12.1%でむしろ日本が上
  • 「英国は移民で治安崩壊」はデータで見る限り事実ではない。暴力犯罪は1995年のピークから78%減、殺人率は1977年以来の最低。純移民がピークだった時期にも殺人は減っていた
  • 英国の研究では、働きに来た外国人は犯罪を増やしていない。財産犯をわずかに押し上げたのは、働くことを禁じられた難民申請者のほう。暴力犯罪はどちらも影響なし
  • 日本は難民等の受け入れが人口あたり英国の約63分の1。外国人労働者を受け入れても、英国の「難民由来の部分」すら起きにくい構造
  • 正直な但し書き:英国でも万引きと詐欺は増えている。グルーミングギャング問題もある。全部「平和で問題なし」ではない。ただしそれは「移民で崩壊」とは別の話

こんにちは。永江です。

IMFが10月13日に出した世界経済見通しで、日本のGDPが2027年に英国とインドに抜かれて世界6位になるという話がニュースになってます。

で、これにセットでくっついてくるのが「英国は移民を入れすぎて治安が崩壊した」「日本もああなる」という話。SNSで毎日のように見かけますよね。根拠は「イギリスに住んでる××さんがそういってる」←ああ、それインプレッションで稼いでいる人ね。

日本人だって日本の治安がどんどん悪くなってると平気で言ってる人がいるが、日本の凶悪犯罪はこうです。人間は昔のことはみんな忘れてしまう。読売新聞の2023記事では犯罪が20年間減り続けていたのに

なんと6割の人は日本がどんどん治安が悪化していると考えている。ニュースで犯罪の報道を見ると治安が悪くなっていると思い込んでデータを見ない。ちなみに殺人などの凶悪犯罪は激減しています。つまり住民がいう「治安が悪くなった」はほとんど錯覚なのです。データ見ないとね。

さて、それでは人口7000万の英国に、人口1億2000万の日本がGDPでなぜ抜かれるのか。そして英国は本当に移民で治安が崩壊したのか。両方とも英国政府の統計とIMFのデータで、全部確かめてみました。結論から言うと、どっちも思い込みとだいぶ違います。

AndreyPopov/iStock

① まず事実関係。日本はまだ抜かれていない

よく「英国に抜かれた」と書かれてますが、まだ抜かれてません。抜かれるのは来年、2027年の予測です。

2026年 2027年
日本 4兆3,420億ドル(4位) 4兆4,676億ドル(6位)
英国 4兆2,684億ドル 4兆4,889億ドル
インド 4兆602億ドル 4兆5,212億ドル
出典:IMF World Economic Outlook, October 2026(日本・インドはIMF DataMapperで確認、英国はBigGo Finance等の報道による)

2027年の英国と日本の差は213億ドル。GDP全体の0.5%もない。為替がちょっと動けばまたひっくり返る程度の差です。4月の時点ではIMFは逆転を2029年と見ていたので、2年前倒しになりました

じゃあ何で前倒しになったか。答えはシンプルで、円安です。
円安容認の髙市さんが総裁になっただけでこうですから。

② 抜かれる理由の6割は円安

国際比較のGDPは全部ドルで比べます。だから円の価値が半分になれば、日本のGDPはドル換算で半分になる。中身が何も変わってなくても。

2012年は1ドル79.82円でした。2025年は平均149.57円。円の価値はほぼ半分です(米FRBの年平均)。

円で見た日本のGDPは2012年の505兆円から2025年の666兆円に増えている。それでもドルで見ると6.33兆ドルから4.46兆ドルに減る。もし為替が2012年のままなら8.35兆ドルで、英国の2倍以上。
出典:内閣府 国民経済計算(2026年4-6月期2次速報)、英国統計局(ONS)、米FRB G.5A年平均為替から筆者計算

見てください。日本のGDPは円で見れば505兆円から666兆円に32%増えてる。なのにドルで見ると30%減ってる。全部、為替のせいです。

じゃあ英国と日本の差が縮まった理由を、為替・物価・実質成長に分けるとどうなるか。計算してみました。

2012年→2025年に英国/日本のドル建てGDP比は0.43倍から0.90倍になった。その内訳を対数で分解した。
出典:内閣府、ONS、米FRBのデータから筆者計算

