最近は「セカ就」という言葉が流行っているようです。日本の将来が見えにくい、海外の方が刺激的、成功する機会が多いなどと言われ、日本を飛び出して外国で就職しようと言うことのようです。昨日、Podcastのオンザウェイ・ジャーナルで、米QED社の藤田浩之氏へのインタビューを聞きました。藤田氏はまさに、米国で医療機器メーカーを起業してグローバル化に成功した「セカ就」の代表選手といえます。だれもが彼を目指すのは難しいのでしょうが。一方で、BLOGOSで紹介された森山たつおさんの海外就職という選択肢をもっと知ってもらいたいという記事は共感を持つ事ができました。
かく言う私も85年に日本を飛び出して以来、香港・フィリピン・大陸中国で5回転職し(いづれも現地採用)、会社も6つ以上作りました。就職したり起業したりして今に至っています。以前に、海外脱出を敗者復活戦として考えてみるというブログ記事を書いていますが、今回はセカ就を直球ど真ん中から語ってみたいと思います。大学で就活をしている方、就職したが現状に満足していない方、ぜひ参考にして頂ければ幸いです。
1)海外で働きたいと考え始める時期:
私の場合は、大学を卒業して就職した年(1985年)の夏でした。従業員1000人ほど(9割弱は客先へ派遣で不在)の中堅ソフトハウスで、プログラマとして就職し、入社1ヶ月目で某電気メーカーの次期ミニコンOSの開発プロジェクトに配属されて、田町の本社と客先の間を、開発とデバッグで数ヶ月間行き来していました。客観的には、そこそもおもしろい仕事だったのだと思います。しかし、実機が完成するまでの数年間、いまの日常がずっと続くのかと思うと、その安定感が我慢できなくなりました。そんな時に、田町の駅前で人材バンクの登録ハガキをもらったのをきっかけとして、「海外勤務希望」と書いて郵便ポストへ投函したのが海外転職のはじまりでした。ハガキを出してから数日後、人材バンクの方から電話があって、「あなた、これ、真面目に希望されているのですね?」と念押しされた事をいまでも覚えています。
現在はインターネットで(この記事も含めて)いろいろな情報を豊富に集める事ができます。ゆえに、日本の大学で就活の最中、留学中、就職した後など、海外で働きたいと考え始める時期は広がっていると思われます。
2)海外転職へのアプローチ:
この記事の主旨は「直球ど真ん中」ですから、対象を就活中の大学4年と社会人に絞って話します。昔も今も、(凄い学歴、キャリア、特殊技能などの無い)日本在住の普通の人が海外で働きたい場合、日本国内の人材バンクへ登録するというのが「王道」でしょう。そのメリットは、「本社採用」の駐在員として現地へ派遣され、現地採用の日本人とは比較にならない高い待遇を得る事ができます。本社採用の具体的メリットは下記の通りです。
- 現地での就業ビザの取得が容易(現地採用の就業ビザ取得は必ずしも容易ではありません)
- 国内就労と同等の給与額(現地採用の給与は駐在員よりはるかに低い)
- 国内の健康保険や社会保険へ加入(現地採用は、会社では面倒を見てくれない)
- 現地での住宅手当(現地採用の場合も皆無ではないが金額におおきな差がある)
- 駐在員用の医療保険(現地採用の場合は一般的に無い)
- 家族を含む年1回程度の帰省費用を会社負担(現地採用の場合は一般的に無い)
- アジアには多数の日本企業の工場や事務所が進出していますが、その多くは地方の中小企業です。そのような会社では、社内の生え抜きに海外勤務希望者が極めて少ない為、外部から募集する事が少なくありません。
