新興国経済が変調をきたしています。アルゼンチン、トルコ、南アフリカ、ロシア、インド、インドネシア、ブラジルで連鎖的な通貨安が起きています。これを、米国の金融引き締めによるマネー流動の一過性の現象と捉える向きも多いですが、私は20年サイクルの世界経済の構造的な転換点に差し掛かっているのではないかと考えています。
今から20年ほど前にソビエトが崩壊し、世界がひとつの市場になりました。グローバリゼーション時代の到来です。これを後押ししたのは、IT革命と金融の自由化。インターネットの活用と潤沢な資本流動により、経営・企画や設計部門だけを先進国に残して、工場やコールセンターなどの生産は新興国企業に外注するなど、世界的な分業体制の構築が可能になりました。欧米企業を中心にファブレス化が進行し、ファーウエイやサムソンなど台湾・韓国勢が安価な労働力を武器に、徹底的な量産化と効率化で世界の工場として台頭し、モノ作りマインドが強いが故に、生産現場を切り捨てられない本邦企業は中途半端に国内に製造拠点を残し、この流れに乗り遅れました。
新興国で生産・現業ビジネスが興隆することで、新興国の所得が上がり、国民が豊かになる。すると購買力をあげた国民が、こぞって最新アイテムを購入するようになるという好循環が起こりました。かつての日本の高度成長期の3Cのように、PCに始まり、液晶テレビやスマートフォン、タブレット端末など、先進国とほぼ同じタイミングで新興国の上流や新中流層がそこそこのスペックの商品を手にするようになり、数十億人の巨大な市場が形成されていきます。
例えば、AppleのIPhoneなどハイエンドで高額のA級商品も一定量売れますが、そこまで豊かではない新興国のボリュームゾーンめがけて、スペックもそれほど高くはないがまあまあ良くて、量産効果により格安のB+級商品、例え ばアンドロイド端末などが売り上げ規模で圧倒します。これまで電子機器は、もともと品質やスペックで差別化できる「グッズ」であったのですが、いまや価格競争の激化と量産化により、差別化の難しい世界共通スペックの「コモディティ」化しています。画素数の低いデジカメやメモリーの少ないタブレットなどは、家電量販店やアマゾンなどのネット商店街で「一山いくら」で売られ、下手したら販促のおまけで付けられるような商品に成り下がっています。
こうした動きに機敏に対応したのが台湾のファーウエイと韓国のサムソンでした。新しい購買層にはソニーやパナソニックといったこれまでのブランドは浸透していません。そこで、信じられないくらいの広告宣伝費をかけたサムソンが考えられない規模の生産設備を建設し、規模の効率化で価格競争に打ち勝ち、新興国市場を席巻します。
しかし、このモデルの前提は新興国市場が拡大し続けることです。誰もが毎年スマホを買い替える訳がないので、次々に購買層を拡大しなければ、こうした自転車操業モデルは破綻します。実際、リーマンショック以降の米国の量的緩和によって、リスクオンされた資本により、新興国の経済力は過大評価されていた節があります。いわゆる新興国の罠というやつです。従って、現在の資本流出は、バブルの終焉、すなわち正常状態に収斂しているだけとの見方もできるのです。どう考えても、資源の制約がある中で、週十億人が一挙に豊かになれる訳がありません。
そうなると困るのは、B+級モデルに依拠してきた企業群です。
例えば、アンドロイド端末の生産を主導してきたグーグルは、最近モトローラの携帯電話事業をLenovoに売却することを発表しました。山本一郎氏はブログで、「スマホがコモディティ化拍車」と題した分析をされています。氏のいうようにグーグルは「ハードウェア事業そのものにあまり興味なさそう」で、「どちらかといえばシステムやプラットフォームの開発」に力点を移し、市場が頭打ちのなかでシェア拡大により価格競争を乗り切ろうとするチキンゲームから一抜けしたようです。
これから、サムソン、ファーウエイ、レノボや中国勢を巻き込んだ、半導体で見られたような血で血を洗うサバイバルゲームが始まるのでしょう。サムソンの株価低迷も、こうした空気の変化を市場が感じ取ったからではないでしょうか。
この先どうなるかはわかりませんが、恐らくこれまでのような際限のないB+級製品の市場拡大は行き詰まり、先進国・ハイスペックA級製品市場に草狩り場が移動すると思われます。ある意味で、極端な価格重視からスペック重視に戻りかもしれません。そうなると「ガラパゴス化」によりグローバリゼーションから取り残された本邦勢が、巻き返すこともあり得るでしょう。
グローバリゼーション第二幕の方向性を予測してみましょう。米国では、グーグルやアマゾン、Facebook、ツイッターなど、ハード機器安売り競争から距離を置いたソフトウエア・システム・ネットワークビジネスに力点を移すでしょう。一方、日本勢は、スマートグリッドや自動運転システムなどイモノのインターネット化を睨んだマシーンと人のインターフェース構築等、スペックを重視した、画一化・量産化のBtoCではなく多品種少量生産型のBtoBビジネスに移行するでしょう。日本国内市場と東南アジアなどで、東芝や日立が歴史的な高利益をあげているのは象徴的です。
一方で、サムソンやファーウエイなど新興国勢はもともと量産力・模倣力だけでのし上がってきたので、早く別のコア・コンピテンスを見つけないと、現在のピジションの 維持は厳しいでしょう。
新しいパラダイムの下での、今後の各企業の動向が注目されます。
Nick Sakai
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