著者:辻野晃一郎
新潮社(2010-11-22)
販売元:Amazon.co.jp
★★☆☆☆
日本企業からイノベーションが失われたといわれて久しい。それを象徴するのが、日本のイノベーターの代表だったソニーの凋落だ。著者は、ソニーでVAIOやスゴ録などのヒット商品を生み、グーグル日本法人の社長に転身してそこも辞め、今は自分の会社を創業している。本書は、その歩みを振り返って日本のイノベーションを考えるものだ。
ソニーは出井社長時代につくられた「カンパニー」という制度が裏目に出て、商品戦略に整合性がなくなった。著者のチームが開発したスゴ録は、DVD録画機としてはヒットしたが、同じ時期に出たPSXと競合した。著者はカンパニーのトップとしてPSXを開発した久多良木健氏と交渉するが決裂し、同時に別々のDVD録画機が発売されて「ソニーは何を考えているのか」と批判を浴びる。
こういう問題が、当事者同士の話し合いで解決するはずがない。役員は何のためにいるのか。著者もいうように、ソニーは「ガバナンスが機能していない」というしかない。そして驚いたことに、勝ったスゴ録のチームが負けたPSXのチームに吸収され、著者はカンパニー長を解任されてしまう。
その後、著者はiPodに対抗する「ウォークマンAシリーズ」を開発するが、ここでも役員に「お前はなんでこんなもの作ってるんだ。アップルに行ってiTunesを使わせてくれといえばすむ話だろ?」といわれる。開発体制も二つのカンパニーの混成部隊になり、ソニーは独自規格に固執して、MP3をサポートしたiPodに惨敗する。こうした混乱続きで、2003年に「ソニーショック」といわれる大赤字を出し、出井会長などの経営陣が総退陣した。
そして著者はソニーを辞め、ハローワークで職探しをしたのち、グーグルの日本法人に入社する。ここで社長になるが、グーグル本社が日本法人の社長職をなくすのにともなって、グーグルを退職する。この経緯は本書には書かれていないが、著者は日本法人を降格することに反対し、本社と対立したようだ。全体として、ビジネス本としては表面的で、暴露本としては遠慮ぎみで新情報がないが、日本の会社がなぜだめになったのかを知る素材にはなる。