余談ながら、留学中の学生が現地で就職活動をする場合は、本社採用ではなく待遇の悪い現地採用になります。現地採用の待遇は本社採用よりはるかに悪いと書きましたが、良い面もあります。駐在員は、いつかは社命により帰国させられますが、現地採用は解雇されるか転職しない限り、その会社で働き続ける事ができます。現地採用でペーペーからはじめて副総経理になった友人がいます。その会社では、総経理は3年程度で新任に交代して帰国しますので、駐在員が交代しても現地ノウハウが継続されるように、現地採用者を現地のエキスパートとして抜擢してナンバー2にしたようです。
また、多くの日系現地企業は、現地採用の日本人は現地の人材バンク経由で求人しており、わざわざ日本国内で求人していません。最近はリクルートなど国内大手も海外展開を始めていますが、海外現地での力はまだ強いといえません。ゆえに、国内では見つからなかった求人が、現地の有力な日系人材バンクで見つかったという例は多いでしょう。どうしても特定の海外都市で働きたいという場合は、現地の人材バンクへ登録するのが早道と言えます。
3)語学が先か業務能力が先か:
本社採用を考える場合は、まずは「海外で働きたい」という意思、次にその会社の求める業務能力、最後に現地の会社内で使う外国語の会話能力(読み書きは最後の最後)となります。既に海外で稼働中の会社である事が多いので、ある程度の業務知識が要求されます。同業他社から即戦力としての転職でない場合は、国内で1-2年間研修させられる可能性もあるでしょう。語学がなぜ最後になるかというと、日本にいる経営者の目線は業務の継続性にあるからです。候補が複数人いる場合には、現地で働いた経験や現地語を習得している事は選考時に有利となるでしょう。
4)外国との距離を狭める:
世界といってもロンドンの都心から四川省の奥地まで生活環境はピンキリです。社畜も厭わないプロのサラリーマンは、どんな辺鄙な場所へでも辞令1枚で単身赴任していますが、そういう生活を望んでセカ就を考えている訳ではないでしょう。できるだけいろんな国へ旅行して、自分が住めそうな生活環境のボトムラインを見つける努力をしましょう。こんな国・都市で仕事をしたいという希望が膨らめば、その場所へ何度も通ってみて、どんな日系企業がそこにあるのかを調べてみましょう。具体的な勤務地の希望があれば、国内にしろ現地にしろ、人材バンクはより強力なツールとなり得ます。
5)海外就業経験はキャリアになるか:
日本のメーカーは中小零細も含めて20年以上前から工場を海外展開しており、現在もその流れは続いています。大企業は基本的に人材の調達と育成は社内で完結していますが、中小企業では(大陸中国やフィリピンへ進出した中小企業を見るにつけ)きちんとできていないところが圧倒的に多いと感じています。海外勤務経験者、特に現地法人の管理職経験者は今後更に需要が増えるでしょう。そういう意味では、本社採用されて現地へ駐在し、何度かの駐在と帰任を繰り返す事で最終的に現地責任者になる事が、海外就職経験を付加価値のある普遍的なキャリアにする最短距離である事は間違いないでしょう。
まとめ:
海外へ就職するというのは、私の経験から言っても、とても刺激的であり興味深い経験です。しかし、セカ就を単純なキャリアアップのツールとして考える事には無理があります。海外で生活するというリスクもありますし(国内で生活していても全てのリスクから逃れるという事はできないのですが)、現地の生活に馴染めずにストレスを溜めるかもしれません。私が香港で最初に就職した会社は、なんと半月後に倒産してしまいました。たいしてショックを受ける事もなく、「さて次はどうしようか」と考えながらブラブラしている時に、アパートの大家さんの紹介で中国人経営(私のボスは日本人)の貿易会社への転職が決まりましたが、もし私が気弱な精確なら、すぐに帰国してしまったでしょう。
外的刺激をストレスと感じるかエキサイティングと感じるかは、最後はその人の気質次第です。仕事にしろ生活にしろ、いろんな問題を前向きに考えて楽しめるような方に、セカ就をお薦めします。
石水 智尚
艾斯尔计算机技术(深圳)有限公司 総経理