とうとう失われた20年が終わるかもしれない

藤沢 数希

最近、メディアは口を開けば日本の悪いことをいっている。日本経済は失われた20年といわれて久しい。政治はこれ以上ないほどの醜態を毎日国民に見せている。筆者は小泉政権で日本の失われた10年もとうとう終わるのかと思ったが、その後の自民党内閣は構造改革によって危うい立場に立たされていた一部の既得権益層に阿る形で、日本経済をまたダメな方向に巻き戻してしまった。既得権益にしがみつきゆっくりと業績を悪化させつつあったテレビ局を買収しようとしたライブドアに突然の強制捜査が入った。停滞する日本経済を株主資本主義の本来の力で浄化しつつあったファンド・マネジャーの村上氏もインサイダー取引の疑いで逮捕されてしまった。その後、マスメディアにより資本主義社会に不可欠な存在であるベンチャーやファンドが日本社会を脅かす悪者にされてしまった。本当は既得権益を握るほんの僅かな人たちを脅かすだけで、多くの日本人に多大な恩恵を与えるにも関わらず。


そして好調だった世界経済は、サブプライム・ローンを組み込んだ大量の金融商品がアメリカの住宅バブル崩壊とともに大暴落してしまい、世界的な金融危機を引き起こした。これが日本のアンチ市場、アンチ外国の経済評論家や様々な識者を大いに鼓舞することになった。そして2009年の衆院選では民主党が圧勝し、最初の内閣総理大臣に選ばれた鳩山由紀夫は次のように宣言したのだ。

「友愛」は、グローバル化する現代資本主義の行き過ぎを正し、伝統の中で培われてきた国民経済との調整を目指す理念と言えよう。それは、市場至上主義から国民の生活や安全を守る政策に転換し、共生の経済社会を建設することを意味する。

筆者は暗澹たる気持ちであった。そして日本は非常に危険な方向に走りだしているように感じた。市場経済を否定し、グローバリゼーションを否定しては、日本国民がひどく貧していくことは明らかだからだ。貧していくだけならまだましで、全体主義的な国家に突き進んでいくことさえありえた。

筆者のようなブロガーは細々とマスコミや政治家の危険な社会主義思想を正そうと言論活動を続けていた。アゴラのようなネット・メディアもそうである。鳩山政権の誕生で日本がますます社会主義へ傾倒していたとき、我々のような自由主義者はまだまだ傍流の存在だったと思う。

ところが今、こうして周りを見渡してみるとどうだろうか。筆者は世論はまた自由主義、市場主義に傾いてきたように感じる。世界経済が思いのほかはやく立ち直ってきた。日本の大企業は軒並み業績を急回復させた。そして誰も「友愛」などといわなくなり、各々が自らの職場に戻り、やるべき仕事をこなしている。そしてあの民主党までもが「平成の開国」を訴え、TPPに参加することをきっかけによりいっそう経済のグローバリゼーションを推し進めようとしている。

夜明け前が一番暗いといわれるが、今の日本はまさにそういうときなのかもしれない。ちょっとしたきっかけで日本は自ら変革しはじめる可能性がある。筆者は、そのひとつのきっかけは大きな政治力を持っている団塊の世代の退職だと思っている。

日本の年齢別人口分布(2010年)

出所:総務省 統計局

日本で人口が多く、そして経済的にも豊かな団塊の世代が来年あたりからいっせいに定年退職しはじめる。彼らはその人口規模や経済力から大きな政治力を持っている。筆者は日本の経済成長を阻んでいる問題がふたつあると思っていて、それは労働市場と資本市場である。前者は過剰な解雇規制などにより、高い賃金を得ている中高年の正社員が大きな既得権を握っており、柔軟な労働力の移動や若年層の人的資本の形成を阻んでいる。後者は、様々な買収防衛策や持ち合い株、それに文化的な問題もあって、会社経営者が守られすぎている一方で、株主の権限が弱められていることである。端的にいって、日本ではダメな経営者がいる会社の株価が低迷していても、会社を買収してダメな経営者を首にして大胆なリストラを断行し、そして企業価値を引き上げるという、資本主義社会では当たり前のことが非常にやりにくいのである。

なぜこれほど日本の労働市場や資本市場は硬直的なのか。それは大きな政治力を握っている層が、その方が都合がいいからだ。つまり現在、企業で高い賃金を得ている団塊の世代の既得権益を守るために政治も動いているのである。ところが、あと数年もすると団塊の世代は多額の退職金を受け取り、年金生活に入る。つまり自らの資本を運用して生活しなければいけない資本家になるのだ。今までとは立場が180度違ってくる。資本家にとって、怠け者の労働者が保護される労働市場や、ダメな経営者を交代させられない資本市場は、非常に不合理に映るだろう。団塊の世代が企業を去った後、国内外の金融資本と日本国政府が一体となって、労働市場と資本市場の規制緩和と構造改革が一気に進む可能性が高いと、筆者は考えている。

