ネットでは一昨年あたりからだと思いますが、地デジ化にともなって生まれる電波の空き周波数帯の活用について、池田信夫さんを筆頭に、さまざまな議論がありました。しかし、一般にはあまりよくわからない問題としてとらえられていた感があり、大きな世論のうねりとはなりませんでした。
電波のホワイトスペースをどう活用するかは、日本だけの問題ではないわけですが、蓋を開けてみると、日米の方針の違いには正直言って驚きました。
あまりにも発想が違います。米国は、いったんはホワイトスペースの開放を求めたグーグルの主張を退けたのですが、日本の総務省にあたるFCCが決定した方針は、いくつかの条件は付いているものの、基本的にはこの電波帯を開放し、そこで通信のイノベーションを促そうという戦略を採用しました。Wi-Fi2.0とかスーパーWi-Fi構想といわれるゆえんです。一方で、日本の総務省がとった戦略は、「地域活性」という看板はいいのですが、その活用について、アイデアを公募するという民主主義的手続きによって、結局は既得権益を持った放送局がホワイトスペースの活用し、地デジ放送を行なおうというものです。
スーパーWi-Fi対ワンセグ?(池田信夫ブログ)
なにが違うのでしょうか。米国はさらに国際競争力を高める可能性にかけたのと、日本は、傷んだ地域経済や既得権益をもった業界の再生かけたという違いです。新たな成長を促す戦略的な発想と、停滞しているところに、対処療法としてホワイトスペースを活用し、経済を再生しようという発想の違いです。だから、地域向けのワンセグ「放送」が増え、ネットで双方向で使えるデジタルサイネージも一方通行の「放送」にします。
米国は、電波の干渉で問題になっていたテレビや無線マイクなどの信号を検知する機能の搭載の義務を外したわけですが、それはとりもなおさず、「放送」や「無線マイク」を捨て、Wi-Fiの発展を選んだことになります。
この戦略発想の違いは、日本の経済が停滞してしまった原因と重なって見えてきます。1980年代にことごとく、日本やドイツの製造業の敗れた米国がとった戦略は、古い産業を捨て、情報通信などの新しい産業育成にむけた国家戦略でした。成長力が期待できない古い産業は残さず、どんどん更地をつくっていくという戦略です。
一方、日本が経済の停滞に対してとってきたのは、経済対策という名のもとに、公共事業を起こし、雇用を維持したのと、既存の産業の救済策でした。
結果はどうでしょうか。日本は産業構造の転換に遅れ、結果として「ものづくり」しか強みがなくなってしまいました。部品、素材、製造設備などの「ものづくり」が強みになってくる分野を除くと、途上国の発展の影響を受け、シェアを奪われ、途上国の技術が向上するとともに、どんどん国際競争力を失ってしまいました。
FCCチェアマンが、「米国の国内経済とグローバル市場における競争力を高め、数十億ドル規模の民間投資と価値のある新製品や新サービスを生み出す。いま予想できるのはごく一部に過ぎず、多くは想像もつかないようなものになるだろう」(マイコミジャーナル)と高らかに宣言しているのと比べて、日本の場合は、経済効果はほとんど期待できないと感じます。
“Super Wi-Fi”実現まであと少し、米FCCがホワイトスペース運用規則を承認
政府がイノベーションに関してできることはあまりありませんが、電波という許認可を握っている分野は、数少ないイノベーションが起こってくる環境や、インセンティブをつくることができる領域です。その活用について公募しても、イノベーションについての議論にはならず、せいぜい目先の活用アイデアしかでないことは想像に難くないのですが、やはり出てきたアイデアは、その通りになりました。
しかも地域放送にしても、さまざまな情報を大型の液晶などで表示させる、電子看板のデジタルサイネージにしても、双方向のインターネットが得意とするところであり、ソーシャルメディアと組み合わせれば、一方通行の放送ではできないことができます。それをわざわざ放送というコストのかかる古い技術を使うというのは素人からみても合理性がありません。
通信に関しては、光ファイバーを全国の全家庭、津々浦々まで張り巡らせる「光の道構想」を支持し、主張するソフトバンクの孫社長と、日本の情報通信革命の遅れは、インフラよりは利活用の遅れにあり、問題のすり替えだという佐々木俊尚さんや、「光の道構想」は事業主体がNTTであり、孫社長がNTTの経営権を握らない限り現実的ではなく、むしろ、光ファイバーではなく電波帯利用のイノベーションをはかる電波政策のほうが重要だという池田信夫さんの熱いバトルがストリーミング放送であった記憶は新しいところです。
正直言って、用意周到に資料を整えた孫社長の勢いに押された感がありましたが、その孫社長も、電波を否定しておらず、光も電波もということで議論が終わってしまっていたと感じます。
孫社長と佐々木俊尚さんとの対談の内容や、その焦点をまとめた書籍がでていますので、見逃した方はぜひご一読されることをおすすめします。
著者:孫 正義vs佐々木 俊尚
文藝春秋(2010-10-19)
しかし、今回のホワイトスペース特区構想で、その電波の活用については、大きく後退する危惧が高まっています。「光も電波も」というどころではなくなってしまいかねないのです。
放送局、携帯キャリアという既存の枠組みが守られ、イノベーションを起こってくる更地ができません。さらに、情報通信に関した次世代の通信競争で、また日本は携帯で行った失敗、世界に通じる規格を持たず、主導権をとれないどころか、市場への参加権も失ってしまいかねません。変革を求めている情報通信を、対処療法に活用しようという今回のホワイトスペース特区構想は、既得権益側のマスコミは、何が問題かをほとんど取り上げませんが、日本の将来の成長戦略の致命傷になりそうだと感じます。
コメント
目に見えて致命傷になるようなことは無いでしょうね。今有るものが無くなるわけでもなく、ただ外国が猛烈な勢いで発展していって日本が取り残されるだけですから、ゆっくり死んでいく速度が少し加速されるだけです。
望みがあるとすれば、実際にエリアワンセグが使われる場所は、ごく限られるだろうということです。人口カバー率なら2割とか3割になるかもしれませんが、面積でいうと98%くらいが活用されないまま残るんじゃないでしょうか。
米国のSuperWiFiが成功すれば機器価格はマジコン並みになるでしょうから、ちょっと詳しい小学生なら校区内にネットワークを組むことも可能になります。そうなってから 『インフラビジネスとして儲ける』 ことは望み薄ですが、少なくともユーザーの利便性は確保されます。
そうなる前に、米国が一定の成功を収めた頃までにWiFiへ方向転換してくれれば、まだ上出来の部類なんですが・・・無理かなぁ。
河野太郎議員の暴露
http://www.taro.org/blog/index.php/archives/822
が正しいとしてですが、
それまでテレビショッピングにはうんざりするだけでしたが、
この暴露を見てから憤りを感じるようになりました。
電波という限られた国民の共有資源を放送局に特別安く使わせたのは色々な意味があったのかもしれない。
また放送産業が衰退し事業が立ち行かなくなるのは時代の流れだからしょうがないのかもしれない。
しかしだからといってこのテレビショッピングの氾濫は、
格安に割り当てられた電波枠を通販業者に横流しで切り売りするのと同じでしょう。
本来の放送事業が成り立たないなら、業界を縮小再編し、
電波をもっと有望な産業分野へ振り向けるべきでしょう。