ガソリン補助という盛大バラマキより、HV・EVに買い換える補助金にしたらどうなるか

先に結論
  • ガソリンの値引きに1日約59億円。1年続けば約2.17兆円が燃えて消えます。しかも燃費の悪い車をたくさん走らせる人ほど得をする仕組み
  • 提案は3本立て。10年以上たったガソリン車から安全装備付きのハイブリッド・EVへの買い換えに1台30万円(対象は登録車だけで1,500万台超)、充電器を2030年目標の30万口まで整備、地方の低所得高齢世帯にだけ年3万円の燃料クーポン(マイナンバーカード方式)。古い車の廃車は条件にしません。下取りでも輸出でもOK
  • それでも約1.4兆円が浮く。充電網の整備費はガソリン補助のたった33日分
  • 正直に書くと「景気が良くなる」とまでは言えない。初年度GDPは−0.09%〜+0.21%。言えるのは「景気をほとんど冷やさずに1.4兆円とCO2削減が手に入る」ということです

こんにちは。永江です。

高市さんがガソリン補助の見直しを指示して、自民党は12月から抑える基準を毎月5円ずつ上げる提言を出しました(KAB)。小林政調会長いわく「1日あたり100億円を超える国費、血税」を使っているそうです(KAB)。

で、ここで必ず出てくるのが「田舎は車が複数台あるから補助をやめたら死ぬ」という声。わたしはずっと思ってたんですよ。そのお金、燃やすんじゃなくて車の買い替えと充電スタンドに回した方がよくない? と。インドネシアやベトナムに行くと新車ばかり走っているが、日本では特に田舎は古いリッターカーや軽ばかり。
欧州ではガソリン高で実際に何が起きたのか、日本でやったらいくら浮くのか、ちゃんと計算してみました。

① いまのガソリン補助は、燃費の悪い車ほど得をする

政府は2026年3月11日の総理指示で、ガソリンの全国平均を170円程度に抑える補助を始めました。170円を超える分を全額、石油元売りに補助する仕組みです(資源エネルギー庁)。補助単価は10月29日から過去最高の1リットル52.4円(KAB)。

この単価で経産省の2026年度ガソリン需要見通し4,138万kL(経済産業省)を賄うと、ガソリンだけで年約2.17兆円、1日約59億円。軽油と灯油も入れると年約4.3兆円です(筆者試算)。

問題は配り方。1リットルいくらの値引きは、燃費の悪い車をたくさん走らせる人ほどたくさんもらえる。IMFの分析では、ガソリン補助の恩恵は80%超が所得上位40%に流れます(IMF、途上国のデータ)。困ってる人を助けるつもりで、実は余裕のある人に一番配ってるわけです。

② 欧州では、ガソリン高と購入補助でEVが一気に伸びた

同じイラン危機で、欧州はガソリン価格をほぼそのまま上げました。そしたらどうなったか。

出来事 数字
EUのガソリン価格(2026年3月・4月) +12.4%、+18.8%
同じ月のEV新規登録 +14.3%、+21.7%
燃料税を下げた9か国 それでもEVへの移行は鈍らなかった
EUのEVシェア(2026年1〜9月) 22.7%(前年同期16.1%)
ガソリン車の登録(同) −19.1%

充電器が多くて充電代が安い国ほど伸びが大きかった、というのもポイント(同論文)。日本みたいに170円でピタッと固定すると、この「値段の合図」自体が消えちゃうんですよね。

ただし値段だけじゃ定着しない

過去の燃料高によるEVシフトは、政策の裏付けがないと値段が下がった途端に元に戻っています(Allianz Trade)。ドイツは購入補助を打ち切った翌年の2024年、EV販売が27.4%減りました(Inovev)。で、2026年から約30億ユーロで約80万台を支援する所得連動の補助を再開(欧州委員会の代替燃料観測所)。9月のEVシェアは補助のあるフランス41.7%、ドイツ34.5%、イタリアは7.6%です(GoodCarBadCar)。

