フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領とノルウェーのヨーナス・ガール・ストーレ首相は27日、ロシアのプーチン大統領と電話会談した。北欧の指導者にはウクライナの停戦の可能性についてプーチン氏と直接話し合い、同氏の本音を探り出す狙いがあったという。ただし、欧州連合(EU)や同盟国に通達もなく、プーチン氏と会談したことに対して、EU内で批判的な声も聞かれた。

第3回ロシア・アフリカ経済人道フォーラム全体会議の開会式で演説するロシアのプーチン大統領,2026年10月28日、 クレムリン公式サイトから
ストゥブ大統領とストーレ首相は当初、プーチン氏との会談はせいぜい30分程度と予想していたが、実際は90分と長時間に及んだという。ただし、プーチン氏は北欧の2人の指導者の問いかけに対して返答はせず、もっぱら「ウクライナ紛争の根本原因」について話し出し、スラブ民族の中世史に関する講義を始めたという。
その講義の結論は「ウクライナはロシアに帰属する」というプーチン氏のナラティブに戻る。その意味でプーチン氏の主張には新鮮味は欠けるが、あえて言うならば、プーチン氏は歴史的な観点ばかりか、「最新の遺伝学研究の成果」を持ち出して自身のナラティブを膨らませてきているのだ。
プーチン氏は2021年に「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文を発表し、「ロシアとウクライナは9世紀のキエフ大公国(ルーシ)という共通の起源を持つ」という歴史的・文化的な観点から自説を展開させてきた。しかし、プーチン氏はそれだけでは十分ではないと感じ出したのか、今年10月、国営テレビとのインタビューの中で、遺伝学的必然性を持ち出してきてウクライナの国家としての独立や独自の民族性を否定しているのだ。
換言すれば、プーチン氏のナラティブは、聖ウラジーミルの再臨という宗教的、歴史的な書割からだけではなく、最新の遺伝学研究の成果を加えることで科学性を付け加え、一層強固な世界観を構築したというわけだ。ただし、最新の遺伝子研究について具体的な内容までは踏み込んでいない。
北欧の2人の指導者がプーチン氏の強化されたナラティブに対してどのような感想を吐露したかは残念ながら外電は報じていない。ノルウェーとフィンランドが主導した取り組みに対し、他の欧州諸国の首脳から批判が寄せられたこともあって、ストゥブ氏は「我々はロシアの隣国である。この戦争の結末は、我々の安全保障、ひいては欧州全体の安全保障に直接的な影響を及ぼす」と付け加え、「戦争を終結させるには直接対話が必要だ」と弁明している。
参考までに、プーチン氏が自身のナラティブに「最新の遺伝学研究成果」を持ちだしたのは同氏の長女マリア・ヴォロンツォワ氏からの入れ知恵があったからではないだろうか。曰く「パパ、遺伝子研究ではウクライナはロシア民族よ」といったふうにだ。ちなみに、彼女は、「内分泌学」および「小児内分泌学」を専門とする医学者・科学者だ。そしてロシア政府が資金を拠出する国家的な遺伝子研究プロジェクトを率いているとされている。
いずれにしても、プーチン氏のナラティブが今日、歴史的、文化的側面だけではなく、科学的側面からも強化されたとすれば、プーチン氏は近未来、ウクライナとの停戦に応じる可能性はゼロに近いという結論になる。
ただ、米国の中間選挙が終わるまではトランプ米大統領のメンツをつぶすことは避けるだろう。ポスト中間選挙に入れば、プーチン氏はウクライナに対してこれまで以上に激しい攻撃を仕掛けてくることが予想される。北欧の2人の指導者のプーチン氏との電話会談はそのことを明らかにしたという点で少なくとも完全に無駄なことではなかった。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年10月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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