もっとオーソドックスな政策が必要なのでは?!  ―前田拓生

前田 拓生

民主党政調は、財務省からの概算要求基準をさらに圧縮し、公務員および国会議員等の経費を削減することで「2兆円の特別枠」をねん出し、「雇用や経済を促進する」とのことです。「2兆円あればかなりメイハリのついた予算編成になる」と玄葉政調会長。まぁ、そうかもしれませんが、そうであれば、子ども手当などを考え直すだけでいろいろできそうなのですが・・・


とはいえ、子ども手当などはともかく、「雇用や経済を促進」ってどこかで聞いた覚えがあります。民主党としては散々な結果に終わった、あの参議院選挙前に、菅さん(およびそのアドバイザー)は「消費税を増税して雇用促進」と言っていました。消費税増税は流石にこの時点で話題にはできないでしょうが、「雇用促進」への意欲は衰えていないということなのでしょう。

確かに雇用が促進されるような経済であれば、強い経済成長が見込まれますし、景気も良い状態になっているでしょう。でも、現在のように財政危機に対する「将来不安」が強いために消費性向が低い状況において「雇用を人為的に創り出す」ことが強い経済に導くことになるのでしょうか?

経済にとって「雇用は大切」ではありますが、長期的に安定した雇用は、民間企業の労働需要との関係で考えるべきです。労働需給を無視して「政府が雇用を創り出す」ということは、「コンクリート」ではないだけで、単なる公共投資と同じであり、これでは根本的な問題解決にはなりません。しかも、「コンクリート」の場合には、1事業が完了すれば、とりあえず、そこで予算が切れるわけですから、財政負担に問題があれば、比較的容易(?)に削減することは可能でしょう。しかし雇用の場合には、一旦雇い入れれば簡単に削減することはできないので、政府支出における雇用の乗数効果が大して高くない状態においては、将来的に財政負担がさらに増大することになりかねない点が問題です。

つまり、「雇用が促進されるような経済が良い」ということで、「だったら政府が雇用を造ろう」という考え方では、一時凌ぎであるだけでなく、(ずっと雇い続けるわけだから)将来的な財政負担を増大させることにつながるので、景気をさらに下押す可能性さえ否めないのです。

これは「非伝統的な金融緩和であっても良いから、日銀が大胆に行動すれば、デフレが解消される」と主張する“過激なリフレ派”と同じなのです。

単におカネを増発(過激なリフレ派)したり、雇用だけを増やしてみても、企業や家計は「将来に対する不安」が解消しない以上、企業は(雇用も含めて)投資はしないし、家計も消費性向を高めることはあり得ません。むしろ、国家財政がさらに悪化するような状態になるのであれば不安心理は高まることから、資金循環が滞ることになり、経済はシュリンクする可能性が高まるでしょう。

したがって、「ホラ!簡単」というような政策を考え出すのではなく、標準的な経済学で導かれるようなシンプルなやり方を、根気強く丹念に行うことが大切なのだと思います。

現状、1人当たりGDPを考えてみると「1人当たりGDP≒労働力化率(※)×労働生産性」なので、現在(2007年度統計)23位の1人当たりGDPを浮上させるのであれば、労働力化率を引き上げるか、労働生産性を引き上げることになります。

(※)労働力化率=労働力人口÷15歳以上人口×100%

ここで労働力化率を引き上げるための即効性のある政策は外国人労働者を受け入れることでしょうが、これにはいろいろと議論があるので、この点は無視します。となると、少子化を何とかしなくてはならないということになります。そのための政策が「子ども手当」「高校無料化」などだと理解しています。「高校無料化」は基本的に賛成なのですが、「子ども手当」というやり方には疑問があります。やはり、「おカネを配る」ということだけで「少子化対策になる」とは思えないからです。したがってここは「仕組み」として「子どもを産みやすい環境作り」を考える方が良いと思っています。となると、かなり時間もかかるでしょう。とはいえ、そこはじっくりと根気強く政策を作り上げるべきしょうね。拙速に「こうすればよい」はありませんし、企業の理解も必要でしょう。また、地域のあり方も考える必要があるわけですから、いろいろな機会をとらえて啓蒙活動も合わせて、長期スパンで政策を考えることが大切です。

したがって、労働力化率は(将来は別として)すぐに云々できるようなものではありません。となると、労働生産性を高めることが必要になります。

コブ・ダグラス型の生産関数を想定すれば「労働生産性の変化=技術進歩率+資本の限界生産性」になります。ここで日本のような先進国は、概ね資本集約的な生産活動を行っているため、一般に発展途上国よりも「資本の限界生産性」が低く、この部分で労働生産性を高めることは難しい。したがって、技術革新が必要ということになります。ここで技術革新を促すためには、政府や既存の古い体質・産業からの規制を取っ払って、いろいろな主体が参入できるように規制緩和を行ったり、容易に創業できるようにするための資金供給システム(ベンチャー向けのファイナンスやマイクロファイナンス)の充実を図ることが大切になります(銀行等の預金取扱金融機関は、通貨としての預金を扱っている以上、資本を危険に晒すわけには行かず、なかなかこの種の資金供給には向かない)。

以上、かなりざっくりとした分析ですが、1人当たりGDPを高め、景気浮上、強いては経済成長を考えるのであれば、長期的なビジョンを持った少子化対策と技術革新を促すための政策が大切ということが言えます。特に中期的に考えた場合、技術革新を促す政策が重要であり、このような対策によって、日本の労働生産性が高まってくれば、企業の労働需要も高まり、雇用も促進されることになってきます(そうなれば、デフレも解消するでしょう)。このような経路で雇用が促進されるのであれば、力強い景気回復が見込まれるので、企業の投資も家計の消費性向も高まるものと考えられます。

とはいえ、この結論は何も目新しいことではなく、今まで多くの人に言い尽された話です。つまり、結局、景気を回復させ、デフレを解消するには、特別な政策を行うのではなく、オーソドックスな政策を忠実に行っていくしかないという話です。「国民受けが良いから」とか、「新しい政権だからそのカラーを出さないといけないから」とか、「選挙に勝たなければいけないから」などということで、奇をてらった政策を行ってみても、企業や家計の「将来への期待」は変化しないので、おカネの循環は生まれないものです。

おカネの循環は、目先の利害ではなく、将来の期待が重要であり、その期待を「どのように醸し出すのか」がポイントです。財政危機が叫ばれる中、「国で雇用を」などという話では、大きな政府になりすぎることは目に見えているわけであり、国民の不安を高めるだけです。

現状の民主党の政策は、当初(昨年の夏)、期待していたものではなく、目先の人気を気にし過ぎているように見えます。猫の目のように変化する国民(マスコミ)の意見に翻弄されるのではなく、衆院で過半数を占めているのだから、もっと長期的な視野に立って、ナショナルミニマムとしての社会保障、地域主権、市民参加など、基本的な政策を地道に積み上げていってほしいものです。それが「おカネの循環」を生み、国民生活の幸せにつながるのではないでしょうか?

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