ひょっとしたら今後10年、日本はチャンスに満ち溢れた国になるかもしれない。いよいよ失われた20年は終わる。

参考資料
2012年、日本は世界で最も洗練された自由市場経済の国に生まれ変わる、金融日記

コメント

  1. nnnhhhkkk より:

    武富士の贈与税は司法も珍しくまともな判決を下しましたが、その武富士を潰したのも司法であるのを見ると、日本は後から法律を捻じ曲げてまで違法とする傾向があり、みんな目立たないように委縮していることでしょう。
    ライブドアの件に関しても法律違反は見受けられないのに堀江さんに懲役刑を下すのですから、もはやこの国は腐っています。
    変に異常な金融緩和をやって一時的に景気がバブル化する可能性もありますが、今の民主党を見てもそれ以上変わろうという気配は全くありません。相変わらず小泉時代に格差が広がったと菅は言っています。格差を縮小しようとする民主党では日本をますます衰退させることでしょう。世界で一番高い相続税を引き上げようとしているのがいい証明です。スウェーデンをよく取り上げるくせに、そのスウェーデンに相続税がないことには一切触れないのですから全然話になりません。
    自民党も地方への利益誘導しか考えていない政治家が多すぎて話になりません。自民党内の古賀誠あたりみたいなのが偉そうにしている限り、自民党にも全く期待できません。民主党よりほんの少しまともな人が多いぐらいでしょう。
    菅さんを評価できる部分があるとすれば、唯一TPP参加を表明したぐらいでしょう。あとは格差縮小だの最小不幸社会だのと実現不可能な社会主義政策のオンパレードで、算数の計算もできないほどに頭がお花畑です。一応理系出身のようですが、小学生レベルの基礎すらできないのでしょう。

  2. hogeihantai より:

    団塊の世代が受け取る巨額の退職金は株式市場には向かわず、銀行預金となり国債購入の原資となるので国家破綻が更に数年先延ばしされる。外科手術の必要な患者の手術を先延ばしするほど術後の苦しみは大きくなる。現在の株式市場は借金返済のための増資が頻繁に行われ、個人投資家は怖くて買えない。従って団塊世代が株主資本主義の旗手となって無能な経営者や中高年正社員などの既得権益者に退場を迫ることは考えられない。やはり日本はゆっくりと衰弱死に向かうであろう。

  3. tenchosan より:

    政治家も官僚も困ったことの無い人ばかり・・・
    で団塊の世代も高度経済成長で困った事の無い人ばかり・・・
    こんな人達が世の中の大半の力を牛耳っていれば、そりゃ世の中駄目になるよ。如何に引退するまでに力を付けるか!これがこの国の最終的な生き方になる。

  4. abstoora より:

    残念ながら団塊世代の一斉退職が明るい材料にはならないのではと思います。
    >>hogeihantaiさんが仰るとおりの理由で資本市場に(少なくとも日本市場には)は左程明るい材料にはならず、労働市場では勿論ある程度明るい材料ですが現在の日本での失業率の高さは労働が海外に取られてることによる事(割を食ってるのが若者ですが)なので根本的な解決材料にはならないでしょう。

    団塊世代の既得権益を中心に動いている点は正しく仰るとおりですが、その世代が働く方でなく、社会保障を受ける世代となったら財政的にはもっと大変になるのではないでしょうか?
    社会保障費の大幅なサービス向上や値上げを求める声が増え、国債を発行する量が増えるのではないでしょうか。

    一部の既得権益の為に全体の生産性が損なわれてる、という中心の主張は最もですし、そもそも参入規制のある業界・国とズブズブのゾンビ企業のある業界は日本では本当に多いとは思います。

    まあでも私はそこまで明るい見方はできないですが、ネガティブよりは本記事のように明るい未来について語りたいですね。

  5. ikuside5 より:

    菅内閣が厚生年金を非正規にまで拡大するとかいっているとか・・・

    「雇用が大事」とかいっていたくせに失業率を高めるような政策ばかりやろうとする。しかも、これで切り捨てられるのは他でもない、まさに非正規職員そのものでしょうから、郵政なんかとおんなじ構図ですね。こんなことを、ほんとに非正規職員の待遇改善のために考えているとしたら、やはりどうしようもないですね。

    まあきっと、そんなことは百も承知でやっているんでしょうけども。とっとと増税してみんな生活保護でめんどう見るつもりなんでしょうね。財源は?消費税かな。