
帝国データバンクが2026年8月28日に公表した7月の調査では、コスト上昇分を販売価格に反映する度合いを示す「価格転嫁率」は39.9%だった。
価格への転嫁が十分に進まないなか、仕入れ先や商品仕様の見直しも経営上の選択肢になる。しかし、費用を減らす変更によって、顧客が選んでいた理由まで失うとしたら、どうだろうか。
この判断には、顧客の年齢や職業を知っているだけでは足りない。顧客像を経営に役立てるには、その人が商品にどのような価値を感じているのかを説明できる必要がある。その理由は、購入者の先にいる人との関係に現れることもある。
先生が買う理由は、生徒との関係にもあった
私は、父が創業したオリーブオイル輸入販売業に約22年間携わった。父が有力な顧客層として着目していたのが、料理教室の先生だった。
先生は料理をするので、オリーブオイルを使う。職業だけを見れば、そのように説明できる。しかし、私自身は当時、この顧客層には、食材を探究し、その魅力を人に伝えるという特性があると考えていた。
特徴のあるオイルの使い方を研究し、料理やテイスティングを通じて生徒に伝える。それは、先生自身の専門性を発揮し、授業の内容を豊かにする機会になる。さらに、商品を体験した生徒が、購入を希望することも想定していた。
実際に全国で10名以上の先生から、商品を愛用していることを直接教えていただいた。なかには、約20年間使い続けてくださった方もいた。先生方は授業で使うだけでなく、生徒にも販売してくださっていた。
電話では、生徒から商品をねだられるという趣旨の話を聞いた。長年通う生徒について、このオイルを使うと辞めてくれない、と冗談交じりに話す先生もいた。これらは当時の会話の記憶に基づくものだ。
教室に通い続ける理由をオイルだけで説明することはできない。ただ、先生の言葉からは、食材も授業の魅力を構成する要素として受け止められていたことがうかがえる。
先生が使い、生徒が味わい、商品を欲しくなる。先生方との会話から、商品の価値が購入後の体験を通じて伝わっていたことがうかがえた。そこには、職業だけでは見えない、選ばれる理由の手がかりがあった。
仕入れの変更は、その先の体験も変え得る
ある先生からは、価格の安いオリーブオイルに替えたところ、生徒に不評だったという話も聞いた。
この話は、仕入れる人の判断が、その先で料理を味わう人の体験にも影響し得ることを示している。
仕入れ費用を減らすことは、教室の経営にとって大切だ。一方、先生が購入する食材は、生徒に提供する授業の一部でもある。購入者の費用だけを見ていると、その人が顧客に届けている価値への影響を見落とすことがある。
この問いは、食品以外にも応用できる。例えば、顧客企業が利用するサービスの内容を簡素化するとき、その企業の費用や手間だけでなく、その先の利用者にどんな影響があるかも検討の対象になる。
顧客像を、変更の影響が分かる理解へ
マーケティングでは、想定する顧客の人物像を「ペルソナ」として整理する。属性だけでなく、悩みや行動、目的を理解することにも意味がある。問いたいのは、人物像を作ったところで、商品との関係を考える作業が止まっていないかということだ。
まず、顧客は商品をどのような場面で使っているのか。次に、それによって本人やその先にいる人が何を得ているのか。そして、商品や価格の変更は、そこにどのような影響を与えるのか。この順に考えると、顧客像が判断に使える理解になる。
想定した「選ばれる理由」は、実際の使われ方や顧客の言葉に照らして確かめる。一致していれば理解を深め、異なっていれば修正する。
選ばれる理由を理解しても、商品の変更を避けるという答えが自動的に出るわけではない。採算との兼ね合いもある。大切なのは、変更によって何が失われるかを把握し、何を守り、何を変えるかを判断することである。
顧客像を経営判断に役立てるには、自社の商品が顧客の生活や仕事の中で何を支えているかまで捉える必要がある。選ばれる理由を理解することが、価格や商品を見直す際の判断軸になる。







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