つまり値上がり+購入補助のセットで動く。日本は新車の多くが国内メーカーのハイブリッド車なので、乗り換え需要が国内生産に向かいやすい。つまり景気が回る。自動車産業に従事している人たちは下請けなどを含めると500万人もいるんです。ここは中国車が伸びた欧州より有利です。
ついでに高齢者の事故が多発しているのでカメラとレーダーの安全機能付きの車限定にします。

③ 提案:値引きをやめて、3本立てに振り替える
施策 中身 費用(億円)
乗り換え補助 10年以上たったガソリン車から、安全装備付きのハイブリッド・EVへの買い換えに1台30万円。予算枠で年150万台 4,500(毎年)
充電網 2024年度末の6.8万口を、2030年目標の30万口(うち急速3万口)まで 約2,000(一度きり)
燃料クーポン 車がないと暮らせないが買い換える余裕のない住民税非課税の高齢世帯(約300万世帯)に年3万円 約900(毎年)
出典:充電器の現状と目標は経済産業省・経済産業省。台数・単価・設置費(急速1口500万円、普通1口50万円)は筆者の仮定

合計で年約7,400億円。ガソリン補助1年分の3分の1くらいです。充電網を目標まで全部作っても、ガソリン補助の約33日分。なんでこれをやらないのか不思議でしょ。

対象になる車は何台あるのか

条件は「10年以上たったガソリン車からの買い換え」。じゃあ対象は何台あるのか。初度登録年度別の保有台数から数えました。

区分(乗用車、軽を除く) 台数 割合
保有台数(2024年3月末) 3,875万台 100%
うち2014年3月以前に登録(=10年超) 1,525万台 39.3%
うち2016年3月以前に登録(いまの「10年超」の目安) 1,944万台(2024年3月末時点) 50.2%

つまり登録車だけで1,500万〜1,900万台くらいが対象候補。全部に30万円を出したら4.6兆円を超えちゃうので、予算枠で年150万台に絞ります。それでもおよそ10年で一巡する計算です。

注意点が2つ。この数字にはハイブリッド車やディーゼル車も入っていて、ガソリン車だけの内訳は公表データで見つけられませんでした。ハイブリッドの保有は軽も含めて2024年度に1,716万台まで増えていますが(国土交通省)、10年超の車の多くは普及前の世代なので、大半はガソリン車のはず。もう1つ、軽自動車はこの統計に入っていません。地方で多い古い軽を入れると、対象はさらに増えます。

④ 古い車の廃車は条件にしない

買い替え補助というと「古い車を廃車にしたら」が定番ですが、これはやめます。日本の中古車は海外に輸出されて、まだまだ走れる。わざわざ潰す理由がない。米国の買い替え補助「Cash for Clunkers」では、下取り車を壊させたせいで中古車が減って値段が上がり、低所得層が困ったという指摘もあります(Cato Institute、意見記事)。

下取りに出すも、売るも、輸出業者に回すも自由。売れた分は家計に入るので、乗り換えの負担も軽くなります。

ただし正直に書いておくと、手放した車が国内で中古車として走り続ければ、日本全体の燃料とCO2の削減は小さくなります。輸出されれば日本の燃料輸入は減るけど、地球全体のCO2は減らない。このへんは後の「正直な但し書き」でもう一度触れます。

⑤ 高齢ドライバーには「3つの安全機能」を条件に

75歳以上が起こす死亡事故は2026年上半期に202件で、前年同期から約14%増。免許10万人あたりでは75歳未満の約2.2倍です(警察庁の発表をベストカーWebが報道)。

事故の種類(2025年) 75歳以上 75歳未満 効く安全機能
車両単独(壁・電柱に衝突、道路から飛び出し) 47.1% 19% 車線はみ出しの抑制、踏み間違い防止
車両相互 29.5% 38.7% 自動ブレーキ、車線はみ出しの抑制(正面衝突)
人対車両 23.1% 42.1% 歩行者を検知する自動ブレーキ
出典:警察庁資料(ホンダの安全運転資料に掲載)

