日本は変わらないとやっていけなくなる

大西 宏

大震災が日本に与える影響ははかりしれないものがあり、どうなっていくのかという先行きへの不安が高まってきています。しかし問われているのは、日本がどうなるかではなく、これからどうするかであることは言うまでもありません。


バブルの崩壊によって不動産は価格が上がり続けるという「土地神話」は崩れ、その後の経済の長い停滞は、経済は伸び続けるという「成長神話」もそれが幻想にすぎないことを見せつけてきました。それでも日本はやってこれたのです。

膨大な財政赤字があっても、日本はただちに経済が破綻することはなかったし、多くの企業も成長性を失ってもなんとかやってこれ、危機感がなかったわけではないにしても、それが政治や経済の変革や企業変革の本格的な流れを生み出すまでにはいたらなかったというのが現実でした。

しかし今回の震災は、そんなゆとりをも吹き飛ばすことになりました。被災地だけでなく、日本の経済をどう立て直すかの知恵やエネルギーが求められてきているのだと思います。おそらく日本がこのまま自然死に向かうのか、はたまた奇跡の復活を成し遂げるのかの分岐点を迎えていると言っても過言ではないでしょう。

福島第一原発事故は、原発は幾重にも守られ、絶対に壊れないという安全神話を打ち砕きました。事故が起こってみると、震災に対する安全基準が極めて低く見積もられていたこと、また電源が止まった場合の対策すら想定せず、管理できない危機的な状況をつくってしまいました。それだけでなく、菅内閣、保安院、東電などの危機対応能力がまるで欠けていることも露呈してしまいました。さらにそういった緩い原子力行政を推進し、今回の事故の遠因をつくってきたのは歴代自民党内閣であったこともわかってきています。

しかし、危機に対する意識は、こういった人びとだけではなく、日本全体も薄かったのではないでしょうか。

被災地の復旧や復興については、なにが必要かの課題は、どんどん明らかになってくるので、あとは現地の復旧・復興の動きに対する国の支援をいかに適切に、また迅速に行うかの政策決定力や遂行力になってきますが、それを可能にするのはリーダーへの信頼があってのことです。

この点では、菅総理は危機対応力で国民からの信頼をすでに失ってしまっているので、日本の危機をほんとうに憂いているのなら、みずから名誉ある退陣のシナリオを描き、思い切った行動にでるべきでしょう。

間違ってもいけないのは、現在の危機対応に必要なリーダーの能力は原子力への知識ではなく、人びとを組織し、それを動かす能力、被災地の人たち、また国民の心に響くメッセージを発信する能力なのです。

さて、震災による打撃は、日本経済のみならず世界経済にも影響をおよぼしていますが、日本の国内総生産(GDP)は今年4~6月で、少なくとも年換算で6%程度は減少するという予測もあります。

すでに景況感は大きく低下し、しばらくは、震災の影響によって、部品調達が困難などのボトルネックと、震災ショックでの消費マインドの冷え込みがあり、経済活動がかなり停滞することが懸念されます。

そういったことは時間が解決してくれます。ボトルネックも、そこに需要がある限り、やがて解消されていくものと思います。また復興需要も起こってきます。

しかし、そういった解決が見えている課題ではなく、これからやってくる、したがって先に起こってくる問題を想定し、どうその課題を乗り越えるのか、また備えていくかのほうが時の経過とともに重要になってきます。

こちらで問われてくるのは、まずは課題を立てる能力のほうでしょう。日本再生にむけてどのような政策が求められているかだけでなく、個々の企業にもいやおうなく求められてきているのだと思います。

おそらく、夏場を乗り越えれば、消費はある程度回復してくるでしょうが、消費マインドは大きく変化してくることは間違いないと思います。

生産のボトルネックのために「供給力」<「需要」という異常な事態が一部では起こっていますが、それも一時的なことであり、ボトルネックが解消されると、従来以上に「供給力」>「需要」の構造がより鮮明にでてくるものと思います。

消費者の目線がさらに厳しくなり、これまでは本質的でない付加価値で膨らんできた消費は減少し、ほんとうに欲しいものにしか出費しないという傾向がくるのは想像に難くありません。
そういった変化に対応できるのか、あるいは対応できずに、市場が縮小し、ビジネス・マインドも低下させる悪循環にはまるかどうかの正念場が間違いなくやってくるということです。

また日本のブランド力が、福島第一原発事故、およびその処理をめぐって著しく毀損したことが懸念されます。

さらに、これまで日本の競争力を支えてきた部品や素材などで、日本が高い競争力を持ち、独占している分野は別として、おそらく韓国や中国などにシェアが奪われていく分野がでてくることです。

日本のブランド力をどう回復させるか、国際競争力のある事業をいかに生み出し、生産性を高めていくか、消費の質の変化にどう対応するかなどの課題です。

どうなるかではなく、なんとかしないとやっていけないのです。この先に訪れてくる課題にどう取り組んでいくかの問題意識が高まり、新しい知恵やビジネスが生まれてくること、その機運が高まってくることを切に期待します。