すべての原発施設の再評価、とくに地質調査から

大西 宏

日曜日のテレビ番組で、民主党の玄葉政調会長と自民党の石破政調会長との対談で、石破政調会長から福島原発の地震発生確率がほぼゼロであったことを取り上げ、浜岡だけの問題ではなく、他の原発も連動型地震のリスクも想定して再評価すべきという発言があったことは評価したいところです。


しかも、福島の震災確率がほとんどないと評価されていたことについても、宮城沖では99%の確率で発生するとされていたことにも触れられていたのは、一部の自民党議員や評論家の人が浜岡原発事故の運転中止の要請を批判するために利用したこととは質的な違いを感じました。国民の安全よりは権力闘争のためにはなんでも利用し煽るという態度は、ほんとうに恥ずべきことです。

もっと踏み込めば、869年に発生した貞観地震は連動型超巨大地震の可能性があり、過去の史実を重視する地震研究からいえば、そもそも、連動型の地震発生を想定せず、三陸沖を8つに分割してそれぞれの地域の地震発生確率評価を行っていたこと自体が、発生確率をあえて低く見積もり、原発建設を促したのではないかとすら感じます。

問題の浜岡原発は、これまでもトラブルが多かったようですが少なくとも2件の内部告発が行われています。耐震データ偽装とアルカリ性のコンクリートを使っていたことです。事実かどうかはわかりませんが、安全・保安院が内部告発者を保護せず告発相手に通告するなどのことをやっていた状況を考えると、かならずしも、告発者の人たちをなんでいまさらと批判できないかもしれません。

もし元設計士が指摘しているようにかつての地震で岩盤が粉々に崩れていたことが事実なら、あの耐震偽装の姉歯事件以上に悪質な偽装事件です。
浜岡原発元設計士「耐震強度データに偽装があった」と告発 – 速報:@niftyニュース :
中部電力 | 浜岡4号機建設で使用されたコンクリートについて – プレスリリース(2004年) :

柏崎刈羽原発に関しても、建設前の活断層の長さを後に東電が修正していますが、実際に起こった新潟県中越沖地震の震源がこの原発の近くであったことは、活断層の発見の限界なのか、地震予知の限界なのか、あるいは意図的に安全だとするために作文したかは分からないにしても、立地評価の信頼性が揺らいだものでした。

耐震偽装の内部告発で浜岡原発の地質が問題になっていますが、それで思い出すのは、阪神淡路大震災の時に、神戸の三宮ではビルが倒壊するというショッキングなことが起こりましたが、そのすぐ近くの二宮町あたりは、古い老朽化した家屋でも嘘のようにまったく震災の影響を受けていなかったことです。その他の地域でも、道を隔てただけで、場所によって被災の程度が大きく違ったのです。

震災直後に地震学者の人から聞いたのは、それは地盤の差だということでした。とくに海に近い浜側で阪神高速道路が倒壊するなど、被害が大きかったのは、地盤が砂で、脆弱なところに、地震が起こるとまるで豆腐のように揺れを増幅したからだということでした。もし内部告発の設計士の人の主張のように岩盤が粉々に崩れているとすれば、浜岡原発は砂上の楼閣だということです。

東日本東北大震災の際にも地盤の差を感じられたはずです。震源と遠く離れた大阪でも、激しく揺れたところもあれば、まったく揺れなかったところがありました。府庁の移転計画が検討されている55階建ての大阪府咲洲庁舎が激しい揺れで、エレベーターに人が閉じこめられたり、壁面パネルが損傷したりということがありましたが、こちらも埋立地で地盤の弱さがでたものと思われます。
それに関連して、謝罪はあったとしても、橋下知事の移転計画に反対する自民党の大阪府議会議長が、「大阪にとって天の恵みというと言葉が悪いが、本当にこの地震が起こってよかった」と発言したことは、思わず政局絡みの本音がでたものとしか思えません。asahi.com(朝日新聞社):「この地震、本当に起きてよかった」大阪府議長が発言 – 社会 :

地盤の堅牢性が地震発生時にどの程度影響するのかは、専門家ではないので確たることはいえませんが、素人の体験や直感ではその影響の違いの大きさを感じます。

安全性を担保する原子力安全・保安院の安全性評価に関しては信頼性が揺らいでいます。地震大国でありながら、異常なほど原発推進に傾斜してきた考えると、原発を建てることが優先され、安全性の重要な要素である地質調査もずさんであった、あるいはさまざまな施設で偽装されていた可能性も否定できません。

