無理ゲーを勝ち抜いて、売上を1.5倍にした富士フイルム

村井 愛子

10年間で10分の1に縮小したフィルム市場

以前、市場を根こそぎ持っていく競合は、想定しないところから急に現れるので、防ぎようがないという話をしました。そんな中でデジタル化によって既存のメイン事業が縮小したのに、売上自体を10年で倍にした企業があります。富士フイルムです。


富士フイルムといえば、写ルンですのCMが印象深いですが、化粧品「アスタリフト」のCMを見た時は「なぜ写真の会社が化粧品を!?」と思いました。でも歴史を紐解くと、化粧品等の事業に進出せざる追えなかったというのが正しいようです。フィルム事業は2000年をピークに、その後10年で10分の1にまで縮小しており、競合であったコダックは2012年に経営破たんをしています。しかし、富士フイルムは1兆4403億円であった売上高を2012年度は2兆2147億円と1.5倍にしているのです。

コダックとの売上高の比較のグラフを見ると象徴的です。いったいこの2社の運命を分けたのはなんだったのでしょうか。

富士フイルム

フィルム事業がピークであった2000年当時は、フィルム部門の担当役員が会社を支配していたと言います。この体制に疑問を持っていた古森重隆氏が2000年に社長兼CEOに就任すると、90億ドルをかけて40社を買収した上、1年半の間に2500億円をかけてリストラを含む社内改革を行ったといいます。

古森社長いわく、「自動車が売れなくなったトヨタ、鉄が売れなくなった鉄鋼会社をイメージし欲しい」、「我々が直面した危機はそのくらい恐ろしいインパクトがあった」、「辛い経験だった」、「状況をありのままに見れば生き残れる状態ではなかった」、「だから我々はビジネスモデルを再構築しなければならなかった」Electronic Journal 2012年6月号より

10年間に2回も市場が大きく縮小するという無理ゲー

そして、現在の富士フイルム―、2012年度の売上と営業利益の内訳(グラフ右)を見ると、このようになっています。

富士フイルム2

富士フイルムが2000年時に主力としてきた写真のフィルム現像等のイメージングソリューションは、なんと22億円の赤字。営業利益を支えているのは、2000年以降に始まった医療用フィルムや内視鏡等を販売するインフォメーションソリューション(アスタリフトの売上もココに含まれます)と、富士ゼロックスによるプリンター販売や保守等をするドキュメントソリューションです。
特に、医療関係の製品と化粧品「アスタリフト」の売上が好調で、増収増益となっています。
もし2000年当時に大改革に踏み切っていなかったと思うと・・・完全にやばかったのですね。

細かく決算資料を見ていて気付いたのが、赤字であるイメージングソリューションの中でもフォトブックを展開して単価をあげようとしていたり、デジタルカメラの販売なども注力してきたということです。フィルム業界は、市場そのものが揺らいでしまう大波を今までに2回もかぶっています。2000年頃にデジタル化の波が訪れフィルム事業がどんどん縮小されていった時と、2008年以降にスマートフォンの登場によってデジタルカメラの市場自体が縮小したことです。この10年間に、2回も市場そのものを揺るがす変化が起こったなんて、「どんな無理ゲーだよ」という感じですよね。

もしも富士フイルムの改革が、「フォトブックに対応して単価をあげる」「デジタル化に対応するためにデジタルカメラ販売」等の写真市場のみに絞られていたとしたら、やはり大変なことになっていたしょう。医療用フィルムや医療器具、まさかの化粧品販売という会社の構造そのものを変える事業拡大を行ったからこそ、スマートフォンの影響を受けても、屋台骨が揺るがない企業になったのです。

改革を断行した古森社長には、おそらく激しい逆風が吹いたのだろうと思いますが、危機感を持った人間がトップになり改革を行うということが、いかに重要か思い知らされますね。

※続編エントリ「多角化経営か弾丸経営のみが生き残る?」はコチラ

参考文献:Electronic Journal 2012年6月号

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※一部誤字の指摘を頂き、修正しました。