嫌中派の方が中国を批判する理由の一つとして、民主的な政治体制でない事をあげる方が多いようです。日米を含む先進国においては、国家を経済的・文化的に発展させる土台として、民主主義は重要な制度の一つであると考えます。しかしながら民主主義が完璧な制度でない事は、民主化されたロシア連邦政府がチェチェン共和国などの連邦国家の独立を武力阻止している状況を見れば明らかです。そういえば、日本の東条内閣も、ドイツのヒットラー政権も、民主的なプロセスによって誕生しました。
中国に高いレベルでの民主化を要求する米国ですが、誕生した瞬間に現在のレベルの民主主義を実現した訳ではありません。植民地時代には、非民主的手段で江戸幕府の鎖国をこじ開けました。また奴隷制度という歴史があり、南北戦争後もタスキーギ梅毒実験のような問題があり、それらを自らの力で乗り越えて、現在の民主的レベルに達しました。民主主義というのは、現代の米国人や日本人にとっては自明と感じられるかもしれませんが、初期には形式的な民主主義の時代があり、政治や人権など、国内のいろいろな問題を乗り越え、国民自身の文化的成熟のレベルに応じて、民主主義のレベルアップが行われてきた事を忘れるべきではありません。
民主主義政府ができる前は、政治を国(=独裁者とその政府)が独占しているので、行政に不満があっても、国民自らがなんとかしようという積極的な参政意識は希薄です。独裁から民主制へ形式的に移行しても、大多数の国民の参政意識が自発的に高まるまで、一部の人間による政治の独占は続きます。参政意識が高まっても、大多数の国民の文化的成熟度が高まるまでは、長期的に民主主義を維持できるようになる迄にはいくつもの落とし穴があります。強い民族主義や利己主義のぶつかり合いによって合意形成が困難になり、イラクのようにグループ間で内戦に突入する可能性があります。あるいは多数派の国民の民族主義的エゴを達成しようとする、ロシアのような政府を生み出すかもしれません。こうして考えると、国民の文化的成熟度と無関係に民主主義や自由主義を導入する事は、当事国の国民にとって更なる不幸を生み出す可能性があります。
中国は清の滅亡から毛沢東の時代が終わるまでの長い混乱と停滞の時代がありましたので、現代の中国という社会が、民主主義とか自由主義という概念を十分に理解しているとは考えられません。�眷小平が改革開放の結果、最近になって2億人くらいの国民が文化的な生活を享受できるようになりました。彼らは民主主義というものを理解しつつあると考えますが、残りの大多数(11億人)はいまだ、そこに到達していません。民主主義の基本は多数決です。一部の人権活動家の意識が高まるだけではどうしようもありません。国民の大多数が文化的に未熟な状態で、形式的な民主主義を与えられたら、いったいどうなるでしょうか。世界最大の民主的社会が生まれるか、漢民族の独裁政権が生まれて「もともと中国の領土」を回復する為に韓国やベトナムへ侵攻をはじめるか、あるいは国家が細かく分裂して21世紀の戦国時代がはじまるか、誰にも予測できません。もし内戦が始まれば、欧米の武器輸出産業にとっては絶好の商機でしょうが、中国国民と、日本を含む周辺国家にとって、非常に困った状況になるのは明らかです。
世界のある地域の政情が安定している時、それを納めているのが独裁者であれ共産党であれイスラム原理主義者であれ、パワーバランスが保たれている必然的な理由がある事を忘れるべきではありません。民主主義は魔法の杖ではありませんから、議会制民主主義に移行した国が、たちまち日本や米国のようになる訳ではありません。無責任な民主主義のプッシュは、単にパワーバランスを壊して、当該地域の国民を不幸にするだけかもしれません。中国は毛沢東の時代にチベット民族を激しく弾圧し、その後も2度の天安門事件を起こしました。しかしながら現在の政府は、国の発展(=経済的発展)という戦略的目的の為に、段階的な民主的レベルの向上(=治安維持を目的とした規制の緩和)を行っている事実を認識するべきです。
中国政府が民主的レベルを向上させる必要がなぜあるかですって?合理性を重んじる中国人にとって、規制を緩和しなければ経済が発展しない事は自明だからですよ。
