iPadはもっと改善できる。国内メーカーにもチャンスあり - 大西宏

大西 宏

いったん、知識やスキルが身につくと、そうでない人たちのことがなかなか想像できません。そんな混乱が、Windows95が大ブレークした頃に、よく取り上げられていました。マイクロソフトに質問が殺到し、その際のやりとりは本当に抱腹絶倒ものでした。まだWindows95の時代のことですが、パソコンを買った友人から電話がかかってきて、日本語入力に切り替えられないというのです。その頃は、ctrキーと半角/全角キーを押して切り替えるようになっていました。それを説明しても切り替わらないというのです。その時にはっと気づきました。きっとctrキーを押し、それから半角/全角キーを押しているのではないかと。それを指摘すると問題は解決しました。


iPhoneにしても、iPadにしても、よくできた製品です。芸術作品とでもいえるほど洗練されています。また、製品だけでなく、音楽、アプリケーション、書籍などを供給するプラットフォームなどのビジネスモデルもよくできています。

そして、とくにiPadは、これまでパソコンを敬遠していた、あるいは使えなかった人たちにも使え、情報通信革命を誰もが享受する可能性を広げた画期的な潜在力をもった製品だと考えています。

そういった人たちにも関心は広がっており、パソコンが苦手な自分たちにも使えるかという質問をよく受けるようになってきました。しかし、その返答には躊躇してしまいます。おそらく、使えるには使えても、誰かがサポートしてあげないと無理でしょう。

iPadには盲点があると思います。それはさまざまな操作がアップル流に完成されているからです。違和感なく使えるのは、パソコンを使い慣れている人、アップルを使っている人、iPodやiPhoneになれている人で、その他の人にはまだまだ使いづらいところがたくさん残っています。
iPhoneやiPadを評価する人たちもITリタラシーの高い人たちなので、それがあたりまえだという前提の評価が目立ちます。

問題はふつうのユーザーの人たちです。いまのiPadを使いこなすためには、きっとiPad教室が必要だと感じます。パソコン教室あたりでやれば、人気がでるかも知れません。

子供は問題ないでしょう。使うことを制限せず、自由に使わせれば、どんどんできるようになっていきます。子供の学習能力は桁外れです。
小さな子供でも使えるから、誰でも使えるというのは、大違いです。なぜなら、子供には思い込みがありません。白紙の状態で、やってみて覚えていくからです。大人は違います。これまでにさまざまな学習をしてきたために、さまざまな習慣や思い込みがあるので、実は大人のほうがやっかいなのです。

なにがネックか。いくつか感じていますが、最大は、iTunesによる同期が前提となっていることです。使い慣れていない人には、まったく直感的ではありません。写真でも、うっかり同期の指定を間違ってしまうと、せっかく入れたものもiPadからは消えてしまいます。マイクロSDを使えばもっと直感的に使えるようになるはずです。

第二に、あのワンボタンです。iPhoneがiOS4になり、かなり改善されましたが、iPhoneを使い始めたことは本当にイラつきました。iPadもそのうちマルチタスクになると思いますが、それを前提に考えても、普通の人にとっては、それこそ「体験」したことのない操作方法で、決して直感的ではありません。

第三に、さまざまなアプリケーションがそろっていることはいいのですが、なにがどう使えるのかがわかりません。ネットで評価や情報を調べればいいのですが、しかし、どう考えても、普通の人がそうして探すとは思いません。appストアで評価やリコメンデーションの機能があるのですが、まだ機能しているとは思えません。基本的なものはプリインストールしておくべきです。
パソコンでも、プロ用でなければ、さまざまな基本的なソフトがプリインストールされているほうが売れます。

他のメーカーにとっては、まだまだ参入する余地が残っていると感じます。細かくターゲットをセグメントして、なんらかの差別化をはかるという必要もありません。iPadとの直接競合を避けようとすればするほど、特殊用途のものになってしまう危険があるからです。まだまだ普及段階なので、ふつうのマスゾーンを狙うべきです。
iPadをベースに改善して、ふつうの人にとって、使いやすいタブレット型PCの仕様や、ビジネスモデルをアレンジすればいいのではないでしょうか。
興味や関心は、iPadが切り開いてくれています。iPadが切り開いた潜在市場を刈り取ればいいのです。

普通の人に使ってもらえばヒントはでてくる

コモディティの世界と比べると、情報家電のリサーチ力は低いと感じてきました。なぜなら、技術プッシュ型で市場が伸びてきたからです。また体験したことのないものは評価してもらえないという神話がいつの間にかできてしまったことも原因があります。実際には違います。要素を分解して体験できるプロトタイプをつくれば評価を得ることができます。ただリサーチコストはかかります。ネットでアンケートを取るという安易な方法では評価を取ることはできません。

タブレット型パソコンは、これまでのパソコンよりはるかに普及する、あるいははるかに多くの人たちが、使える潜在力をもっています。だからターゲットは若い人でも、先端を走っている人でも、パソコンやインターネットを使いこなしているITリタラシーの高い人たちではありません。
ふつうの人にiPadを使ってもらえば、いくらでも改善のヒントはでてくるはずです。それらを潰していくだけで、十分差別化されたものがでてくる可能性が高いと感じます。

アップル以外に、iPadを発案する創造力を求めても無理があると思います。なぜなら、ソフトバンクの孫社長が現代のダビンチだと絶賛しているジョブスはそう何人もいません。しかし、もうすでにiPadという雛形はあります。

しかも。個々の要素で解決すべき課題を見つければ、それをターゲットにして機能開発するのは、日本のメーカーは得意であり、お家芸です。そういった強みを生かせばいいはずです。
技術先行型の開発から、ユーザー先行型の開発へ切り替えれば、発想の転換も生まれてくるでしょう。そこからイノベーションが生まれてくることもありえます。

iPadには、iPad向けのアプリケーションの多さが参入障壁になると言う人もいますが、いまのところ使えるアプリケーション、人気のあるアプリケーションはかなり限られています。まだそれが決定的にはなっていません。

日本の情報通信革命にとって、ブロードバンドの利活用の低さが問題となっています。タブレット型パソコンは、その促進をはかる重要な鍵を握っていると思われるだけに、社会的使命を果たす好機を逃さず、日本のメーカーにもぜひ積極的にチャレンジしていただきたいものです。

株式会社コア・コンセプト研究所 代表 大西宏