★★★★☆
著者:磯崎 哲也
日本実業出版社(2010-09-30)
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長期不況の原因は単純ではないが、その一つは新しいビジネスを開拓する企業が出てこないことだ。これを「ベンチャー」とか「イノベーション」といったカタカナで語るとリアリティがないが、要は企業の新陳代謝である。日本の起業は先進国でも異例なほど少なく、それが大企業に成長したケースはさらに少ない。それはなぜだろうか?
著者もいうように、その原因はファイナンスではない。日本は超低金利が10年以上続き、市場には資金がダブついている。これ以上、日銀が量的緩和をしても、あふれているバケツに水を注ぐようなものだ。問題はそのバケツ――投資意欲――を大きくすることである。これを著者はケインズにならってアニマル・スピリッツと呼ぶ。それは金もうけの欲望ではなく、新しい事業を成功させたいとか世界を変えたいとかいう「おもしろさ」がいちばん大事だ。
もう一つは、人である。日本の大企業は給料も社会的地位も高く、いったん入れば40年間の雇用が保障されるので、若者がこういうローリスク・ハイリターンの職場を選ぶのは当たり前だ。しかし入ってみると、仕事はつまらないし上司はバカだし、いい仕事をしても何もしなくても給料は同じだ・・・というわけで会社を脱出しようとすると、そこには断崖絶壁のような「退出障壁」がある。ほとんどの人はそこで引き返し、「消化試合」をこなしながらサラリーマン人生を終える。
日本人にアニマル・スピリッツがないわけではない。終戦直後、ホンダやソニーを生んだころの日本は、世界一起業家精神の高い国だった。それが成熟し、系列化されることによって中小企業がベンチャーではなく下請けになり、硬直的な雇用慣行によって優秀な人材が墓場のような大企業にロックインされてきたことが、新陳代謝の減った原因である。
これを是正するには、リスクテイクを支援するしくみが必要だ。その一つの手段がファイナンスの多様化である。日本では、株式ベースの資金調達があまり発達していないため、ハイリスクの起業がしにくい。そういう経験もあまりないので、ノウハウが蓄積されない。このため資金は余っているのに、ベンチャーキャピタルがあまり出てこない・・・という悪循環に入ってしまう。
本書は多くのベンチャーの立ち上げにかかわってきた著者が、アゴラ連続セミナーなどの内容をやさしくまとめたもので、起業だけではなく「株式ベースのファイナンスの入門書」ともいえる。起業する人だけでなく、日本経済を考える政策担当者やイノベーションを考える大企業のサラリーマンにも読んでほしい。
コメント
連帯保証・経営者個人資産保証の問題は?
失敗したら親戚や親友の家族まで生命保険にサインさせられて首を吊らされる世界で、誰がチャレンジできますか?
>ケット
「失敗したら親戚や親友の家族まで生命保険にサインさせられて首を吊らされる」以外の資金調達法がないのが問題だと本文には(そしてたぶん紹介されている本にも)書いてあるはずですが。
仰ることはその通りで、全面的に支持します。
しかし、もっと根源的な行政上の事実がありまして、ここの読者も感じていると思われることの一つを述べておきます。
池田さんを始め多くの方が「雇用の流動化」を論じておられますが、この最大の障壁が雇用保険のシステムにあります。
自己都合退職と会社都合退職では雲泥の差があるのです。
今年の流行語で「リストラなう」が有りましたが、この出版社の方のリストラ体験は多くの方の共感を呼びました。
しかし実は弱小企業の殆ど全ての従業員にとっては、とても羨ましく感じられたでしょう。
リストラとは「勧奨退職」です。これは会社都合の退職ですから、弱小企業でも即効で失業給付が受けられます。大手企業なら割増の退職金が支払われたり、より有利になります。
しかし多くの弱小企業では会社都合の退職、つまりリストラとか勧奨退職を行ないません。
なんだかんだと理由を付けて自己都合退職に追い込むか、もしくは会社都合退職と認定されない範囲で給与を下げてくるとか、いろろな自己都合退職を誘引すべく嫌がらせを仕掛けてくるのです。
自己都合退職と、会社都合の退職の差別を無くす事の方が、取り敢えずの大きな課題といえると思います。
自己都合退職でも即効で失業給付を受けられれば、もっと雇用の流動化は起こると思いますよ。
もちろん会社都合退職でも3ヶ月は失業給付が受けられないという事でも同じです。
要するに差を無くせば、少なくとも現況より良くなると思います。