(石水智尚 インターネットソリューションズリミテッド役員 ブログ)
コメント
>嫌中派の方が中国を批判する理由の一つとして、民主的な政治体制でない事をあげる方が多いようです。
それはひどい事実誤認です。
中国を好きになれない一番の理由は、反日政策をとっていること。次の理由は言論の自由がないことでしょう。民主主義かどうかなんて普通の日本人は問題にしてない。
台湾人がそうであるように一般的な中国人は親日ですし、情報操作されていることに気づいています。反日政策をやめて情報公開を進めれば日中関係はとてもうまくいくと思うし、一日本人としてそういう社会情勢になることを願ってます。
正直それまではあまり関わりたくないです。
日本に生れて良かった。
kaku360さん
半日政策は江沢民政権の時代かと思いますが、胡錦濤の現政権の時代ではありませんね。言論の自由については、記事で述べた通りです。
関わりたくないという気持ちは理解できますが、日本が中国の周辺から遠ざかる事はできませんから、中国が日本を無視してくれないのが難しいところです。
東條は天皇によって首相に任命されました。「民主的プロセスによって誕生しました」の意味がわかりません。
「反日政策は江沢民の時代で胡錦濤の時代ではない」というのも不可解。二つの政権の政策の間には連続性があるからです。
qingmutongさん
>東條は天皇によって首相に任命されました。
明治政府以来、日本は立憲君主・議会制民主主義ですので、東条首相だけでなく、歴代の首相はみな天皇が任命していると思います。これは民主的プロセスといえませんか?
>二つの政権の政策の間には連続性があるからです。
同じ党による政府という意味での政策的継続性はあります。ところで胡錦濤は国家主席就任以降、江沢民と上海閥の影響力を減じる為に、汚職を理由に、江沢民派閥の高官や財界人の摘発を精力的に行っているようです。2006年に上海市長の韓正が更迭された話しは有名です。なお、胡錦濤が積極的に反日教育を続けているという話しはあまり聞きません。もしご存知でしたら教えてください。
すみません、訂正です。2006年に更迭されたのは元上海市長の
陳良宇です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B3%E8%89%AF%E5%AE%87
現在の中国の政権が反日政策をとっている証拠はいくらでもあると思うのですが・・・。過去のことと考える理由がよくわかりません。
何度も言って申し訳ないですが、反日を国の方針としている国と仲良くできるわけがない。また、言論の自由のない国では、国家権力の犠牲になる人が救われません。
現状認識が違っているので議論になりませんね。
とりあえず、ノーベル平和賞の授賞式に日本大使が出席することになってよかったです。
やれやれ。まだ、おっしゃいますか。
Wikipediaには、民主主義についてこう書かれています。「歴史的に民主政・民主制は、衆愚政治という否定的な意味合いが強かったが、立憲主義、自由主義、人権の概念と結びつくことによって近代に至って大きくその意味合いを変じていった概念である。」そうなんです、民主主義だから悪辣国家から離脱できるのではなく、自由主義と結びついて悪辣から、少し離れることが出来るのではないかと思います。
いいですか、「長い混乱の後だから、民衆が自由主義を理解していない」のではなく、「共産党が民衆に自由を許さない」だけなのです。
封建制の江戸から明治になった時に、時の政府は言論の自由をかなり認めてますよね。だから、政府批判をさせてますよね。それが、多数の政党を認めることに繋がってます。
中国は、多数の政党を認めてますか。
その自由の無さだけで、失格ですよ。しかも、覇権を求める政党であり、独裁なんです。だから、悪辣国家になっているのです。
>4.
>明治政府以来、日本は立憲君主・議会制民主主義ですので、東条首相だけでなく、歴代の首相はみな天皇が任命していると思います。これは民主的プロセスといえませんか?
