原発事故の被害って何?

池田 信夫

自民党の高市早苗政調会長が「原発事故による死亡者は出てない」と発言して、マスコミや野党のバッシングを受けています。彼女の発言は、明らかにまちがいです。避難した先で病気や事故で死んだ「原発関連死」は700人以上いるといわれています。しかし彼女をたたいているマスコミには何の問題もないのでしょうか?

原発事故による放射能で死んだ人は今のところいないし、今後も死者が出る心配はありません。これはWHO(世界保健機関)を初めとする世界の公的機関の報告書で一致した結論です。1986年のチェルノブイリ原発事故とはちがって、原子炉そのものが壊れなかったので、人々のあびた放射線の量はチェルノブイリの1/1000以下だったからです。つまり放射能で死んだ人はゼロなのに、放射能から逃げた人がたくさん死ぬというおかしなことが起こっているわけです。

死んだ人の多くは老人や病人で、十分な治療が受けられなかった人が多いそうです。事故の直後には、双葉町の病院で無理やり避難させられた患者が50人も亡くなるという悲しい事件も起きました。今も16万人以上が家に帰れず、仮設住宅で暮らしています。この原因は放射能ではなく、地元の市町村が「放射線量が1ミリシーベルト/年以下になるまで除染しないと帰宅させない」という方針を決めているためです。

国は20ミリシーベルトまで心配ないといっているのですが、マスコミが騒ぐので、地元は大事をとってしまうのでしょう。しかし被災地を1ミリシーベルトまで除染しようとすると、数十兆円もお金がかかります。もちろんそんなお金は自治体にも国にもないので、永遠に家に帰れない人が増え、病気や事故などの二次災害が放射能の被害より大きくなってしまったのです。

同じような被害はチェルノブイリ事故でも起こり、放射能の死者は60人ぐらいなのに、20万人が家や職を失い、数千人が自殺し、10万人以上が妊娠中絶したといわれています。放射能そのものより二次災害のほうが恐いというのが、チェルノブイリの教訓なのです。

でも、こういう地味なニュースは大きな見出しにならないので、マスコミの人はちょっとした被害を大げさに騒ぎます。その結果、市町村が過剰反応して今のような大きな被害が出たので、二次災害の犠牲者はマスコミが殺したようなものです。しかし彼らはいまだに加害者だという自覚がなく、今回のようにちょっとした失言に大騒ぎします。小学生のみなさんのいじめみたいなものですね。