為替が6割、物価の差が4分の1、実質成長の差は1割強。英国は2012年からの13年で物価(GDPデフレーター)が44%上がってます。日本は19%。インフレが高い国はGDPが膨らむので、その分も英国が有利に見える。

つまり「英国の経済がすごく伸びて日本を抜いた」わけじゃないんですよ。日本が円安で勝手に縮んだのが主因。

円安の根っこは金利差と生産性

じゃあなぜ円安なのか。いちばん分かりやすいのは金利差です。英中銀の政策金利は3.75%、日銀は9月に引き上げてやっと1.25%程度 。2.5ポイントも差があれば、お金は金利の高いほうに流れる。しかしいまだに髙市さんはなんとかして日銀に金利を上げさせないようにできないかと会議を開いているらしい(報道ベース)

もう一つは生産性。日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2025」で、日本の時間あたり労働生産性は60.1ドル、OECD38カ国中28位。英国は83.5ドルで16位です。稼ぐ力が弱い国の通貨は、長い目で見れば売られます。

③ 英国の成長の正体は「人口増」。1人あたりなら日本が上

ここが一番面白いところ。実質GDP(物価の影響を除いた中身)の伸びを2012年→2025年で比べると、英国は+22.3%、日本は+10.5%。英国の勝ちに見えます。

でもこれを1人あたりに直すと逆転する。

英国の人口は2012年の6,370万人から2025年の6,948万人に9.1%増えた。日本は1億2,752万人から1億2,322万人に3.4%減った。
出典:内閣府、ONS、総務省人口推計から筆者計算 【要確認】英国2012年人口は改定前の値

英国は13年で人口が580万人近く増えてます。2025年半ばまでの1年でも人口増22万7,700人のうち、移民による増加が22万2,900人、自然増はたったの4,900人。英国の成長は移民が支えてるわけです。

皮肉ですよね。「移民で英国は崩壊した」と言う人がいる一方で、英国が日本を抜く原動力は、その移民による人口増。働く人が増えれば、GDPは増える。当たり前の話です。

逆に日本は、1人ひとりはそこそこ頑張ってるのに、人が減って、通貨が安くなって、ドルで見ると縮んでいく。これが「抜かれる」の正体です。

④ で、英国は本当に移民で治安崩壊したのか

ここからが本題その2。「英国は移民で治安が崩壊した」。これ、英国政府の統計をいくら探しても、裏付けが出てきません。現実は真逆なんです。

英国の犯罪の長期トレンドを見るときに使うのは、英国統計局(ONS)の犯罪被害調査(Crime Survey for England and Wales)です。実際に家庭を訪ねて「この1年で犯罪に遭いましたか」と聞く調査で、警察に届けない被害まで拾える。ONS自身が「長期トレンドを見るには警察の記録よりこっちのほうが優れている」と書いてます。

2026年3月期の件数は、ONSが公表した1995年ピークの件数と減少率から筆者計算。
出典:ONS, Crime in England and Wales: year ending March 2026(2026年7月23日)

暴力犯罪は1995年のピークから78%減、窃盗77%減、器物損壊81%減。崩壊どころか、30年かけて4分の1以下になってます。

殺人は1977年以来の最低
2002年3月期の値はシップマン医師による連続殺人の被害者を除いたもの。
出典:ONS, Homicide in England and Wales: year ending March 2025(2026年2月5日)ほか

殺人の被害者は2025年3月期で522人。人口100万人あたり8.6人で、1977年以来の最低です。刃物による殺人も205人で前年から21%減。警察の記録で見ると、刃物殺人は1991年以来の少なさ。

ちなみに国際比較するとこんな感じ。

英国は2021年、他は2023年の値。統計の定義が国ごとに違うので目安として見てください。
出典:UNODC(世界銀行のデータベース経由)

日本が飛び抜けて安全なのは事実。でも英国は欧州の中で普通の水準で、米国の5分の1。「崩壊」という言葉はさすがに当たらない。

⑤ 移民がピークの時期に、殺人は減っていた

英国の純移民(入ってくる人−出ていく人)のピークは2023年3月期の94万4,000人。ここ数年が移民の最大の波だったわけです。2025年は17万1,000人まで減りました(ONS)。

もし「移民が増えると治安が崩壊する」なら、2022〜2024年あたりに殺人や暴力犯罪が跳ね上がってないとおかしい。でも実際は殺人も刃物殺人も暴力犯罪も、ずっと減り続けてる。

