ネットや新技術から生まれた活用方法は、既存メディアにとって受け入れられるか

石川 貴善

かつて存在したテレビ番組の録画代行サービスは著作権法に触れましたが、まねきTVへの判決はソニーの「ロケフリ」などによるハウジングサービスが合法、という判断を覆すものになり、例えば海外や地方在住の方が日本(特に首都圏)の番組を見たいというニーズに対して、事実上「No」とするものでありました。


この問題は単純に法解釈に留まるだけでなく、マスメディア4媒体(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌/書籍)のスタンスにとっては
1)表現形式として「見せたい・聞かせたい・読ませたい」形態
2)それによって成り立つビジネスモデル
3)新しい技術や活用方法に関するスタンスや考え方
4)表現者としての矜持
などを併せてとらえる段階ではないかと考えます。

別表でまとめましたが、各メディアにおいて優れた表現者であればあるほど、伝えたい形のこだわりや新しいメディアへの違和感が強いことも、無理の無いことでもあります。

昨今は特に、メディア各社の経営が厳しくなっていますが、その背景として
・余暇間競争の激化・・・仕事が忙しくなる中で、余った時間をゲーム・読書・ネットなどの競合が増えている。
・技術革新などによるビジネスモデルの危機・・・メディアの特性として、「ユーザーが一定数を超えると爆発的に普及し、新しい技術革新が起きると古いメディアは急激に縮小する」といった普及と衰退サイクルの傾向にあり、その端境期に。
・視聴者/聴取者/読者の意識変化・・・ネットやソーシャルメディアなどの影響で、一部の目の肥えた利用者の意識が変わり、受け手だけではなく発信者になるなどの変化が生じている。

こうした中でメディアの中にも変化に対応する動きもありますが、業界によって進化とは逆に「適応は適応能力を締め出す」ように動いている場合もあり、今回の判決の一端になったものと思われます。

しかし今までのスタンスを取れば取るほど、視聴者・聴取者・読者は嫌気がさしてしまい、大量にあふれている他の情報コンテンツに流れてしまうリスクを、改めて考えていく時期にあるでしょう。例えばテレビ番組を動画投稿サイトにアップロードするのは著作権に抵触しますが、こうした形で視聴する数が増加するようになると、「タダで海賊船を探すコストや手間より、有料でもすぐに見つかる客船に誘導する」ような工夫やビジネスモデルが必要な段階に来ているのではないでしょうか。

表現者としての矜持も理解できるのですが、社会的なニーズと今はまだ市場規模としては小さいですが、新しいビジネスへの可能性と採算バランスといったものを、分けて考える段階にあるものと考えます。

まねきTVなどロケフリのハウジングサービスは、意外と地方で首都圏の放送が見たい、といったニーズも無視できません。出張で寄った甲府で昼食に寄った飲食店のテレビは、山梨県には民放が2局しかありませんので、甲府盆地で電波が届かない中、かろうじて音声だけが伝わる「砂の嵐」状態になっている首都圏の番組が流れていました。同じ県でも首都圏の番組が視聴できる大月市とは大きな違いでもあります。

地デジ移行の中で、区域外再送信許可の出ているテレビ局もありますが、局によって対応に差があることが、今のメディアの状況を象徴しているように思われます。