カメラで人を見分ける自動ブレーキは、追突だけじゃなく人をはねる事故も防ぎます。ただ歩行者の死亡事故の約71%は夜(国土交通省、平成29年)。なので夜でも歩行者を検知できる性能まで条件にしたい。

高齢者の事故で一番多い単独事故には、ハンドルを制御して車線のはみ出しを抑える機能が効きます。対向車線への飛び出しも防げる。国交省は警告だけの装置より最大でおよそ2倍の効果を見込んでいます(国土交通省)。米IIHSの分析では、警告だけでも対象の事故が11%、負傷事故が21%減りました(Automotive Fleet)。

というわけで補助の条件は、①夜間対応の対歩行者自動ブレーキ、②踏み間違い防止、③ハンドル制御つきの車線はみ出し抑制、の3点セット。これで3種類の事故すべてに手が届きます。2020〜21年には65歳以上向けの「サポカー補助金」(登録車10万円など)という前例もある(国土交通省)。

⑥ 燃料クーポンは申請制、マイナンバーカードで

全員への値引きをやめて、困る人だけに渡す。フランスがまさにこれをやりました。2022年末に値引きをやめて、2023年からは所得の低い半分の通勤者に100ユーロ。最大コストは10億ユーロ(フランス政府)。その前の値引きは約80億ユーロかかってました(Public Sénat)。

クーポンは申請制。手間をかけてでも欲しい人に配るのは、経済学では必要な人に給付を集める方法として昔から論じられています(Nichols & Zeckhauser 1982)。申請が面倒でやらない人は、まあそこまで困ってないってことです。とはいえ手間が増えると所得や学歴の低い人ほど申請しなくなるという実証もあるので(Deshpande & Li 2019)、家族やケアマネジャーの代理申請はOKにしておく。

転売対策は、マイナンバーカードに登録して給油のときにカードをかざす方式。12桁の番号そのものは使いません。番号の利用は社会保障・税・防災に限られていて、勝手に集めることも禁止されてるからです(総務省)。前橋市のタクシー補助「マイタク」は、紙の利用券が不正利用されたのをきっかけにカード方式へ切り替えました。2022年8月末の登録者は32,005人(内閣官房)。もうできてる仕組みなんですよ。

⑦ 「田舎は車が複数台だから困る」への答え

地方ほど車に頼ってるのは事実です。自家用乗用車の1世帯あたり台数は福井1.670台、東京0.405台(2025年3月末、自動車検査登録情報協会)。軽自動車は長野で100世帯あたり104.5台(全軽自協の調べを共同通信が報道)。

でも複数台は昔からです。全国の1世帯あたり台数は2009年3月末で1.086台、今より多かった(自動車検査登録情報協会)。その前年の2008年8月、ガソリンは補助なしで185.1円(資源エネルギー庁の発表をロイターが報道)。20年前は補助なんかなくても生きてたわけです。

ただし公平に言うと、当時は2009年1月に106円まで下がりました(MotorFan)。今は補助がなければ約222円(170円+52.4円、筆者試算)で、しかも長引いている。だからこそ値引きじゃなくて、燃費のいい車への乗り換えを支える方が筋が通る。

古い車は燃費が悪い。新車の平均燃費は2011年の17.8km/Lから2017年の22.0km/Lに伸びました(環境省、JC08換算)。2011年ごろの車は同じ距離で約24%多くガソリンを使う計算です(筆者試算)。乗用車(軽を除く)の平均車齢は9.44年で31年連続の過去最高(自動車検査登録情報協会)。今の値引きは、燃費の悪い古い車に一番税金を流してるんです。定額のクーポンなら、たくさん使っても額は同じ。燃費を良くする動機が残ります。

