AI狂騒曲:止まらない情報流出、激化する米中対立、日本はどうする?

止まらないサイバー攻撃と個人情報流出

日本企業への不正アクセス、個人情報流出のニュースが連日世間を賑わせている。AIの飛躍的進歩がもたらした災厄であることは間違いない。延べ人数で日本の人口の約2倍の個人情報が既に流出しているようだが、ここからどこまで被害が拡大するのか不安は募る。

流出数もさることながら、流出内容も深刻さを増してきている印象だ。初期の頃は、せいぜいメールアドレスくらいであったが、最近は、免許証の画像データ(Times)、個人の取引アカウント(GMO)、クレジットカード番号やセキュリティコード(グッドスマイルカンパニー)などとなってきており、「詐欺メールに注意」というレベルでは防ぎようもなくなっている。

個人情報の流出だけであれば具体的な被害は生じないが、もちろん怖いのは、これからだ。クレジットカード情報が悪用されて勝手に商品やサービスが購入されてしまう、という分かりやすい被害も頻発するであろうし、さらなる進化系の被害として、こうした様々な流出データが有機的・立体的に組み合わされてしまい、多くの日本国民の実像(家族構成、日常行動その他)が丸裸となり、AIがさらに悪用されて不在時の強盗などに結び付くことも考えられる。民主主義の脆弱性を突いた世論扇動などにも使われかねない。今後、流出したデータがどのようなさらなる犯罪行為に利用されるか分かったものではない。

AI技術が進歩していくと、被害もますます拡大してしまうのは自明だが、さらに困るのは、ちょっと先の話にはなるが、量子技術の躍進に伴う被害の拡大である。いわゆるハーベスティングと呼ばれる被害(今のうちにインターネット上の暗号化された通信データ(秘匿データ)を大量に盗み出しておいて、量子技術の発展・確立後に暗号を解読)が、少し後に頻出しそうな気配もある。

そんな中、日本政府も慌てて、今週月曜にサイバー攻撃対応の閣僚会議を開いて、緊急対策をまとめることを表明したが、基本的にはお手上げなのではないだろうか。たまたま筆者は、昨日、青山社中が主宰するAIガバナンス勉強会に出席していたので(ファシリテーターを務めたので)、経済産業省、内閣府、AIガバナンス協会の方々などと意見交換もしたが、なかなか簡単に防げるものではなさそうだ。

偶然かもしれないが、10月から、日本ではアクティブ(能動的)サイバーディフェンスの法律が施行された。そのタイミングを見計らって、外国勢力が、いわば日本の「防御力」などを試すべく攻撃を仕掛けているのかもしれない、などと考えるとさらに背筋が寒くなる。

マイクロソフトは、当初、中国製AIの悪用による世間での被害を公表していたが、最近は、中国政府系のハッカー集団による攻撃について発表している。「中国製」と「中国政府」とでは、話が全然変わってくる。これはもはや、形を変えた「戦争」とすら言える事態だ。

北朝鮮や中国やロシア(軍や政府系)のハッカーが多くの悪事を働いてきていることはもはや自明の事実だが、それが止まっているはずもなく、むしろこれから過激になっていく恐れがある。

AIと国際政治

人間によるAIの悪用は言語道断だが、AIの暴走もまた困った問題だ。

AIエージェントにフィットネスジムの予約を指示したら、他者の既存の予約(ウェイティングリスト)を当該AIエージェントが勝手に書き換えて、予約順位を上にしてしまった、というオーストラリア発のニュースが世間を騒がせているが、人間はだんだんとAIの暴走を止められない(時に、暴走に気づかない?)という事態になりつつある。

少し前に、アンソロピックの創業者のダリオ・アモデイ氏が米政府に対して、AIの暴走を防ぐために野放図な開発競争を止めるための規制を求めた。意外なことに、アモデイ氏と対立していたはずのオープンAIのアルトマン氏やイーロン・マスク氏も同調したが、トランプ大統領がこれを一蹴した。ただ、結果としては、政府と民間との間で話し合いが持たれ、協定が結ばれるに至った。

アモデイ氏が開発の規制に言及した背景には、純粋にAIの暴走が怖い、人類にとって良くないと考えたことのほかに、①オープンモデルで安価な中国のAI開発を一定程度止めてもらいたい、という思いや、②AIの暴走などで損害が出た場合の補償を避けたい(保険の確立や保険料の低減を目指したい)、という目的もささやかれている。

中国のAI開発は、米国の開発を利用したもの(米国のAIの直接利用や、いわゆる「蒸留」によるアップデート)が多いとされているが、結果としては、最上位の開発レベルとしては米国の最先端モデルの3か月遅れくらいにまで追い付いていると言われている。上記のとおり、オープンモデルで安価なため、普及力・訴求力は抜群だ。

