日米戦争は避けられなかったのか:『ルーズベルトの開戦責任』

池田 信夫
文庫 ルーズベルトの開戦責任 (草思社文庫)
ハミルトン フィッシュ
草思社
★★★☆☆


朝鮮半島が緊迫し、戦争がリアルな問題になってきた。戦勝国は戦争を「正義と不正義の戦い」と考え、敗戦国にもそう教え込むが、どちらかが100%正しい戦争は歴史上ない。すべての戦争は愚かなので、それを避けることが最大の問題だ。日米戦争は、日本の軍国主義による必然だったのだろうか?

原著はルーズベルトの政敵が1976年に出した本(文庫による再刊)なので、そのバイアスは割り引いて読む必要があるが、日米戦争に必然性があったのかどうかは疑問だ。ルーズベルトはチャーチルを支援するためヨーロッパに参戦しようとしたが、国民の孤立主義は根強かったので、他国から攻撃されてやむなく参戦するという形が必要だった。

そのため彼は日本に対する最後通牒としてハル・ノートを出し、真珠湾を攻撃させて世論の圧倒的な支持を得た。それは最後通牒だったばかりでなく、その存在は戦争が始まっても隠されていた。だから(著者を含む)国民のほとんどは、和平交渉の最中に日本が奇襲攻撃してきたと考え、ルーズベルトを熱狂的に支持したのだ。

著者はルーズベルトは真珠湾攻撃を事前に知っていて、太平洋艦隊に知らせなかったという。これは史実としては誤りだが、追い詰められた日本が攻撃してくることは予想できたはずだ。それを受けて(三国同盟によって)ドイツがアメリカに宣戦布告し、ルーズベルトは予定どおりヨーロッパに参戦した。

それは結果的には、アメリカがわずか30万人の戦死者で世界支配を実現した効率のいい戦争だったと思われているが、アジアにアメリカの守るべき権益はあったのか。ルーズベルトは日本が脅威でソ連は同盟国と考えていたが、日本が敗れたため中国がソ連の支配下に入って共産党政権になり、冷戦が始まった。彼は主要な敵を見誤っていたのではないか。

こういう考え方は「歴史修正主義」と呼ばれるが、ジョージ・ケナンもルーズベルトが「スターリンを過剰に信頼していた」と批判している。ルーズベルトがその気になれば、日米戦争は避けられた。彼がそれを避けなかった原因は、アメリカ政府内に送り込まれたソ連のスパイの工作というより、当時の世界に行き渡っていた社会主義のユートピアを信じる思想だったように思われる。