VWに吸収されてもポルシェは意地と強情を貫けるか?- 小川浩( @ogawakazuhiro )

去年の話になりますが、VW(フォルクスワーゲン)がポルシェとの経営統合を発表しましたね。

90年代に経営難に陥ったものの、ボクスターの大成功をきっかけに一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったポルシェが、VWの傘下に入るということは、ファンとしてはややショックです。

クルマメーカーとITベンチャー企業ではまったく畑が違いますが、それでもエンジニアリング志向の会社としては、ポルシェは一つの憧れです。ポルシェは常に最新技術を駆使するというよりは、やや枯れた技術を練りに練ったうえで最高度の性能を発揮させることに長けたメーカーです。レースにおいて公道においても最高峰のスポーツカーでありながら、エクステリアはフェラーリやランボルギーニのような派手さはないものの、誰がみても一目でポルシェと分かる強いブランドイメージを発揮する、洗練されたデザインを、高性能と両立させているところが何とも見事なのです。

スティーブ・ジョブズが好んで乗っていることでも分かるように、ベンチャー起業家の多くはポルシェが好きです。

クルマの業界に詳しくない人にとっては驚かれると思いますが、元々はポルシェ側がVWの買収に動いており、実際にVW株の51%を握って子会社化していたのです。
VWの売上はポルシェの15倍。小が大を食う、実に見事な買収劇が実現する寸前だったのですが、2008年からの金融危機の余波で、VW買収のために借りた巨額の有利子負債の返済に困り、ついにはポルシェはVW側から提案された経営統合に応じざるを得なくなったわけです。
結果としてポルシェは、順当にいけば、2011年にVWの高級スポーツカー部門の一ブランドとして(VW傘下の10番目のブランドとして)新しいスタートを切ることになります。

・・・まあ、そのこと自体は余談です。

ポルシェは技術を志向する企業にとっては、やはり憧れの存在です。
強烈な加速を生み出す凄まじいまでの高性能を、一目でそれとポルシェと分かる独特のスタイリングでありながらも普通の街中でも違和感の少ないデザインで押さえ込む、洗練された匠の技。フラッグシップである911の設計は、およそ40年以上前のパッケージを踏襲しています。それはエンジニアの意地というか強情というほかありません。他のスポーツカーブランドであれば、逆に突飛すぎるスタイリングが性能を上回ってしまうでしょう。
スティーブ・ジョブズが自社をポルシェを例えることが多いのは、そこに共通点を見いだしているのかもしれません。Appleの製品は、iPhoneにしてもiPadにしても、ガジェットのネーミングからエクステリアまで、シンプルすぎるほどシンプルであり、ある意味地味であるとさえいえるほどだからです。

今回の買収劇で、カリスマ経営者と呼ばれ、90年代後半からのポルシェの躍進を支えたヴィーデキングCEOは退任させられ、以降はVWの意向に添った経営方針をとらざるを得なくなりますが、ポルシェはオリジナルの文化と強情さを保っていけるのでしょうか。
(Appleもまた、ジョブズの退任という受け入れがたい運命を受容するのも遠い未来ではなくなっています)

ポルシェは商業主義だけでなく、自分たちが作り上げてきたアイデンティティを貫き通し、ブランドイメージや見た目の良さが、クルマの性能自体の価値を上回ることがないように、技術を磨き続けてきました。そこにはビジネス面では非効率が存在したはずです。その非効率や強情こそがポルシェのブランドを保ってきたといえますが、VWの経営陣がその非効率と強情を許しておけるでしょうか。
非常に気になるところです・・・。