中国は刀を抜く時期も方法も間違ったと思う

大西 宏

中国の外交方針は、�眷小平の「韜光養晦、有所作為」つまり才能を隠して控えめにふるまい、なすべき事はなすという教えがあり、「むやみやたらに敵を作り自己の力をひけらかしては大きな問題が生じる」という戒めがあったはずですが、今回の尖閣に関しては前者を捨て、「有所作為」に走った中国の姿が、国際社会には映ったはずです。尖閣問題で中国に乗じたのは、北方列島の領有権を主張するチャンスだとばかりに擦り寄ったロシアぐらいでしょうか。


中国がいかに尖閣で日本に強気の姿勢を出したとしても、それを長期化させることはできません。2009年には、中国はドイツを抜いて、世界第1位の輸出大国と第2位の輸入大国となりましたが、GDPに占める輸出のウェイトは、36.6%をも占めており、輸入も加えるとGDPの47.1%にものぼる貿易依存度の高い国で、自国の経済にリスクを生む外交摩擦は中国にとれないはずだからです。しかも、その輸出の中味は外資企業の割合が55.9%を占めており、外資企業が原材料・資材などを中国企業に提供し、加工を請け負っているのが現実です。

中国への警戒感が高まり「脱中国」の流れが起これば、現在急速に起こってきているアセアン地域の生産拠点拡張の動きにさらに拍車がかかってくることも考えられます。それは中国にとっては大きなリスクになります。

中国政府は認めていませんが、レアアースの輸出制限を行ったことは、実際の影響を超えて、WTO違反だという非難が起こり、それでなくとも苛立つアメリカの中国への警戒感を高める結果となっています。それだけでなく、レアアースの資源国オーストラリアなどにレアアース開発へのやる気をださせる結果となりました。自ら切ったカードが、、カードの有効性を失わせる皮肉な事態を呼ぶ結果になりそうです。

レアアース輸出に積極姿勢 将来は対中輸出も 豪企業

また、現在は「通貨安戦争」とも言われる状況が世界経済の先行きを不透明にしはじめていますが、中国の人民元安が米国内部の苛立ちになってきているさなかの対日強硬策がどう影響するのかは注目されるところです。強行カードを連続して切ることはできず、米国に対して妥協点を探ることになるのではないでしょうか。

しかし、中国のとった強気の外交を裏目にするのかどうかは、ひとえに日本の問題ではないかという気がします。アメリカはオバマ大統領が国連での温家宝会談で、一切尖閣問題に触れなかったそうですが、アメリカにとっては、通貨問題の方が大きく、あてにはできません。実際、国連でのオバマ大統領と温家宝首相との会談で尖閣問題は、日中両国間で解決すべき問題として、触れられませんでした。

日本は、これまで、貿易の最大相手国が米国だった、しかも日米安保条約で米国に守られているということもあり、外交に対しては独自の展開をしてきたとはいえません。今回も、そのことを痛切に感じさせました。中国の強硬姿勢に眉をひそめた国は多くとも、日本に表立って味方する国がいなかったのです。

日経の有料記事ですが、米国は、中国もやがては労働人口が減少することで、成長力を失うことを見越して、微妙に輸出政策に変化がでてきているというコラムがありました。
5年間で米国の輸出を倍増するための「国家輸出戦略」の報告書が発表されたのですが、米輸出入銀行が選んだ9つの高い潜在力を持つ国々が挙げてありそこに中国の名はないのです。
対中姿勢、米に微妙な変化(グローバルOutlook)

今回ほど、日本で人びとが中国に怒りを感じたことはなかったと思います。また外交力のなさも痛切に感じ、それがさらに苛立ちとなっていると感じます。

しかし、外交力のなさを人びとが自覚し、外交力を高めなければならないという国民のコンセンサスを、今回の中国の強硬外交はつくってしまったのではないでしょうか。それは日本の将来にとって、千載一遇のチャンスを中国がはからずも、つくってくれたのではないかと思います。そして、そのボールは今は、政治に投げられた状態です。

ただ、外交は切り札となるカードをどれだけ持っているかで決まります。しかしカードづくりは一朝一夕にできるものではありません。長期的な経済戦略、また外交の積み重ねを要します。

残念ながら、今は日本は韓国ほどではありませんが、中国が最大の輸出相手国であり、2009年の輸出の18.9%を中国が占め、また輸入も、中国が22.3%とトップです。この構造は、相互依存的であり、もちろん中国にとっても弱みとはなりますが、外交力がなく、また台湾が中国と急接近しており、アメリカ以外に強い味方を持たない日本は、もろにその弱みが効いてしまっています。

今回は政権交代、さらに内閣改造の空白に起こったことですが、ぜひとも、尖閣問題を超えて、日本の外交政策についてしっかり議論をやって欲しいし、外交は長期的な積み重ねが必要であり、いつ政権交代があるかわからない状態では、コンセンサスのとれるところから、超党派で着実に実行してもらいたいと痛切に感じます。

コア・コンセプト研究所 大西 宏