- トランプは米国社会の分断の原因ではなく、権力や政党組織の分散、所得格差の拡大が生んだ結果である。
- トランプの政策は伝統的な共和党の「小さな政府」とは違って支離滅裂で、巨額の選挙資金や人気依存の選挙が重なって政治の分極化が進んだ。
- 民主党が勝利しても分断の解消は難しく、格差拡大と財政危機を踏まえた両党の路線再考が課題となる。
アメリカ大統領選挙では民主党が圧勝したが、これでアメリカ社会の分断が終わるかどうかはわからない。トランプはアメリカ社会の分断の原因ではなく、その結果だからである。
アメリカの政治システムは「三権分立」といえば聞こえはいいが、バラバラである。大統領には法案提出権も予算編成権もなく、宣戦布告もできない。民主党も共和党も、他の国の政党とはかなり異質な組織である。
トランプは2016年の大統領選挙に出馬したとき共和党員ではなく、サンダースも民主党員ではなかったが、予備選に勝てば大統領候補になれる。組織も指揮系統も地域ごとにバラバラな個人の集合体なのだ。
ルーズベルトは社民を「リベラル」と呼んだ
この状況を変え、大統領の権限を強化したのがルーズベルトだった。彼は戦時体制でニューディール連合をつくり、議会の多数派を民主党が占めた。それまで「リベラル」というのは、ヒュームやバークなどの古典的自由主義をさす言葉だったが、ルーズベルトは「大きな政府」の意味でこの言葉を使った。
1930年代の知識人は、大恐慌から脱出できない資本主義は「無政府的」なシステムで、政府が企業を規制し、労働者に再分配する社会民主主義がすぐれたしくみだと考えていたが、アメリカには社民の伝統がないので、それをリベラルと名づけたのだ。
これは英語の用法としてもおかしいが、アメリカでは定着してしまったので、本来の自由主義はLibertarianという造語で呼ばれるようになった。しかしハイエクもフリードマンもこの言葉を拒否し、ハイエクは自分をOld whigと呼び、フリードマンはLiberalと呼んだ。
戦後のリベラルを支えた公民権運動
戦後アメリカ経済は急速に成長したので、その恩恵を貧困層に分配する「アメリカ型リベラル」の福祉国家が半世紀にわたって主流になり、共和党が上下両院で多数派になったのは2回だけだった。この時代に民主党の支持基盤になったのが、公民権運動で大きな政治勢力になった黒人だった。
しかし1970年代のスタグフレーションで政府への信頼が失われ、レーガン大統領が「小さな政府」を提唱して、共和党が連邦議会の多数派になった。他方で貧富の格差が拡大し、オバマ大統領がマイノリティの支持を集めて当選したが、連邦議会は共和党が多数のままで、提出された法案の成立率はわずか2.7%に低下した。
これはアメリカには「内閣提出法案」がなく、議員が党と調整しないで大量の法案を出すので分母が大きいという要因もあるが、国会対策委員長会談のような非公式の調整の場がない。オバマケアのような重要法案は民主党と共和党の幹部が話し合うが、それ以外の対決法案は通らない。
おかげで上下両院がねじれると「決まらない政治」になるばかりか、連邦政府が一時閉鎖されたりする。日本でも衆参両院のねじれで決まらないといわれたことがあるが、今は法案の成立率は93%。アメリカに比べると(よくも悪くも)はるかに効率的である。
貧富の格差が分断を拡大した
分断のもう一つの要因は、政党の構造にある。党の組織が弱いので、候補者は大富豪や集金力のある候補に限られ、選挙運動が個人的な人気に依存する。それもかつては地元の産業が地盤だったが、次第にマスコミの力が大きくなり、個人献金を集めて大量に広告を打つことが決め手になった。
オバマはウェブサイトで小口献金をつのり、7.4億ドルもの献金を集めた。これはその前の大統領選挙の全候補者の献金総額を上回る額だった。バイデンはさらにそれをはるかに上回る140億ドル集金した。アメリカの選挙資金は、自己資金で運動する場合は規制上限がないので、昔とは逆に民主党の候補のほうが資金が潤沢になった。
その結果、争点が単純化し、保守と自認する人とリベラルと自認する人がともに増え、分極化が強まった。特に今回の選挙では「トランプか反トランプか」というわかりやすい争点になったので、献金も投票率も増えた。

図1 共和党(赤)と民主党(青)の分極化
格差の拡大も分断の原因
この分断は、所得格差の拡大と相関がある。アメリカ経済は1980年代から急速な成長を遂げたが、その果実は富裕層に集中し、中位所得の労働者(ブルーカラー)の実質賃金はほとんど上がっていない。生産性上昇のほとんどが資本所得になったからだ(図2)。

図2 中位所得者の生産性と実質賃金(FRED)
この格差の最大の原因はグローバリゼーションだが、レーガン政権以来の「新自由主義」で所得税の累進性や独占企業の規制を弱めた影響も大きい。これは成長率の上昇に寄与したが、その恩恵は中西部のブルーカラーにはほとんど及ばなかったのだ。
このような格差の拡大がアメリカ政治の二極化をもたらした原因だが、それを是正することはむずかしい。所得税の累進課税強化はずっと提案されているが、1990年代以来、アメリカの最高税率はずっと40%前後で、OECDの中でも特に低いほうではない。
民主党は昔の「リベラル」に回帰する
トランプは格差の原因がグローバリゼーションだと正しく認識していたが、その解決策は破滅的だった。トランプ関税は彼の考えていたように海外に課税するのではなく、自国に課税してインフレをまねいた。歴史上、これほどバカげた経済政策が大規模に実施されたのは、1930年代の関税法(スムート=ホーレイ法)以来だろう。
むしろ格差の縮小には、サンダースなど民主党左派の提案する資産課税がオーソドックスな解決法だが、これは(カリフォルニア州で起こったように)資産逃避をまねくおそれが強い。ニューヨークのマムダニ市長のようなバラマキ福祉も、笑いごとではなくなるだろう。
ルーズベルトが100年近く前に「リベラル」という言葉を意図的に誤用したことが、アメリカ政治の混乱の原因である。むしろ「小さな政府」を志向する共和党右派がアメリカの伝統に近い古典的自由主義である。大きな政府派のトランプが没落したあと、デサンティスやライアンなどの保守派の発言力が強くなれば、共和党も変われるかもしれない。







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