『ちいかわ』大ヒットに学ぶ、中小企業の「選ばれる強み」のつくり方 --- 酒井 裕二

『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が大ヒットしている。10月12日時点で興行収入は179億円、観客動員数は1,229万人を突破した。

「ちいかわ」の原点は、作者のナガノ氏が2017年に描いた「こういう風になってくらしたい」というイラストにある。2020年からは独立したアカウントで物語が展開され、その独自の世界観に人々が反応し、支持が広がっていった。

この経緯は、中小企業の「強み」を考えるうえでも興味深い。

中小企業の経営者と話をしていると、「当社の強みは技術力です」「品質には自信があります」といった言葉をよく聞く。しかし、それが本当に顧客から見た「選ぶ理由」になっているかは別の問題である。

作り手のこだわりを前面に出すプロダクトアウトは独自性を生みやすい反面、市場に必要とされなければ収益にはならない。一方、マーケットインに寄りすぎれば、顧客がすでに求めているものへ近づくほど競合との差が小さくなり、価格や規模の競争に陥りやすい。

では、大企業のような規模や価格競争力を持たない中小企業は、どう強みをつくればよいのか。

その手掛かりは、自社の中だけではなく、すでに自社を選んでいる顧客の側にある。

ある製造業の支援先では、自社の強みを「品質の高さ」だと考えていた。多少価格が高くても取引が続いているのは、その品質が評価されているからだと考えていたのである。

しかし、顧客側の評価を確認すると、品質はむしろ過剰品質と受け止められている部分もあり、それ以上に期待されていたのは、必要な数量を安定して供給できることだった。

会社が考える強みと、顧客が実際に選んでいる理由は一致するとは限らない。

だからこそ見るべきなのは、「当社の強みは○○です」という自社の説明ではなく、顧客の行動である。なぜ買ったのか。なぜ取引が続いているのか。なぜ他社ではなく自社が選ばれているのか。その事実の中に、自社がまだ言語化できていない「選ばれる理由」が隠れている。

「ちいかわ」も、独自の世界観から始まり、その表現に人々が反応し、支持が広がる中で、物語、グッズ、アニメ、映画へと接点を広げてきた。映画でもナガノ氏自身が作画やコンテまで細かく確認するなど、作品づくりに深く関わっている。

中小企業も、最初から「唯一無二の強み」を会議室で考え出す必要はない。自社のこだわりや技術を大切にしながら、顧客が何に反応し、何を理由に選んでいるのかを見る。そこから選ばれる理由を発見し、磨き直していく。

強みとは、自社が主張するものではなく、顧客の選択によって初めて輪郭が見えるものなのだと思う。

【参考】
オリコンニュース(2026年9月21日)、講談社『ちいかわ』書誌情報、フジテレビ「FUJITV Inside Story」

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酒井 裕二
株式会社uluコンサルタンツ代表取締役。中小企業の経営改善・組織づくりを支援。売上10億円規模から100億円規模への企業成長に継続して携わるほか、大阪・関西万博に出店した「とんかつ乃ぐち」の経営支援も担当。

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