そんな状況下、9月の米中首脳会談でも、AIの開発規制について議論された模様であり、両国間で一定の検討メカニズムができた。もはやAIは米中の覇権争いの代名詞にもなりつつある。かつて、米ソ・米露・米中などでは、核弾頭やミサイルの数の制限が、首脳会談における交渉にとって大きなイシューであったが、今や、それ以上にAIの相互抑制が大事なイシューになっていく兆しがある。

紙幅の関係から詳述はしないが、AIの争いはAIを駆動させるためのデータ・データセンターの争いであり、すなわちそれを動かすエネルギーの争いである。ベネズエラやイランなどを巡る米中の相克、オイル・ガスから自然エネルギーへのシフトなども目が離せない。

中国における「東数西算」とも言われる国家的な戦略的動きや(東の沿岸部で集めたデータを西(貴州省など)に送って大量の電力でデータ処理を行う)、米国における頻発するデータセンター反対の住民運動の動き、さらには原子力発電を巡る動きなど(事故のあったスリーマイル島の発電所まで稼働させる見込み)、AIやエネルギーを軸とした米中2強の争いやディール、政策の違いはこれからの国際政治を見る上で中核的な要素となる。

AIと日本の政治、日本はどうするべきか

上記のように世界がAIをめぐって激動する中で、我が国は当初は、いわゆる「AIソブリンティ」があれば良い、という感じであった。

すなわち、日本の企業が最先端のAIを開発できずとも、日本政府が主権をもって、各種サービスをコントロールすればよい(この部分は米国のこの企業のこのサービス、別の部分は、欧州のこの企業のあのサービス……という具合で全体を束ねさえすればよい)、という戦い方で事足りると考えていた節がある。

ところが、アンソロピックがミュトスを対外的には出さない(その後、日本の金融機関などにも共有)と発表してから雲行きが変わる。やはり「ソブリンAI」がないといけない、という考えが大きく台頭してくる。自国製、自国発のAIの必要性だ。

現在は、ソフトバンクなどを中心とする「ノエトラ」のような動きが出て、日本政府内でも「源内」というAIの開発・利用を進めている(デジタル庁が開発)。オーケストレーション(各種AIの最適な組み合わせ利用)を得意としていた日本発のAIカンパニーのサカナAIも、最近は、オリジナルAIの開発に踏み出したとも言われる。

しかし、話は元に戻るが、多くの日本企業が、サイバーアタックに対して丸腰とも言える状態で被害が拡大している。ことここに至っては、国民の安全・安心のためにも、DXの推進を安定的に進めるためにも、断固たる体制、措置を取るという姿勢の表明が大事ではなかろうか。緊急の閣僚会議を開いたくらいでは足りない。もっと大掛かりな宣言と対応への意思の表明だ。海外からやられ放題、という状態は色々な意味で良くない。

25年(昨年5月)にアクティブサイバーディフェンスの法律を通していたのは良かったが(今年10月から施行)、政府が主体的に要件を満たすかどうかを見極めて発動を判断するもので、例えばGMOが被害を受けたことでその発動を要請したが、個別企業の要請で発動を決めることは想定していないという制度だ。

同法に基づく無害化措置は、放置すれば重大な危害が発生する恐れがある場合や、外国政府が関係する組織的かつ計画的な攻撃の場合に、攻撃元のサーバーに入って攻撃プログラムの停止・削除などを行い、機能を停止させ、被害を防ぐというもので、文言は勇ましいが、実際に効果を上げることは容易ではない。本来は「攻撃前」に兆候を把握し、未然に被害を防ぐ措置でもある。

ホワイトハッカーを集めて対応する(赤澤経済産業大臣)という動きもあるが、おっとり刀という感じ、まさに「泥棒を見て縄をなう」という感が強い。もっとトップレベルで、すなわち高市総理が中心となって、いわば国家的危難と認識して、非常事態を宣言するくらいの覚悟で対応するレベルの話にも思える。

国家の基底的・最重要の役割が、国民の生命や財産の安全を守る、ということで疑いないとすると、サイバー攻撃による国民の生命・財産の侵害(情報流出に基づく、いわゆるトクリュウ型犯罪の頻発なども含む)は、最も許されないものだ。

サイバー攻撃の問題は、食料品にかかる消費税減税や、議員定数の削減など以上にインパクトが大きいし、上述のとおり、今後テクノロジーの進展で、さらに被害が拡大する傾向にある。これまた上述のとおりだが、分かりやすい対応策があるわけではない困難な事態だが、そもそも、解決策が簡単に見つからないような難しい課題に取り組むのが選ばれし者(エリート)の役割でもある。

国民の安定的な高支持率に支えられている高市政権ではあるが、そこにあぐらをかくことなく、困難な課題に敢然と立ち向かってもらいたいと思う。

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