政局に衝撃を与えた、公明党の「自民党との連携見直し」
今月10日に開催された小池百合子政経塾の中での小池都知事は、「立候補したいという素晴らしい人材を、形はどうあれ後押ししたい」と述べ、来夏の都議選で、自身が設立した政治塾「希望の塾」から候補者を擁立することに意欲を示した。
この発言によって、来夏に行われる小池知事と都議会自民党の対立は明確に示された。
希望の塾塾生の8割に当たる3,000人が出馬希望と言われており、人数という意味では「タマ」は用意されそうだ。
あとはやるからには失敗が許されない全面対決。
「タマ」の質をどれだけ高めていけるかだろう。
こうした中、今月14日、都議会公明党が都議会自民党との連携を見直し、知事との関係についても「「東京大改革は大賛成だ。いいものはどんどん進めていく」と大きく舵を切った。
穏やかでないのは都議会自民党だろう。
公明党との連携解消は、単に都議会運営の中での数の問題だけではなく、選挙区によっては候補者や自民党支持の票の上に公明票が乗っている可能性があるからだ。
ましてや小池知事との戦いにおいては、自民党票すら分裂することが目に見えている。
都議会自民党の中には尻に火がついている議員も少なくなくなっているはずだ。
今後本格化するのは自民党都議の引き抜き、都議会自民分裂…
こうした状況が影響したと考えられるが、週末の17日に、年明け1月に告示となる千代田区長選挙に自民党都連の支援を受けての立候補準備をしていると言われていた佐々木信夫 中央大学教授が出馬を辞退することを明らかにした。
千代田区と言えば都議会のドンとして注目されている内田茂 前自民党都連幹事長のお膝元である。
千代田区長選挙では、現職の石川雅己区長を小池知事が支援することを明らかにしており、内田都議を中心にした都議会自民党や自民党都連としては何としても倒したい「代理戦争」でもあった。
今月になって慌ただしいほど急激に変化のある都議会を取り巻く政局だが、この事一つを見ても公明党の「連携見直し」の影響力の強さが見える。
実際には公明党は、「国政とは別」としており、国政における自公の連立が崩れたわけではない。
知事との関係についても「是々非々」ともしており、選挙までには状況はどう二転三転するか分からない状況ではある事も触れておきたいと思う。
2013都知事選データから見る全都議会議員の「選挙力」
こうした不確定要素については、現状では見切れないものもあるが、少なくとも前回の都知事選のデータからそれぞれの都議会議員はどういった状況であるのかについては見ることができる。
今回、全都議会議員の選挙データを比較するに当たり、次点の候補者の惜敗率とそれぞれの現職議員の率の差で比較してみた。
この数字の大きさを今回は「選挙力」としたい。
2013年の都議会議員選挙で最も次点とのポイントがあった最高「選挙力」だった議員は177.1P(ポイント)の高木けい 議員(自民・北区)だった。
次いで147.6Pの高島なおき議員(自民・足立区)、139.4Pの林田武議員(自民・西多摩)、137.7Pの大松あきら議員(公明・北区)、128.9Pのやまざき一輝議員(自民・江東区)、118.7Pの清水こうじ議員(自民・立川市)、110.8Pのそねはじめ議員(共産・北区)、108.8Pの東村くにひろ議員(公明・八王子)、108.4Pの鈴木あきひろ議員(自民・大田区)、105.7Pの堀こうどう議員(自民・豊島区)と続く。
図表: 都議会議員選挙「選挙力」上位20議員(2013都議会議員選挙)
出展:東京都選挙管理委員会データから筆者作成
「選挙が強い議員Best10の中に共産党が!」と思う方もいるかも知れない。
お気付きの方もいるかもしれないが、このBest10の中に選挙区が北区の議員が3人いる。
北区は2017年の都議会議員選挙から議席が4から3になるのだが、この定数から計算し直すと、1位だった高木けい議員は25位に、5位だった大松あきら議員も46位、8位だったそねはじめ議員も60位へと一気に下がってしまう。
