政治と選挙とインターネット - 本山 貴春

アゴラ編集部

平成23年の統一地方選挙が終了した。今回の統一地方選挙は東日本大震災直後の国家的非常事態下での異例の選挙戦となった。被災地の選挙が延期されたのは当然のこととして、大半の選挙区で東日本段震災が間接的に影響して、戦後最低の投票率を更新した。

私も一候補者として、統一地方選の前半戦を戦った。しかし既成政党の枠組みに批判的な立場から、完全無所属で非組織型の選挙を徹底したこともあり、低投票率を前にあえなく敗れた。会社員を続けながら2年間街頭活動を継続し、告示の約一ヶ月前をもって正式に退職、費用をかけない草の根戦を貫いた。選挙のセオリーからすれば必敗の挑戦だったかも知れない。


しかし無名の弱小候補者に過ぎなかった私が、選挙終了後しばらく経って読売新聞の紙面に大きく取り上げられることになった。「政策演説 ネット中継」と大きく見出しが打たれ、「福岡市議選候補 選挙期間中、毎日」と副題が付いた。

私は選挙期間中、ブログ・twitter・USTREAM・Youtube・メールマガジンによる情報発信を毎日続けた。極めて多忙な選挙期間中にこれだけのツールを利用することに負担がないわけではなかったが、一介の元サラリーマンである私のような候補者が世間から注目を浴びるチャンスは、選挙期間中こそ最大化する。このときに情報発信しない手はない。

読売新聞の記事にあるとおり、総務省は「選挙期間中の更新は公選法に抵触する恐れがある」という見解を示している。このことを根拠に、選挙期間中に警察から警告を受けた。しかし私は警察からの削除要求を断固拒否した。現在の公職選挙法はインターネットの出現を想定しておらず、公職選挙法における文書図画の規制は、インターネットにそぐわないと考えたからだ。

警告に従わなかったことに驚いたのか、警察は「警察庁でも問題視している」「従わなければ必ず検挙する」などと警告を繰り返した。最終日には私の携帯電話にまで電話を掛け「いますぐ全動画を削除するように」と命じて来た。

選挙期間中にインターネットを利用して情報発信した例は私が初めてではない。しかしここまで≪あらゆるツール≫を駆使した例はないだろう。別に警察を挑発することが目的ではないが、この選挙戦を通じて問題提起したかったのは事実で、結果的に一石を投じることにはなった。万が一検挙されたとしても、法廷で争う覚悟がある。

近年、公選法改正によるインターネット選挙解禁を求める声が高まっている。しかしこの発想自体間違いだ。解禁もなにも、インターネット選挙は禁止されていない。禁止されていない以上、インターネットに関する規定を公選法に盛り込むことは≪新たな規制≫を意味する。私はこの≪新たな規制≫に反対する立場ではないが、現状多くの政治家・候補者が≪自粛≫していることに大いに不満を感じる。

自ら立候補する以前から、国政選挙や首長選挙で候補者がインターネットでの情報発信を≪自粛≫していることを一市民の立場から批判して来た。いかに無名の人物であっても、立候補している間は公人である。有権者は立候補者のことを知る権利があるし、立候補者は自分のことを伝える義務がある。

今回の統一地方選挙で顕著だったのが、大震災を理由にした政治運動・選挙運動の≪自粛≫であった。現職を中心として、候補者たちが揃って街頭活動などを自粛した結果、選挙戦全体が盛り上がらず、戦後最低の投票率を招いた。選挙運動の自粛がなぜ「被災地への配慮」になるのか、合理的な説明がないまま、多くの候補者が「伝える義務」を放棄したのだ。

インターネット選挙の自粛と、震災を理由にした選挙運動の自粛には通じるものがある。あまりに日本的な≪空気への迎合≫である。そもそもわが国の近年の選挙では、政策論議が低調で、有権者が≪候補者の違い≫を知る機会に乏しい。市町村議会選挙ともなれば、友人知人親戚などの縁故、企業・団体などの組織による投票依頼が依然として幅を利かせる。

地方分権が叫ばれながら、もっとも身近な基礎自治体の議員選挙ほど有権者の関心は低くなる。それは「選挙を通じて住民の意思を示し、政策決定に影響を与える」度合いが低いためだ。住民は日頃から議会が何を議論し、何を決定しているのか、知る機会に乏しい。大半の地方議会では「討論」は形式的なもので、すでに決められたことが儀式的に承認される場に過ぎない。

選挙戦に限らず、地方政治の日常がインターネットで随時情報公開されるようになれば、有権者の意識も自ずと変わっていく可能性が高い。例えば議会本会議や委員会の様子がUSTREAMで中継され、視聴者がtwitterでコメントを入れられるようになれば、住民にとって議会が≪より近い存在≫に変わるかも知れない。

インターネットを通じて日本の政治風土を一変させる――。改革を志す者には、避けて通れない道である。

(本山貴春 特定非営利活動法人ディベイトジャパン 専務理事 )

コメント

  1. kentasai0901 より:

    おっしゃる通りです。
    私は町の選挙に投票しに行きましたが、情報が乏しく、誰に投じるべきかの判断材料は新聞の広告のみを参考にするだけでした。
    選挙カーは名前を連呼するのみですし、立候補者が「何をやりたいか。どういう思想の持ち主か」がまるで見えない。
    何のための選挙なのか分かりません。