少子高齢化と人口減少の中で、世代間格差は避けられない
年金や財政の観点から世代間格差が問題となっていますが、大局的にはアジア各国との競争・少子高齢化・人口減少による経済規模の縮小により、世代間格差は避けられません。
また戦略戦術レベルでも、
日本は有史以来の先進国で唯一、「ものつくり」を続けていますが、新たな成長戦略や得意とする産業セクタに特化していかない限り、アジア各国の収入体系に収斂されていきます。
企業でも終身雇用・年功賃金によって右肩上がりに収入が上がっていくやり方は、増える中高年社員と採用抑制によって、限界に近づいています。
大学で生涯収入を札束で見せる就職指導は、歪んだ雇用・世代間格差のシンボル
こうした中で就職指導に力を入れている一部の大学では、生涯収入を札束で見せて「正社員は2億1千万~3億3千万、非正規雇用では6100万~9100万」と、学生への危機感を募って就職率を高め、さらには全国から大学関係者が視察に訪れて内容を見て感心し、似た方法を採っているところも少なくありません。
しかしこの方策は大学を出て会社で1週間働けば、あっという間に矛盾に気づく指導をしていると言わざるを得ません。
主なポイントとして、
正社員でも企業の人事/処遇体系によって、近年では賃金カーブが30代そこそこで止まる場合が多く、インフレを想定しても実際に見込ほど稼げない場合が多い。
などがありますが、最大の問題として、本来の就職指導の目標でもあります、「ブランドや知名度だけではなく、中小企業でも自分に合った働きがいのある会社があるため、粘り強く活動しなさい。」といったメッセージにもかかわらず、さらなる大手志向が強まることにあります。
すなわち、
1)会社四季報などに出ている平均賃金やOB訪問などから、大企業と中小企業の差異を前提に、知名度と待遇の大きな大手志向がさらに強まる。
↓
2)無理を承知で、時には競争率が100倍以上に及ぶ大手企業にアタックする。
↓
3)ダメでも来年にチャレンジしたほうがまだメリットがあるため、さらに就職留年や大学院進学が増えてしまう。
といったことから、今の就職活動の中で「合理的な戦略」を行っていても、生涯全体や社会として見れば損失になっていることが、なおも平気で行われていると言えるでしょう。
こうしたことから避けられない世代間格差を、極力ミニマムにしていくためには、
1)雇用システムや社会の流動化を進め、機会を増やしていく
例えばIBMでは、全世界40万名の社員を10万名にし、残りをプロジェクトごとに契約社員で雇用する「人材のクラウド」化が検討されていますが、就業や雇用機会を増やしていく方法があります。
2)価値観のパラダイムシフト
人生の満足度や生きがいを生涯賃金やステイタスではなく、地域社会の中で生きる・社会に働きかける・自分が実際の業務や現場を支えている、といったことに力点を置くことが挙げられます。
(石川貴善 有限会社ITソリューション 取締役 http://www.it-planning.jp
コメント
高度成長期の労働世代と賃金に差がでるのは、ご指摘の通りグローバル化の影響で不可避でしょう。
雇用流動化という対策もその通りだと思います。
記事では年金などの社会保障制度に言及されていませんが、この点についてのご意見もお聞かせ願えれば幸いです。