著者:常見 陽平
角川SSコミュニケーションズ(2010-09-10)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆
就活に走り回る学生には、日本の労働市場のゆがみが集中的にしわ寄せされている。特に「リクナビ」などの就職サイトが就活を大きく変えた。会社回りには物理的な限界があるが、サイトから応募するのは簡単なので、学生は手当たり次第に有名企業に応募する。その結果、人気企業のエントリー数は5万人以上になり、会社説明会も数千人規模になり、応募のハードルを上げるためにエントリーシートは複雑で膨大になる。
しかし大手企業は、実際には「20校リスト」と呼ばれる有名大学(旧帝大~MARCH)からしか採用したくない。本書によれば、都内の私大生がある金融機関のセミナーを予約しようとしたらすべて満席なので、不審に思って別名のアカウントをつくり、所属を「東大」にしたらすべてのセミナーに空きができたという。激増する応募を「足切り」するために、学歴差別がソフトウェアによって自動化されているのだ。
つまり学生は有名企業に集中する一方、企業は有名大学に集中し、それ以外の学生にも企業にもチャンスがない就活断層が拡大している、と著者は指摘する。就職サイトで見かけ上の募集範囲が広がったため、もともと大手企業には絶対に入れない学生が大量に応募し、リクルート活動にエネルギーを浪費する。他方、掲載料が数百万円もするリクナビにPRを掲載できない中小企業は学生を採用できない。
これに対して政府や財界が「卒業後3年間は新卒扱いにしよう」とか「会社説明会は4年生の8月からに自粛しよう」などと呼びかけても意味がない。こういう横並びの採用が行なわれるのは、長期雇用によって人材が企業にロックインされるため、中途採用では優秀な人材が採れないからだ。このような硬直的な労働市場を生み出しているのは、労働者を企業にしばりつける退出障壁である。
長期雇用の保障されている大企業では、幹部になれる人材は会社に残るので、転職するのは昇進の見込みのない二流の人材だと見られる。したがって企業は、中途採用で手垢のついた二流の人材を採るより新卒でピカピカの人材を採って社内で教育したほうがいい。この教育コストを回収するには長期雇用が必要だから年功賃金や年金・退職金などによって退出障壁を高める・・・という悪循環になっているのだ。
この構造は、私がサラリーマンだったころからまったく変わっていないどころか、就職サイトで悪化している面もある。企業の人事担当者は、口先では「尖った人材」や「肉食系のガッツのある若者」がほしいなどというが、実際に採用するときは4億円(生涯賃金)の固定費になることを考えると、汎用サラリーマンとして使い回せる有名大学の無難な人材になってしまう。
就活断層は求人と求職のミスマッチを拡大し、若者の就職機会を奪うと同時に企業の人材を劣化させている。これは日本の企業システムに起因する問題なので、規制改革によって簡単に解決できるとは思えないが、少なくとも政府が退出障壁を高くするような制度はやめ、企業年金をポータブルにして退職金や付加給付に課税するするなど、雇用慣行に中立な制度にすべきだ。
なお著者(常見陽平氏)には、2月2日のアゴラ就職セミナーで就活断層の実態をくわしく話していただく予定である。
コメント
>これは日本の企業システムに起因する問題なので、
>規制改革によって簡単に解決できるとは思えないが、
潰れる会社は潰れるに任せ、決して税金で救済するようなことはしないようにすることが大切。
日本の企業システムに起因する問題なら、日本の企業システムそのものを破壊するしかない。
企業倒産がこれからもっと深刻化すれば、新卒も中途も全て平等にガラガラポンになる。
もちろん職歴キャリアに自信のある人はその間に、給料の良い外資企業に転職したらいい。
不景気ニュース 国内倒産
http://www.fukeiki.com/bankrupt/
↑私の大のお気に入りサイトなのでご覧あれ。
これからは大小問わず企業倒産は大歓迎すること。潰れる会社に税金を入れているようなら、
その金は生活保護に回せ公営住宅に回せ年金に回せと叫び続けたい。
(日本における社会保障費は欧米と比べてかなり低い水準にある)
企業や公務員のみならず、大学教員の就職も研究業績がすごいけど癖がある人より、研究は平凡だが美人とか敵を作らないといった好感度が高い人のほうがスムーズというのも昨今の現状です。採用であれ昇進であれ、減点主義は凡庸な人が偉くなるため自殺行為です。
>これは日本の企業システムに起因する問題なので、
政府の意向に関わらず、これからはグローバル企業を中心に、その動きに拍車がかかる。
JALやNTTや日本郵政などの国内的な政府依存企業、そしてそれらの下請け中小企業
はますます苦境に追い込まれるが、助成金や租特は一切止める。政府の資金援助で雇用の
拡大または維持を図ろうとも、社内失業が増えるだけの結果になる。いや政府でなくても
民間がやったとしても(例えば日本振興銀行とか)、ダメなものはダメという結果になる。
それはちょうど、南ベトナムやフィリピンなど、アメリカがアジアの腐敗した政権に
膨大な資金援助をしても全て失敗に終わったのとよく似ている。それらの資金援助は、
公共事業と称して自宅とその庭先の整備、治安対策と称して支配層の私有財産を守るため
の護衛に使われる。下のものはさらにその下を搾取する、多重下請け構造になる。
コンピュータメーカーや大手SIerなどによる、再々委託禁止の動きはごく当たり前の
ものになってきた。 既に富士通や伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、CSKシステムズ、
新日鉄ソリューションズ(NSSOL)などの大手から中堅SIerまでが、3次の下請けを禁じる
「再々委託禁止」の規則を導入(表1)。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20090318/326896/
IT業界でも、優良な企業ほど国内の下請けに頼らず海外事業に積極的。円高とそれに伴う
大手企業の海外展開は、むしろ古い日本の企業システムを破壊する絶好のチャンスと捉えたい。
一部で誤解されているが、グローバル企業ほど中途採用に積極的。
トヨタ、派遣社員優先で400人を正社員採用
http://www.j-cast.com/2011/01/06084941.html
>もともと大手企業には絶対入れない学生が大量に応募し
新卒が中小企業を拒否し大企業を目指すのは当たり前。例えばソフトウェア開発でなら、
中国へのオフショアで「開発コストを約半分に」抑えたとのこと。これではもはや下請け
中小ソフトハウスには、今後まともな開発案件は来なくなる。このように将来性がまった
くない中小企業に就職するくらいなら、「新卒期間の猶予」延長を活用したほうがマシ。
エスクリは、上記の仕組みを実現するため、富士通が提供する、企業内の膨大なデータを
蓄積・分析・加工し企業の意思決定に活用するためのSaaS型BIサービス「SAPR BusinessObjects? BI OnDemand」
(Advanced Edition)を採用し、既存の営業支援システム、会計システムで管理する全国
6施設の営業情報や運営情報、全社の経理情報ならびに事業計画などの個々の情報を基に、
経営情報の多次元分析を可能にするシステムを富士通と共同で開発しました。また、
エスクリ独自のKPI(Key Performance Indicator(注1))指標分析ツリーを設定することにより、
常に変化し続ける経営環境の鳥瞰や、問題発生時の因果関係追究と問題点所在の把握を可能にし、
さらに、各KPIの予実・予測・達成度などを多次元・多視点で分析することにより、
即効性のある確実な戦略・施策の立案を行うことが可能になります。
なお、構築にあたっては、オフショアを活用し、SAPの専門スキルをもつ福建富士通信息軟件
有限公司が開発を担うことで、わずか1.5ヶ月かつ開発コストを約半分に抑え、経営情報分析を
行える仕組みを実現しました。
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2010/11/8.html