東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
「駆け付け警護」は自衛官の命を軽視しすぎだ
http://toyokeizai.net/articles/-/146208
さて、石原慎太郎氏までこの件を問題にし始めました。
「モルヒネ」すら携帯できぬ衛生兵 気の毒な日本の自衛隊
http://www.sankei.com/column/news/161121/clm1611210004-n1.html
自衛隊の衛生兵が常時モルヒネを携帯できない訳は厚生労働省の縦割り行政の悪弊のせいでモルヒネという強度な麻薬を医師以外の民間人には携帯させぬという制約によるものだ。自衛隊の軍医までが戦闘の第一線に同行する訳はない。政府は近々の政情の極めて不穏な南スーダンに集団的自衛権にのっとって自衛隊を派遣するようだがああした異常な状況下にある国でもしも一人でも自衛隊員に戦死者が出たならば世論は沸騰し自衛隊そのものの存続に支障をきたしかねまい。
最近は副作用の大きいモルヒネよりも、副作用や習慣性が低い新型の麻酔が開発されています。米軍が使用しているのは棒付きキャンディ式で、負傷者の手にくくりつけて、口に含ませる。麻酔が効くと、腕が下に落ちるので、自動的に麻酔もはずれます。これによって、過剰に麻酔を摂らないようにしているわけです。
現場で麻酔が使えないというのは、隊員に苦しみ抜いて死ね、といっているのに等しいわけです。
人間は痛みが原因で死ぬこともあります。また、止血帯をキリキリ締めるととんでもなく痛いわけです。で、それに耐えられずに止血帯を解いて死んだ米兵も多々おります。
安倍首相も稲田防衛大臣も止血帯をかけて1時間ぐらい我慢してみるとよくわかると思いますよ。
今週の週間サンデー毎日にも戦傷衛生の話が載っております。
「南スーダン派遣自衛隊員の生命」(上)編
書いているのは防大卒の毎日新聞の滝野隆浩記者です。この記事でも具体的な脅威と、陸自の衛生が如何に浮世ばなれしているか述べております。
かつて防衛省・自衛隊は
こう言っていました。
陸自の個人携行救急品のPKO用は米陸軍のIFAKIIに匹敵する装備だ。
国内用はポーチ込みで3個しかないが、国内は病院がいっぱいあるからいいのだ。
↓
それが、昨年中谷防衛大臣は、
陸自の個人携行救急品のPKO用は米陸軍のIFAKIIに匹敵する装備だ、というのは同じですが、
国内用は有事にはPKO用と同じ内容に補填する。その計画もあるのだ。
ところが実態は業者の流通在庫を当てにしている、ところが業者はそんな話聞いたことがないわけです。
そうそも、有事にそんなことはできませんよ。連隊の駐屯地にでも備蓄していないと無理です。
つまりは、真っ赤な嘘。
これを大臣の口から言わせた。レンジャー出身の大臣がそれを鵜呑みにするのもどうか思いますよ。
↓
ところが、今年の防衛省の行政事業レビューの民間委員向けの資料では、
「陸上自衛隊と米陸軍の個人携行救急品については、同等な部分はあるが、品目及び数量ともに少ない状況である」
と、陸自キットの不十分さを認めています。また表の中で各アイテムについても、一部機能あるいは数量的に不足であると認めています。
しかしこの資料、間違いだらけ。本来陸自のキットと比較するならば、米陸軍のIFAKIIと比較すべきを空軍のJFAKと比較しています。また「受傷現場で迅速に応急処置を実施」とありますが、負傷者自身または戦闘隊員相互で行うのは「救急処置」です。生命の急は自分で救うより他は無いため「救急処置」といいます。一方で衛生科隊員が行うものは、救急処置に専門技術で応じる「応急処置」と呼称します。
つまりぼくの本の正誤表を作ったときと同じで、ウィキペディアあたりのネット情報を本にでっち上げたものです。このいい加減な資料を元に「民間有識者」が判断するわけです。まともな結論が出るわけがない(笑
↓
で、今度の南スーダン派遣に際しては米軍のIFAKIIを持たせるといっています。
「転進」に「転進」を重ねて、段々言っていることが後退しているのですが、まるで先の大戦のガダルカナル以降の日本軍みたいです。
はじめはぼくの指摘に脊髄反射していたのに、最後はIFAKIIの導入です。
でもそれで良いのですか「我が国固有の環境と運用」にIFAKIIが適していると研究したのでしょうか。衛生学校長が業務よりもバイオリンのお稽古に熱心で、安保法制改変の最中にまったく何の研究もしていなかったわけです。
そんな陸自の衛生を信用して良いのかと。
米軍だけではなく、他国のリサーチもしたのか。単にキヨタニがIFAKIIを持ち出したら安直にIFAKIIを使うことにしたんじゃないでしょうね?多分他国は勿論、米軍すらまともに研究していません。
単に被害が出たときのアリバイ工作です。
そしてまともに個々の隊員に衛生教育をしていないでしょう。やっているのは2つだけ。対して米軍は50以上の項目を座学、実技、そして試験があります。世の中を舐めているとしか言いようがありません。
多分衛生部も衛生学校もろくな研究もしていないですよ。そもそも戦傷医療がわかる人間はみんな辞めてしまっています。
野党の先生方はこの点を国会で突かれると面白いかと思います。
しかしこの2年ほどの間のこの迷走。面妖だとは思いませんか?
この程度の意識で戦闘任務を行うというのですから、いい度胸です。
駆けつけ警護に関してJapan In Depth に以下の記事を寄稿しております。
自衛隊に駆けつけ警護できる戦闘能力はない その1 情報編
http://japan-indepth.jp/?p=31070
自衛隊に駆けつけ警護できる戦闘能力はない その2 火力編
http://japan-indepth.jp/?p=31120
自衛隊に駆けつけ警護できる戦闘能力はない。その3防御力編 前編
http://japan-indepth.jp/?p=31185
自衛隊に駆けつけ警護できる戦闘能力はない その4防御力編 後編
http://japan-indepth.jp/?p=31379
自衛隊に駆けつけ警護できる戦闘能力はない その5戦傷救護編
http://japan-indepth.jp/?p=31436
清谷 信一(きよたに・しんいち)
軍事ジャーナリスト、作家。
1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003~08年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。著書:『専守防衛』(祥伝社新書)『防衛破綻──「ガラパゴス化」する自衛隊装備』(中公新書ラクレ)、『軍事を知らずして平和を語るな 』(石破 茂氏との共著 KKベストセラーズ)などがある。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2016年11月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。