刑務所も見てみましょう。

出典:英国司法省 Offender management statistics quarterly(2026年7月30日、収容者は2026年6月30日時点)、オックスフォード大学Migration Observatory(成人人口の推計、2025年)

刑務所にいる外国籍の人は1万134人で、収容者全体の12%。成人人口に占める英国籍以外の割合は約13.5%なので、人口比とほぼ同じか、むしろ少ない。しかも外国人は若い人が多いので、年齢をそろえるとさらに比率は下がります。

ちなみにMigration Observatoryによると、英国籍以外の人の有罪判決は薬物と詐欺で多く、暴力犯罪ではむしろ少ない。

⑥ 犯罪を少し押し上げたのは「働けない難民申請者」だった

ここが今回いちばん言いたいところ。英国には、難民と外国人労働者で犯罪への影響が違うことを直接比べた研究があります。

経済学者のBell、Fasani、Machinの3人が2013年に経済学の専門誌に出した論文です。英国が経験した2つの大きな移民の波を比べました。

移民の波 どんな人たち 財産犯への影響 暴力犯罪への影響
1990年代末〜2000年代初頭 難民申請者 小幅だが増加 影響なし
2004年のEU東欧拡大 ポーランドなどからの労働者 わずかに減少(統計的に有意でない) 影響なし
出典:Bell, Fasani & Machin (2013) Review of Economics and Statistics 95(4)、2010年版

Migration Observatoryの要約では、地域の人口に占める割合が1ポイント増えるごとに、難民申請者なら財産犯が1.1%増、東欧の労働者なら0.4%減。暴力犯罪はどちらも影響なしです。

で、なぜ差が出たのか。論文の答えははっきりしてて、「働けるかどうか」です。

出典:Bell, Fasani & Machin 2010年版 表2A・2B

東欧から来た人は9割が働いていて、失業率は6.3%。働くために来たんだから当然です。一方の難民申請者は労働参加率が半分以下で、失業率は3割超。

なぜかというと、英国では難民申請者は原則として働くことを禁止されているから。英国政府の説明では、申請から12ヶ月たっても結論が出ていない場合に限って就労許可を申請できて、しかも働ける職種は限られます。その間の生活支援は1人週49.18ポンド(約1万円)。

働けない、お金もない、やることもない若い男性を一か所に集めたらどうなるか。犯罪が多少増えるのは、国籍の問題じゃなくて境遇の問題なんですよ。日本人だって同じ状況に置かれたら同じことが起きる。

実際、スイスの研究(American Economic Review, 2019年)では、子どもの頃に紛争を経験した難民申請者は暴力犯罪に走る傾向が35%高いが、その差は、働く機会を与えるだけで3分の2が消えたと報告されています。

ちなみにもう一本、同じMachinらの2013年の論文は「移民が犯罪に平均的な因果効果を持つという証拠は見つからない」と結論づけてます。

前に「難民と外国人労働者は全くの別物。混同して移民反対するな」という記事を書きましたが、英国のデータはそれをそのまま裏付けてます。

⑦ 日本が外国人労働者を入れても、英国のようにはならない

ここまでを日本に当てはめると、答えは明快です。日本はそもそも難民をほとんど受け入れていない。

英国は難民保護等の許可4万2,394人(英国内務省)、日本は難民認定187人+補完的保護474人+人道配慮による在留許可525人の計1,186人(出入国在留管理庁、2026年3月27日公表)。期間は英国が2025年7月〜2026年6月、日本は2025年。人口から筆者計算

英国は1年で4万2,394人に保護を認めてます。日本は難民認定がたったの187人。補完的保護や人道配慮での在留許可を全部足しても1,186人。人口あたりで比べると英国の約63分の1です。

日本が受け入れてる外国人の中心は、働くために来る人です。前の記事で計算したとおり、在留資格別の検挙率で見ると、特定技能は日本人の0.62倍、技術・人文知識・国際業務は1.08倍。働くために来た人は、日本でも犯罪を増やしてない。

英国で犯罪をわずかに押し上げたのは「働けない難民申請者」。日本はその層をほとんど抱えていない。つまり日本が外国人労働者を増やしても、英国の「難民由来の部分」すら再現しにくい構造なんです。

ただし正直に書いておくと、日本にも難民認定の申請者は年に1万1,298人いて、審査中の人がいます。英国の教訓は「難民申請者を働けない状態で長く放置するな」ということ。日本も申請者の扱いをきちんと設計しないと、同じ問題は小さく起こり得ます。

