先日シャープから発表された新クラウドメディア事業「GALAPAGOS」。その専用メディアタブレットともども使用される愛称に苦笑した方々も多いと思う。アゴラをお読みの皆さんは、当然、ご存じだと思うが、以前から、日本独自の進化を遂げた、つまり国際標準ではないと日本の携帯電話機を揶揄して使用する言葉が「ガラパゴス」だったからだ。ガラパゴス携帯=ガラケーと呼ばれてきた。
しかし今回あえてシャープがこの名称を使用してきたのは大阪特有の“ボケ&突っ込み”の精神なのか? 関わってきた人たち個々人は内心、多少そう思っているかもしれないが、シャープが以前から創ってきたパーソナル端末「ザウルス」を知るものとしては、その延長線にある名称としては違和感がない。なんといっても、「GALAPAGOS」の主要書籍フォーマットのもととなる電子書籍フォーマットXMDFの拡張子は「.zbf」は、“ザウルス・ブック・ファイル”なのだ。
今回は、そのフォーマットでリッチコンテンツを提供すべく拡張XMDFを使用するそうである。そのおかげで12月サービス開始予定の電子ブックストアサービスでは、10年も前からサービス提供している「電子文庫パブリ」の電子書籍をそのまま提供できる。このサービスでは、そのほか新聞、雑誌や独自のリッチコンテンツを加えた当初約3万冊でオープンとのこと。海の向こうのキンドルが発表時に当初9万冊からオープンしたのに比べ、見劣りはするが、こちらは日本語コンテンツのみなので、それも致し方ないところだろう。
Twitterやブログを見てみると、この愛称とサービスについての意見は、賛否両論といったところだろう。というのも私の周りにいるITにそれほど強くない人は、「ガラパゴス」=ネガティブイメージではないし、そもそも「ガラケー」という言葉を知らない人も多かった。また逆に「ガラパゴス」という名称自体は、IT系の人々を中心に広く知れ渡っているから、新たに名称を認知させることを思えば、数億円以上の広告効果があったともいえるだろう。
シャープは、このクラウドメディア事業をAppleのiTunesと同等のサービスにしたいようだ。つまり、端末販売を手掛け、そこに各種アプリを含むデジタルコンテンツを販売するわけだ。日本から発信して海外へも、との目論見はあるそうだが、どう考えてもそう簡単に海外へ普及するとも思えない。言葉の壁は厚くて高いのだ。となると、まずは、日本に最適化して、iTunes の日本独自版としての地位を確立することが先だろう。となると売上高はこぢんまりとしたものになる。ここから利益を上げようとすると、これまたそんなに多くは見込めない。
そもそもこれらのサービスは、端末が普及しなければどうにもならない。AppleはiPodという端末をほとんど値引くことなく全世界に普及させたが、日本国内限定とはいえ、それをやるのには体力が必要だ。シャープは、まず来年の早い時期に100万台の販売を目指すという。そうとう強気の計画だ。これには、端末普及のためになにかしらに秘策が必要である。まさか一時のソフトバンクのようにタダで配るということはないだろうが、なにが出てくるか楽しみだ。
ともあれ、今回、シャープがこの新事業を立ち上げたことは大歓迎だ。そうとうな規模の予算をとっての参入だろうし、愛称に秘めた決意から、そう簡単に撤退もできないだろう。であれば、「GALAPAGOS」周辺ビジネスも活況になるし、その辺りにシャープもしばらくは投資すると思う。雇用創出にもなるし、コンテンツ制作会社にもおこぼれが回ってきて元気になるだろう。それが消費にまわればいうことない。4色アクオス「クアトロン」で大いに儲けて、「GALAPAGOS」に投資して盛り上げてほしい。そうすると出版社も新刊を出そうという気にもなるだろうし、電子書籍で上質の新刊がそろえば、コンテンツ勝負の電子書籍自体も活性化するのではなかろうか。