今年3月にも大騒動になった東京都のいわゆる青少年健全育成条例改正問題。あのときは広範囲なロビー運動が功を奏してかお流れになったが、11月30日からの都議会に改正案を再提出するという。というか、もうされたのだろう。リークではなく、東京都のサイトに改正案が載っている。
これの新旧対照表(PDFが開きます)というのがいわゆる「縦書き」というやつで、具体的な条文の改正点がわかるようになっている。表現規制に関してはすでに活動している方も多く、またもや錚々たるメンバーが名を連ねていらっしゃるので、僕的にはそこの影に隠れている青少年のネット利用の部分に注目してみたいと思う。
まず第五条の二だが、東京都規則で定める基準に該当するケータイや機能を推奨することができるとある。その推奨には、業界関係者、保護者、学識経験者などの意見を聴かなければならない、ともある。さてそのヒアリングの相手だが、それが以前からメンバーや議論の方向性に偏りがあると指摘している東京都青少年問題協議会を指しているのであれば、おそらく行きすぎた規制となりうるだろう。少なくともこういうことを言い出すからには、東京都からも安心ネット促進協議会に人を出して、コミュニティ検証作業部会とかを傍聴すべきである。ネットと子どもたちのコミュニティ、そしてそれをとりまく大人達の取り組みの現状など、一番情報が集まっているのがここである。なんの調査もせず、ネットには危険が蔓延しているという思い込みやイメージ、聴いた話だけで規制に走ることがないよう、ここは東京都や警察と利害関係のない第三者であることを担保する必要がある。
第十八条の七では、いわゆるフィルタリング事業者らに対して、サービスの性能および利便性の向上を図るよう努力義務を定めている。まあ確かにそれら事業者が東京都に集中していることは事実ではあるが、それは都の条例に書くことか? いわゆる東京ローカルのルールの中に、全国規模の事業者の役務を努力義務であるとしても規定していくのは、行きすぎというか、フィルタリングソフト開発事業者が東京にない場合全然意味がないので、規定するだけ無駄ではないか。そもそも青少年ネット規制法の第二十条にも同じ事が書かれている。ただ国の方は「有害情報」とざっくりしたくくりであるのに対し、都条例は青少年の売春、犯罪の被害、いじめ等と具体例を挙げている。ただ青少年の売春、犯罪の被害、いじめというのは、ネットが関与することもあるかもしれないが、ネットの有害情報の影響によって発生しているとは言い難い。とくにいじめなどは、ケータイを使わない小学生の間でも起こっていることを考えると、もうちょっと社会全体の責任として視野を広げるべきであろう。
フィルタリングに関しては、親がフィルタリングを外しにくいような措置がとられているが、これは今まだ保護者に対する情報リテラシー教育が全然間に合っていないという現状を考えれば、いたしかたない範囲かと考える。つか、こういう話に付いてこれる保護者は問題ないんだけど、世の中にはとんでもない親はいるからね。
しかしどうせフィルタリングのあり方を再規定するのであれば、健全育成の理念に照らして、子どもの成長やリテラシーの習熟度に合わせた段階的なフィルタリングの提供を義務付けるといった方策が欲しいところである。そうしないと、リテラシーを学んでも結局フィルタリングで見られないままでは、学習のインセンティブが得られない。飴がなくて鞭ばっかりじゃ、人は動かないよ。
第十八条の八では、保護者の責務を定義している。しかし「青少年のインターネットの利用を的確に管理する」とか簡単に言ってくれちゃうけど、ケータイに関してはそれをやるためのツールや仕組みがないので、実行は事実上不可能である。せいぜい毎月のケータイ料金を調べるぐらいのことが関の山だ。子どものケータイが家庭内のサーバを通っていて、全部アクセスログが残るというのなら可能だが、そうはなってない。仮にできたとしても、全家庭でそれがやれるスキルはない。みんながみんなネットワーク技術者じゃないんだから、これは無茶だろう。
MIAUでも今回の改正案について、何らかのコメントを発表する用意をしている。オレより頭いい幹事諸君が、硬軟織り交ぜつつ色々やってくれることだろう。
著者:永山薫
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(2010-08-13)
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