⑧ 試算:1.4兆円が浮いて、景気はほぼ中立

ガソリン補助を今の単価で1年続けた場合と比べました(中央シナリオ、1年あたり)。

項目 結果
浮く財源 約1.43兆円(補助2.17兆円−振り替え先約7,400億円)
充電網の整備費 ガソリン補助の約33日分
初年度のGDP +0.05%(悲観−0.09%、楽観+0.21%)
CO2削減 乗り換えで年124万t、補助終了の値上がりで年約1,000万t
乗り換えた家計の燃料代 合計で年約1,200億円の節約(1台年357L)
物価 補助を全部やめるとCPIコアが約0.6ポイント上昇
交通事故 75歳以上50万人の乗り換えで死亡事故が年約7件減少
出典:筆者試算。前提と出典は下の段落
初年度GDPへの効果(中央シナリオ、億円)。筆者試算

景気への効果は、新車がどれだけ上乗せで売れるかで大きく変わります。補助をやめると家計の燃料代は約1.9兆円増えて、その分の消費が減る。一方で乗用車は1の需要が2.7倍の生産を生む産業なので(経済産業省)、国内生産の車が売れればそれを埋められる。

前提(乗り換え台数、設置費、消費の減り方など)は全部わたしの仮定です。燃料の需要は経産省の需要見通し、実走燃費とCO2排出係数は環境省(燃費参照値・排出係数)、値上がりによる需要減は価格弾力性−0.34(京都産業大学)、物価は第一生命経済研究所の20円縮小時の試算を線形に延ばしたもの。名目GDPは内閣府の2025年度669.4兆円。事故の損失は死亡1人2.44億円(内閣府)で、年約18億円と金額では小さいです。

正直な但し書き
  • 景気の押し上げは一時的かも。米国のCash for Clunkersは2か月で36万台を上乗せしたけど、大半は直後に買うはずだった分の前倒しでした(Mian & Sufi)。試算のGDPはその反動を入れていません
  • 輸出・転売で効果は薄まる。試算の燃料とCO2の削減は、手放した古い車が日本の道路から消える前提。国内で中古車として走り続ければ小さくなります
  • 家計の負担は大きい。補助をやめると燃料代は約1.9兆円増え、クーポン900億円で埋まるのは一部。
  • 地方の反発。フランスでは2018年、燃料税の引き上げが「黄色いベスト運動」を招いて増税が凍結されました(la finance pour tous)。クーポンを先に配っておくのが前提
  • CO2の数字には幅がある。値上がりでの約1,000万tは、1999〜2008年のデータの弾力性を約31%の値上がりに当てはめたもの
  • 補助単価は毎週変わる。全部「52.4円が1年続いたら」の数字。原油が下がれば補助も浮く財源も小さくなります
最後に

値引きに使ったお金は、燃やしたら何も残らない。同じお金で、燃費のいい車と、充電網と、高齢者の安全装備が道路に残る。困ってる人にはクーポンで手当てすればいい。

「田舎が困る」を理由に全員に配り続けるのは、困ってない人にいちばん多く配ってるのと同じです。バラマキの言い訳に地方を使うのは、もうやめた方がいいと思うんですけどね。

この2ヶ月で体重を6キロ落とした私ですが、プロテインバーに支えられているといっとても過言ではない。プロテイン28g入りのこれで生きております www

アミノバイタル
¥4,818(2026/10/31 12:09時点)
この記事の検証について

この記事の数値・固有名詞・日付・引用は、1件ずつ出典に当てて確認しました。全件を一次資料で確認できたわけではないので、内訳を書いておきます。

  • 原典確認済み:30件(政府・研究機関の資料、論文など)
  • 報道・二次情報ベース:15件(補助単価52.4円と自民党の提言、EUの登録台数、75歳以上の死亡事故、2008年のガソリン価格、Cato Instituteの指摘など)
  • 確認できなかった主なもの:本文には入れていません(2022〜2025年のガソリン補助の累計額、新車の自動ブレーキ義務化の時期)
  • 試算の台数・単価・設置費・消費の減り方は筆者の仮定で、計算は筆者によるものです。10年超の車のうちガソリン車だけの台数と、軽自動車の車齢別台数は公表データで見つけられませんでした

編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年10月31日の記事より転載させていただきました。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント