中野剛志氏(経産省から京大に出向中)の「よくわかるTPP解説―日本はTPPで輸出を拡大できっこない!」というビデオが話題を呼んでいるが、これはTPPに対する批判になっていない。TPPの目的は輸出を拡大することではないからだ。
中野氏の主張については書評でも批判したので繰り返さないが、「自由貿易で輸入品の値段が下がったらデフレになる」という彼の議論に至っては、浜矩子氏と同様、デフレと相対価格の変化を混同するものだ。輸入品の価格が下がることは消費者の利益であり、これは貨幣的なデフレとは無関係である。
彼が経産省の官僚であることは重大だ。かつて通産省は貿易自由化の推進者だったが、それは自由貿易の意味を理解していたからではなく、日本が輸出する側だったからだ。そして日本が輸入する側になると、大畠前経産相のように保護主義を言い始める。今後TPPをめぐって、このような保護主義が本格的に台頭するおそれが強い。
同様の発想は、総務省の推進する「日の丸技術」の輸出にも見られる。このような新しい重商主義は、経済危機に陥った欧米各国が進めようとしているものだが、1930年代に保護主義が世界経済を縮小させて第二次大戦をもたらした歴史を忘れたのだろうか。
アダム・スミスやリカードが述べたように、自由貿易の目的は輸出を増やすことではなく、各国の比較優位の分野に国際分業して資源配分の効率を高めることである。中野氏のような保護主義のレトリックは、バグワティなどが論破したものだ。こんな陳腐な話を(昔は経済学者だったはずの)西部邁氏が感心して聞いているのも哀れを誘う。彼らには、まず『国富論』を読むことをおすすめしたい。
コメント
100歩譲って、中野氏主張の「米国農産物輸出の拡大」が米国の貿易黒字をどれだけ増やすのでしょうか?
日本のGDP全体に占める農産物の割合は1%程度のはずですし、食糧なんてのは、いくら金があっても消費量は増やせません。
https://www.youtube.com/watch?v=aV4fmGVP3kw&feature=related
まだ、こちらのような観点でTPPを批判するなら理解できます。
ただ、看護師試験の英語化等は、日本語コミュニケーションを科目として追加させる等、対応はいくらでも可能でしょうし、英語しか出来ない看護師を雇うかどうかなんてのは、常識で判断すれば分かりそうなものです。
ど素人の考えですが、どう考えても不安に思えてしまいます。
20年前にジャパンバッシング、最近ではトヨタバッシングを行ったアメリカ民主党が日本に都合のよい提案なんかするわけがないし・・・。
むしろ中野氏の言うように、オバマが失業率低下と輸出倍増のために日本を利用しようとしているようにしか思えない・・・。
専門知識の無い人にとって、中野氏の説明はわかりやすいし、納得し易い・・・。
素人目で見てのコメントで申し訳ないのですが
「自由貿易で輸入品の値段が下がったらデフレになる」ということは単一論的すぎて今の国際的な経済体制ではありえないとは理解できるのですが、そもそもデフレは貨幣価値の上昇を意味したと思います。なぜ、中央銀行の貨幣増刷や金融緩和で効果が無いのでしょうか?ずっと不思議だったことなのですが、デフレの危機が叫ばれるたびに思います。簡単にそんなことは出来ないかと思いますが、ここまで莫大な国債残高があるにも関わらず円高+デフレになると言うのはわが国以外の貨幣がそこまで信用ならない価値しかないと言うことなのでしょうか?
私がTPP参加が重要だと考えるのは、貿易を通じて多国間の関係を深めることで、安全保障が図れると思うからです。 日本が食糧やエネルギー、資源の輸入を確保することは死活的に重要ですから、農業や国内市場保護ということで、TPP不参加ということになれば日本の立ち位置が不安定になると考えます。
またアメリカとしては、TPPを多くの国が参加して推進すれば、中国を取り込める、もしくは中国の政治、経済の自由化を促すことができると思っていると思います。
私も素人目で申し訳ないのですが・・「重商主義」何か中学校か高校で習った懐かしい言葉ですね。しかし円以外がそこまで信用ならない価値となると、私たち自身も十分、分かっているように円もそれほど信用できるものではない(債務残高も日本政府も)。自然モノに投資は向いてしまうのでしょうか?「政府保証債」「通貨」は金本位制に決別し、自由貿易をささえた一種の「発明」だったと思うのですが(特にユーロ)、世界的経済危機が叫ばれる都度、「金」や最近では「穀物」「原油」等の近代社会では考えられないモノの高騰を招き、少なからずどの国家でも負担者は一般国民になってきたと思います。「重商主義」は招かざるテーゼだとすると、通貨でも「金本位」にかわる、世界共通のポスト「政府保証債」に代わるものがあるのでしょうか?これがうまく機能しないとTPPをはじめ、すべての自由貿易のしくみが危機の都度浅はかな恣意に脅かされ、負担者はいつも情報の持たない一般国民、そしてその勤勉な労働価値、うまく機能しないように思われますが。
経済学は純粋科学ではないのだから、一つの正解というものはなく、こうした議論はどれも立場と見方によってそれぞれの正当性を言い放して終わりです。ただ、一つ言えることは、このような国際協定の参加国は、どの国もそれぞれの国の直接的な国益を優先しており、自国の国益を犠牲にしても参加国全体の利益が増せば、それは間接的に自国のためであり良いことだなど考える国は無いということです。特にアメリカなどTPPを日本に強く勧めてくるのは、それがアメリカの国益に適っているからであり、日本のためではないということを肝に命じて、どう対処すべきか考えるべきだと思います。