給付型奨学金を創設する法案が、参議院本会議で全会一致で可決された。これは大学生をもつ豊かな家庭に貧しい家庭から所得移転する逆分配であるばかりでなく、その財源を当の子供に負担させる世代間の逆分配だ。奨学金は親が消費し、大学は何も生産しないので、子供には国債の負担だけが残る。
かつてバラマキ財政の対象になった公共事業が減り、老人福祉も批判を浴びたので、今度は「こども」や「教育」を理由にしたバラマキが増えている。これは将来世代が政治的意思決定に参加できないというデモクラシーの欠陥を利用した、大人のモラルハザードである。
教育にコストをかけるのはかまわないが、その便益と負担の関係を納税者が正しく判断できることが前提だ。特に教育を受ける子供が意思決定に参加できないで、あとから負担を強制されるのはおかしい。このように今の国会は将来世代にただ乗りするインセンティブが強いので、長期的な意思決定には適していない。
向こう50年を考えると、オフバランスの社会保障債務を含めて、国民負担率は80%を超える。それを回避して国債を増発すると、いずれ財政インフレが起こる。一般会計と特別会計で2500兆円を超える政府債務を増税や歳出削減で正常化することは不可能なので、納税者には次の4つの選択肢しかない:
- 財政タカ派:ゆるやかに財政赤字を減らして少しずつ負担を増やす
- ネズミ講:負担を永遠に先送りする
- 上げ潮派:負担を減らして成長率を上げて問題を解決する
- インフレ税:財政インフレで実質債務をデフォルトする
課税平準化の理論で考えると(増税額の現在価値が等しいとしても)1が望ましいが、それは政治的に困難で、へたにやるとデフレになって実質債務が増える。2は永遠に金利が上昇しないという非現実的な仮定に依存している。3のアベノミクスで債務を正常化するには、実質GDPが毎年5%以上成長する必要があるが、これは労働人口が1%以上減る日本では不可能だ。
消去法で出てくるのが、4のインフレ税で実質債務を減らす方法だ。これは政府が物価をコントロールできるかどうかわからないので好ましい政策ではないが、愚かな政治家も国民がコントロールできないので大した違いはない。金融資産の減価という形で負担が明らかになる点で、給付型奨学金や「こども国債」や「こども保険」のような詐欺的な政策よりましだと思う。