その意味では、実質的に最も「選挙力」が高かった議員は、足立区の高島なおき議員(自民)ということになるだろう。
図表: 都議会議員選挙「選挙力」下位20議員(2013都議会議員選挙)
出展:東京都選挙管理委員会データから筆者作成
逆に「選挙力」ワースト議員についても見てみよう。
最も今回設定した「選挙力」が低かったのは、0.7Pのもろずみみのる議員(かがやけ・八王子市)だった。
次いで低かったのが、3.0Pで木村もとなり議員(自由・小金井市)、3.5Pの島崎よしじ議員(自由・武蔵野市)、5.3Pの米倉春奈議員(共産・豊島区)、5.7Pの小松久子議員(ネット・杉並区)、6.1Pの田中朝子議員(民進・杉並区)、7.1Pの河野ゆりえ議員(共産党・江戸川区)、8.4Pの石毛しげる議員(民進・西東京市)、8.7Pの鈴木隆道議員(自民・目黒区)、9.1Pの大西さとる議員(民進・足立区)と並ぶ。
このデータだけ見れば、「なるほどこの順番でしたから落選していくのか」と思う方もいるかもしれないが、そういうわけではない。
例えば、最下位となったもろずみみのる議員は当時みんなの党の公認候補として挑戦しているが、現在所属する「かがやけTokyo」と言えば、都知事選当時、唯一の小池百合子支持を明確に示した会派でもある。
来夏の都議会議員選挙においても実質「小池知事支持」が確実に決まっている数少ない候補という事を考えれば、むしろ現職である候補は逆に当選に最も近い議員の一人とも言えるかもしれないからだ。
今回出したような単純な計算式で出したデータは、選挙分析の元データであり、実際の当落予想を行っていく際には、さらに情勢を加えていくことになるので、このままこれが結果という訳ではない。
図表: 都議会議員選挙(北区)「選挙力」(2013都議会議員選挙)
出展:東京都選挙管理委員会データから筆者作成
先述の北区の選挙区などもそうだ。
北区は、これまで定数が4だったが、今回の選挙から定数は3に減る。
この事で次回の都議会議員選挙では、現職4人で3議席を争う上、当時の民主党は候補者を2人擁立しており1人に絞ればさらに激戦が予想される。
前回の得票数で定数3になったことを想定すれば、おときた駿議員が厳しい状況になることになるのだが、このおときた議員も「かがやけTokyo」の所属議員であり、ブロガー議員として知られ、最近ではテレビなどにも出演している。
小池知事の推薦候補ということを考えれば、むしろ当確とも言える。
こうして見ると、少なくとも前回の都議会議員選挙と比べて明らかに状況が変わっている人たちがいる事が分かる。
2013年と言えば、政権交代が再び起こり、民主党への逆風が最も強かった時期でもあり、安倍新政権誕生と共に自民にかなり強い追い風が吹いていた時期である。
昨今の状況だけ見て言えば、少なくとも無党派層などにおける都議会自民党に対する風は、かなり強い逆風へと風向は180度変わっている事を考えなければいけない。
この事から考えると、都議会自民所属でしかも下位の議員というのはかなり厳しい状況におかれていると言っていいだろう。
もちろん「政界渡り鳥」等と言われ、選挙の度に政党が変わっている議員がいいとは思わない。
信念を貫いて「当選落選ではなく都議会自民を貫く」というのはある面では政治家としてブレない信念の通った行動のようにも思う。
ただ一方で、ここまで来ると一気に雪崩を打って小池新党に議員が流れる可能性もある。
都民の皆さんにおいては、とくにこの下位の議員たちの今後の行動に注目である。
図表: 都議会議員選挙「選挙力」(2013都議会議員選挙)
出展:東京都選挙管理委員会データから筆者作成
高橋亮平(たかはし・りょうへい)
中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。
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