西陣きものショー 2017

若井 朝彦

京都は梅の盛り。沈丁花も開きはじめて、ストーブもだんだん要らなくなってきたが、毎年のことながら、この今頃が確定申告のシーズンである。

地元の税務署は一条戻橋(イチジョウ・モドリバシ)の近くにある。税務署にしてはなんて気の利いた地名の上にあるのだろう、とはいつも思うのだが、ここの庁舎はちょっと狭い。という事で、おおむねそこから歩いて5分ほどの西陣織会館の6階が確定申告の受付会場になる。

ちなみにだが、西陣織会館は、陰陽道ゆかりの晴明神社(現在は本来的な陰陽道との関係は残念ながら希薄)と、蹴鞠の白峯神社(現在はサッカー関係者のお参りが多)の間の位置である。

そろそろ電子納税にしようか、せめて郵送でいいだろう、とは思うものの、28年度分からマイナンバーが必須になっていて、今年も持参して確認してもらうことにした。

ところで西陣織会館というと、なんといっても「きものショー」である。だいたい1時間おきに、数名のモデルの方が京の和装を披露する。ときどきマスコミの話題になるが、近年、外国からの観光客が一気に増えた。

せっかく来たのだから、最近の西陣はどうなんだろうと、時間が合う限りは立ち寄ってゆくことにしている。というのも、西陣織工業組合が、展示や販売と一体に運営しているので、鑑賞フリーなのである。

(2017年)

前回見たのが、昨年なのか、それとも一昨年なのかは覚えていないのだが、今年になって大きな変更点が三つあった。

会場が1階入ってすぐの吹き抜けから、3階のホールに移動。

こちらはちゃんとした舞台もあって、照明も増えた。以前はデパートの仮設の催し物にも似た感じもあったが、よりショーらしく。これがまず一つ目。

二つ目は、いままで女物だけだった着物に、1点だけだが男物が加えられていたこと。これも会場を移した際の変更だろう、「男物なしだったこれまでの方が不自然だったわなぁ」と今にして思う。だが男物の見せ方がサマになるのはマダマダだ。これはモデルさんの非ではなく、着物を準備する方に問題がある。1着しかないらしい着物の着丈が、愛之助丈似のモデルさんに合ってないのである。

三つ目はお客さんである。これにはかなり驚いた。

(2017年)

今年わたしが見た回は、ほとんどヨーロッパまたは北米から来たと思われる旅行者。ブラウン、ブロンド、プラチナブロンド(白髪?)それに赤毛の女性を中央のイスに座らせて、ぐるりをそのパートナーである男性が取囲んでいる。歴史的慣習? とはいえ、その守りが堅いあたり見上げたものである。

2014年の写真も手許にあるのでここ載せるが、今年のものを比べてまったく瞭然の違い。その年の、わたしが見た日、見た回のきものショーは、ほとんどが中国系の旅行者だった。

(2014年)

これは京都にいての感覚だが(また観光庁の統計も同傾向であるらしいが)、台湾からの旅行者はほぼ一定。韓国からは経済状況や為替や外交案件などで変動が大きいようだ。中国本土からは、現在あきらかな減少傾向である。

このあまりの変化に、会館の方にも訊ねてみた。「ずいぶん様替りしたようですが・・・」

「そうですねえ。でも1時間前の回は中国からの人もかなりおられましたよ」

とのこと。一度限りの見聞で何もかも判断することはできないが、数年前、中国からの旅行者によって発見されたといってもよいこの「きものショー」は、現在の中国人にとっては、珍重すべきものではなくなったのだろうか。

たしかに現在も中国本土からの旅行者は京都にも多い。だが傾向は以前とはまったくちがっている。世界遺産巡りが主という層、買い物が主という層、また(きものショーのように)無料スポットを順々に楽しむといった層は減っているように思う。

バスの中で、中国からのグループ内の相談内容(どんな地図を見ているかなど)や、乗車、降車動向を見ていると(失礼)、日本に来る前に、あらかじめ自分たちだけの目的を決めている、といった層が増えているように感じる。かなり凝った観光をしているのである。いま中国から日本に来る旅行者は、総数は減っても、日本ファンの度合いが上がっているのではあるまいか。願わしいことである。

以前、2015年にもここアゴラに
「官製観光」考
 https://agora-web.jp/archives/1650277.html
を書かせてもらっているが、そこでも触れたように、とくに近年の観光動向は読みにくい。

新聞が「爆買」のキーワードで記事をさかんに書いていたころ、そのグラフはすでにピークを過ぎていたわけだし、昨年は昨年で、花見シーズンの来日旅行者の乱行を多くのマスコミが取り上げていたが、今年はどうであろう。記事に困って惰性の報道には流れないことをと願う。

SNSでもって、どんどんと新しい京都観光が開拓されている昨今、役所主導で旅行者観光者を特定の方面に誘導することなど、とてもできないことだ。情報の後追いがせいぜいのところなのだが、これは困ったことばかりではない。むしろ成長産業である印であるのかもしれない。これも以前に書いていたことの繰り返しになるが、観光庁をはじめ官庁自治体は、旅行者観光者が、新しい日本を発見すること、新しい楽しみ方を工夫することを妨げるべきではないように思う。

しかし京都では、現在でも京都市がホテルの誘致に熱心であり、商工会議所の跡地もホテルになるし、(民泊と旅館の中間形態といった)木造ゲストハウスの新築も恐ろしい勢いで増殖しているが、これなども今後つつがなくやってゆけるのだろうか。(2022年、大阪の新今宮に来るという、かの「星野リゾート」なんかも、そのころはどうなんだろう。)

2017/03/16 若井 朝彦
西陣きものショー 2017

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