戦前の日本を「議会制民主主義」と呼ぶのは、相当に無理があると思います。そう呼ぶためには、少なくとも普通選挙で選ばれた議会の多数派の意思に基づいて、内閣が組織されている必要がありますが、戦前の日本で選挙結果に基づく政権交代が実現したのは、恐らく一度だけです(第一次加藤高明内閣、普選実現はこの後)。第一次大戦後の約10年間は「民主化途上」ではあったと思いますが、東条内閣はこのプロセスが完全に挫折した末に誕生しました。
kakusei39さん
>「共産党が民衆に自由を許さない」だけなのです。
前回と今回の記事の趣旨でもありますので、中国共産党が民衆のどんな自由を許さないのか、具体的に書いて頂けないでしょうか。
私が知る限り、現代の中国で極めて制限させているのは、政治に関する自由かと思います。ネット上には、非常に多様な言論があります。私も時々、面白い議論があると、うちのスタッフに見せてもらいます。ネット上の言論は、それが政治的なものでなければ、比較的自由かと思われます。でなければ、中国で掲示板やブログはすべて禁止されているでしょう。
文章の中に「治安維持を目的とした規制の緩和」とありますが、本当にそのような緩和が起きているのでしょうか?
具体的に記載してもらえば勉強になりますし、認識を改めます。
この記事は、民主主義は万能ではないということを言いたいのではないですよね。そんなことはみんなわかっていることです。
この記事の目的は、中国の民主化は時間がかかるということを広く知ってもらうことだと思います。
それなら現実に進んでいる民主化へのステップを記載するのが一番ではないでしょうか。
これまでの歴史や流れ、急速な民主化による社会的混乱の予想などは、人それぞれ違うものですから。
広く、一般に読んでもらうなら、もーちょっと、物事を調べて、ものを書いた方がいいですね。それに、表題も、ミスリーディングなものだし。まぁ、妥当な表題は、”なぜ、中国自身が民主化を推進する必要があるか”くらいでしょう。だが、この主旨では、最後に言い捨てのような言明があるだけで、まともな論拠は、張れてない。
1)東条内閣は、民主的手続きで選ばれたのでないことくらい、ちゃんと、歴史を勉強した高校生なら、誰でも知ってることです。
東条内閣は、近衛首相が、日米協議が暗礁に乗り上げて、和戦の決定をしなければならない日限(前の御前会議決定事項)になって内閣を投げだしたので、天皇側近と重臣の協議で、天皇から指名で内閣組閣となりました。
これの、どこが、民主的プロセスなの?
2)ロシアが問題ない民主主義国家か?
2008年版のDemocracy Index によると、ロシアは、調査167国家の中で、107位だ。ちなみに、PROCは、136位。
2010年版のCorruption Indexでは、調査178国のなかで、Russiaは、154位だ。PROCは、78位。
>「民主的レベル」
民主主義というシステムが健全に機能するためには、国民の文化的レベルの向上が不可欠であるという論理はよく分かりましたが、最後の方に出てくる「民主的レベル」という言葉の定義が曖昧で論点がおかしくなっているように思いました。「文化的レベル」と言い換えた方が良いのでしょうか?
>中国政府が民主的レベルを向上させる必要がなぜあるかですって?合理性を重んじる中国人にとって、規制を緩和しなければ経済が発展しない事は自明だからですよ。
民主主義と合理性は相容れない概念だと思います。
kaku360さん
>「治安維持を目的とした規制の緩和」とありますが、本当にそのような緩和が起きているのでしょうか?具体的に記載してもらえば勉強になりますし、認識を改めます。
長くなるので、私のブログへ記事としてアップしました。ご参照下さい。
http://bobby.hkisl.net/mutteraway/?p=2977
heridesbeemerさん
>東条内閣は、近衛首相が、日米協議が暗礁に乗り上げて、和戦の決定をしなければならない日限(前の御前会議決定事項)になって内閣を投げだしたので、天皇側近と重臣の協議で、天皇から指名で内閣組閣となりました。
上記記述は、東条氏が首相に就任した事が、大日本帝国憲法に違反しており、違憲であり無効であるべき、という意味でしょうか?
heridesbeemerさん
>ロシアが問題ない民主主義国家か?
