第一回Tokyo Crazy Kawaii Paris。
マンガ、アニメ、ゲーム、音楽、そしてファッション、食、雑貨。
これら日本のポップカルチャーを持ち込み、ビジネスのプラットフォームを作るイベントです。2013年9月20~22日の3日間、パリ・ヴァンセンヌの森にて開催しました。
ぼくは実行委員長を務めました。
日本ポップカルチャーはかわいくてクールという評判・評価を海外から得てはいるものの、それをいかにビジネスにしていくのか、が十年来の課題でした。コンテンツ産業の収入に占める輸出割合は5%で、アメリカの17%には遠く及びません。国際競争力の発揮が求められてきました。国内市場で食うことに慣れ、内向き志向だった業界に外を向いてもらう。その試みです。
ポイントは2つありました。「総合力」と「参加型」です。
まず、総合力。マンガ・アニメ・ゲームというバーチャル系のコンテンツに加え、ファッションや食、雑貨というリアルなビジネスも一体となって提供し、日本の総合力を見ようというもの。毎年7月にパリ郊外で開催される「ジャパンエキスポ」はマンガ・アニメ・ゲームが中心で、フランス人が運営しています。出展する日本企業はそこに乗っかっていた形です。これに対しTokyo Crazy Kawaii Parisは、バーチャルとリアルの総合面について日本が企画・運営を全て担い、プラットフォーム含め自ら外に出かけていくものです。
もう一つは、参加型であること。さまざまなジャンルの企業、少年ナイフなどのアーティストに加え、日本ファンのみなさんに参加いただく。それも、ジャパンエキスポに多く集まるようなオタク層よりも、ロリータファッションに身を包むハイセンスなティーンズや、一般の親子連れなど、普通の消費者のかたがたが一つの場を作ってくれました。
ぼくが座長を務めた政府ポップカルチャー分科会の提案では、ポップカルチャーの海外展開を進めるため、「みんなで・つながって・そだてる」を柱にを据えました。ユーザ参加型で、総合力を活かすという趣旨です。まさにそれを実行しようとしたのです。
いくつか目に止まったものを取り上げてみます。
○ロリータ
コスプレよりロリータでした。
もともと欧州のファッションですよね。
でも日本が本場なのです。
日本のティーンズたちがアレンジし、発展させ、新しい文化を作り上げた。
それが逆流しているのです。
でもそれは、マンガやアニメやゲームと同じ。
これらコンテンツも、元来の表現法や技術は西洋からもたらされました。
それを日本が豊かな土壌の中で発展させ、多様化させて、海外に展開したもの。
ポップ・ファッションも日本が増殖炉になったということでしょう。
○タコ焼き
ラーメン、とんかつ、すし、うどん、そば。それを上回るタコ焼きの行列です。
すし、天ぷら人気は知られていますが、タコ焼きもイケますか。
だとすれば、まだまだ日本に閉じているもので、発掘できるジャンルがあるんじゃないでしょうか。
どうです、全国で地元グルメの発掘に力を入れているみなさん。
○プリクラと初音ミク
プリクラにも長蛇の列。
初音ミクの姿も多数。
これらは日本ポップカルチャーの典型です。
そう、文化力と技術力の合体。
ペアのデコ写真を作るというコンテンツの企画と、それを実現する高度なテクノロジー。
カワイイアニメキャラと、そこに命を吹き込むボーカロイド技術。
どちらも、表現と技術との総合力を一つにしたものが、こうした参加型の場でもてはやされているわけです。
○少年ナイフ
少年ナイフ、王者の風格。
欧州ツアーの最中に、ムリ言ってパリに来てもらいました。
ロックの王道を行くので、ヤワいフレンチおたくどもには刺激が強すぎたかもしれんが、これをロックというんだよ、勉強しなさい。
今回はオリジナルメンバー「山のアッちゃん。」ことアツコさんもロサンゼルスから駆けつけてくれました。ありがと。
日本より海外人気のほうが高いんですよね。マイクロソフトのテレビCMではローリングストーンズの後釜だし、ニルバーニャに頼まれて世界ツアーもしたし。海外人気の高さはうれしいような、くやしいようなですけど、まぁ誇らしいこと。
ナイフを見ていて思うのは、やっぱり日本が押し出したいものよりも、海外が待ち望んでいるものをお出しすることの大切さ、ですね。フジヤマ、カブキ、ヨコヅナ、よりも、少年ナイフに初音ミクなのですよ。それが、お・も・て・な・し。
さて、イベント後、現地の関係者と反省会を開きました。ひとまず第一回は成功。毎年やっていきたいと思います事情が許せば。
でも足下を確認すると、かなり状況は悪いようです。
かつてフランスを席巻し、ドラゴンボールやセーラームーンなど人気がありすぎて社会問題にもなった日本のアニメは、この十年来、地上波では買われておらず、ほぼ姿を消しつつあるとか。自国アニメを重視し、閉め出されてるんだとか。
これはイタリア、ドイツ、スペインでも似たような状況だそうです。このため、仏・伊・独・西市場を一体としてとらえていたアニメ→オモチャといったヨコ展開も厳しくなっているんだそうです。深刻です。
市場の見方も再確認が必要なようです。One Peaceのような人気アニメもありますが、日本が6~8歳をターゲットにするこうしたアニメは、フランスでは14歳あたりが中心ファン層。日本が狙うターゲットと市場とがズレているというのです。
だから同時に、低年齢向けのアニメ商品の発掘と提供が必要になっているといいます。むかし日本アニメになじんだ30~40代は今も日本への理解は高く、原宿ファッションなどに目を向けるので、TCKPにもお越し頂いているのですが、今の子どもたちにはその文化は浸透していないので、別の戦略が必要となっているそうです。マンガアニメゲーム人気を前提としたクールジャパン戦略では、うまくいかない可能性が高いということです。
ううむ、パリの掘り起こしを一から考え直してみましょう。パリの日本人街といえば、1区、ルーブルの近く、Rue At.Annes通り。20年前にぼくが勤めていた旧東銀ビルの界隈で、ラーメン屋や居酒屋が元気なく並んでいますが、そこをガッツリ活性化する、というアイディア、どうでしょう。タコ焼き、コスプレ、ロリータ、プリクラその他集結!
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年11月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。