⑧ 正直に言うと、英国で悪化しているものもある

ここを隠すとただのポジショントークになるので、ちゃんと書いておきます。

出典:ONS, Crime in England and Wales: year ending March 2026

万引きは2025年3月期に53万643件で、今の記録方法になった2003年以降で最多。2026年3月期は4%減ったけど高止まりです。詐欺も犯罪被害調査で450万件と、2017年より32%増えてる。

それからグルーミングギャング(組織的な児童の性的搾取)の問題。2025年6月の政府の全国監査(ケーシー監査)は、調べた3つの警察管区のデータで容疑者に「アジア系の男性が不釣り合いに多い」と指摘しました。同時に、加害者の3分の2は民族が記録されておらず、全国データでは結論を出せないとも書いてます。

小型ボートでの密航も2025年は4万1,472人で前年から13%増えました(英国内務省)。2026年6月までの1年では23%減っています。

ただ、万引きや詐欺の増加は物価高やネット犯罪の拡大と重なっていて、「移民で治安崩壊」の証拠にはなりません。問題は問題として、原因を正しく見ないと対策を間違えます。

⑨ なぜみんな「崩壊した」と信じるのか

英国人自身も「犯罪が増えてる」と思い込んでます。日本人と同じだ。www
キングス・カレッジ・ロンドンが2026年に出した調査では、国全体で犯罪が増えると思う人が65%、でも自分の住む地域では40%。

携帯電話の盗難が増えたと思う人は83%。実際は約70%減ってる。自分の周りは平気なのに、ニュースとSNSで見る「どこか遠くの英国」はどんどん危なくなっていく。

その典型が2024年のサウスポート事件。子どもが犠牲になった刺傷事件の直後に「犯人は小型ボートで来たムスリムの移民」という偽情報がSNSで拡散して、各地で暴動になりました。実際の犯人はカーディフ生まれの英国人です。

日本で「英国は移民で崩壊」と言ってる人の多くは、この手の切り抜き動画と偽情報を、海を越えて受け取ってるだけ。英国人ですら騙されてるのに、日本から英国の治安がわかるわけがない。

最後に

まとめると、日本が英国に抜かれる理由は円安が6割。英国の実質成長を支えたのは移民による人口増で、1人あたりなら日本のほうが伸びている。

そして英国の治安は崩壊していない。暴力・窃盗・器物損壊の被害は30年で4分の1以下、殺人は1977年以来の最低。犯罪をわずかに押し上げたのは働けない難民申請者で、働きに来た人じゃない。その難民を日本はほとんど受け入れていない。

「英国みたいになるから外国人は入れるな」と言う人がいたら、聞いてみてください。英国みたいにって、殺人が1977年以来の最低になること?って。最高じゃん。ww

【今日のどうでもいい話】

ヘイトスピーチをする人はたいていパスポートも持っていないし海外にも行ったことが無い。ロンドンに行ってみなよ。治安悪くないから。ww 大英博物館面白いぜ。イギリス人のデービッド・アトキンソンさんが日本は観光で食っていこうとわたしと同じ事を言ってます

この記事の検証について
原典確認済み:IMF(日本・インドの値と公表日)、英国統計局(犯罪被害調査、殺人統計、移民統計、GDP、人口、就業者数)、英国司法省(刑務所統計)、英国内務省(難民保護の許可数、小型ボート、難民申請者の就労規則、生活支援額)、内閣府(日本のGDP)、総務省(人口推計)、出入国在留管理庁(難民認定者数)、米FRB(為替)、英中銀(政策金利)、日本生産性本部(労働生産性)、Bell, Fasani & Machin(2010年版の表)、Jaitman & Machin、スイスの研究(要旨)、ケーシー監査、サウスポート事件の量刑判決文、キングス・カレッジ・ロンドン(プレスリリース)
報道・二次情報ベース:英国のIMF値(2026年・2027年)、日銀の政策金利(約1.25%)、難民申請者・東欧労働者の財産犯への影響の大きさ(Migration Observatoryの要約)、4月時点の逆転予測年(2029年)
確認できなかった主なもの:KCL調査の「実際の変化」の元データ、英国2012年人口の改定後の値、日本の難民申請者の就労ルール

編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年10月15日の記事より転載させていただきました。

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