ご指摘の通り、ロシアは一党独裁体制のシンガポールよりDemocracy_Indexが低いようです。嫌中派の方の代表的な批判理由が議会制民主主義の有無でしたので、議会制民主主義制度の導入が、必ずしも解決策ではない事を示すために、ロシアの例を紹介させて頂きました。
ikametさん
>「文化的レベル」と言い換えた方が良いのでしょうか?
仰るとおりです。
>民主主義と合理性は相容れない概念だと思います。
説明が足りませんでした。中国政府と共産党の目的は経済発展です。経済発展する為には、改革開放(=資本主義市場経済)における自由競争が必要です。健全な自由競争の育成には民主主義が必要です。
ゆえに、合理的に経済発展を行うためには、民主主義的な文化が必要だという意味です。
14へのフォローアップ
有名な荻外荘会議のあとで、1941年10月16日に、近衛文麿は、内閣を投げ出したわけです。しょうがないので、誰を次の首相にするかというのは、木戸幸一や、近衛を含む首相経験者の意見を聞いて、天皇が、東條英機に指名、組閣となったわけです。旧憲法では、これは、なにも、違反していない。しかし、これの、どこが、民主的プロセスなの。
どこに、民意が反映されているの?
さらに、旧憲法では、いくばくかの民意が反映されているといえる衆議院でも、内閣を罷免することはできないのだから、やはり、民主的プロセスが機能しているとは、いいがたい。衆議院では、衆議院として、この内閣は不適切なので、信任しませんよ、と天皇に上奏できるだけ。天皇が罷免しなければ、それまで。
>上記記述は、東条氏が首相に就任した事が、大日本帝国憲法に違反しており、違憲であり無効であるべき、という意味でしょうか?
したがって、上のあなたの記述は間違い。
いえるのは、あなたが、自国の極めて重要な現代史も知らずに、こんなところで、広く自分の無知をさらけだしてることだけ。
政治に関して自由が制限されていることは、ご存知じゃないですか。これが、基本です。
国民が自分達の政府を選ぶ権利が保証されていない、これは根本的なことです。そして、政府を取り替えられないから、政府はどんな悪いことでもできると言うことでしょう。
文面からは、政治的な自由がなくても、その他の自由があれば、国民は不自由ではないような雰囲気があるのですが、もしそうお考えなら、商売さえ出来れば満足と言う、拝金主義の人なんでしょう。
平気で、商売の自由さえあれば、満足等と言う考えで、中国を擁護しておられるのなら、中国国籍を取得されることをお勧めします。
heridesbeemerさん
大日本国憲法が制度的に議会制民主主義である事に同意していただけますか?
憲法違反を犯さず、制度にそって運営されている議会の元で選ばれた首相であれば、形式的には民主的プロセスを踏んでいるという事は間違いではありませんね?
>民意が反映されているの?
日本の首相は国民による直接選挙ではありません。
kakusei39さん
話しがすこし逸れて来た感があるので、議論をもとに戻しましょう。
>いいですか、「長い混乱の後だから、民衆が自由主義を理解していない」のではなく、「共産党が民衆に自由を許さない」だけなのです。
「共産党が民衆に自由を許さない」は現在の中国を正確に表していません。私の前の投稿で、中国が資本主義市場経済へ移行したと述べました。共産党は既に、市場経済では人々に自由を認めています。一般の経済人だけでなく、地方政府の高官、共産党や人民軍関係者も、資本家として市場における自由を獲得しています。そして若者はネット上の自由があります。これらの自由が、彼らの文化に与える影響は計り知れないものがあります。
中国で経済を通して自由を体験した中産階級以上の数が2億人、ネットを通して自由を体験した人は4億人を超えています。
政治的な自由は、自由主義にとって重要かもしれないが、人々が積極的に望まない限り、現実的にどのような差が生まれるというのでしょうか。