さて、福島第一原発が津波で電源喪失し、それが事故を引き起こしたとされているために、浜岡原発では非常用電源の配備や波除けフェンス、また防波堤建設に話題が集中しています。

しかし、ほんとうに福島第一原発事故の発生原因が地震であったのか、津波だったのかの検証はまだなされていないはずです。しかも、コンクリートにひび割れが起こり、そこから高い放射性物質を含んだ水が漏れ、海に流出することも起こっていることを考えると、地震の影響があったことも想像できます。

地震発生の確率が高い浜岡原発が、ほんとうに耐震基準の前提となった堅牢な地盤の上に建っているのかどうかの再調査が最低限必要だと思われます。ほんとうに地震に耐える施設なのかの再評価も必要だということでしょう。それは、建物や圧力容器、また格納器だけの問題ではありません。かつて起こった関電の美浜原発事故は、パイプの接続が設計通りになされていなかったことから起こったものだったということを考えると、冷却水の循環などのために張りめぐらせた多数のパイプも地震に耐えうるものかどうかの検証が必要でしょう。ストレス・テスト(健全性検査)も全施設について行うべきだと思います。

自民党の塩崎恭久元官房長官が「まずは、日本にある原発のデューデリジェンス(実態精査)を徹底的に行い、厳格なストレステスト(健全性検査)を実施すべき」とされていることはその通りだと思います。
塩崎恭久元官房長官インタビューVOL.2 「まずは『15年後に原発停止』の工程を決める。国民全体でタブーなしの議論をする時だ」   | 現代ビジネス

また、今回の事故で使用済み核燃料を原発施設のなかに貯めこんでいたということが事故をさらに深刻なものとしていますが、使用済み核燃料棒の処理についても手を打つことが求められます。

すぐさま日本の原発を止め、再生可能エネルギーに置き換えることは、原発依存度の高さを考えると現実的ではなく、長期的に日本のエネルギー政策転換のビジョンを策定し、脱原発の道筋を描くことが求められてきていますが、過渡期にはできるだけ原発の安全を確保しなければなりません。

こういったエネルギー政策は、党派を超えた日本の大きな課題であり、党派の対立を越えて、権力闘争に利用せず、冷静かつ前向きな議論としっかりした対策を願いたいものです。

コメント

  1. hkeiko より:

    コンクリート構造物の耐震性も大切ですが、原子炉で最も脆弱なのは配管であると従来から指摘されて来ました。一昨日の報道では津波が来る前に地震の揺れで圧力容器又は配管が破損した可能性があると東電が初めて認めました。配管の破損は地震との共振で極めて大きくなるのですが、配管の固有振動数を求める事が設計段階では困難なのです。配管は梁やビームにU-ボルト等で支持されますが、ねじの締め具合で配管の剛性が変化し、固有振動数も変わるからです。時間が経てばねじが緩くなる事もあるし、配管が減肉しても固有振動数は変化します。

    従って地震の振動数と配管の固有振動数が同期して配管の振動が極大となり破損する危険は常にあるのです。これを避けるには配管の支持を無数に増やし剛性を高めるか原子炉の全ての構造物を免振基礎の上にのせる事ですが実現は不可能でしょう。地震国では配管の破損を想定内の事故として、それでも安全を確保できる原子炉の設計が必要だと思いますが、それが可能かどうか私にはわかりません。

  2. worldcomw より:

    少しポイントがズレていませんか?
    浜岡が槍玉に挙がっているのは、何かあった時に最も首都圏に影響があるからで、
    地震や断層は従属的な判断材料に過ぎません。

    ほぼゼロの確率である地震が起こったのですから、地震そのものの確率は無意味です。
    地震が起こった時にどう壊れるか、どこが弱いかが、まず重要です。
    (ストレステストですね)

    更に重要なのは壊れたときにどうするか、というダメージコントロールです。
    現状では一定以上放射線が漏れてしまうと、放置するしかなくなります。
    放射能を帯びた水があるだけで、全ての作業が止まります。

    原発に最も必要なのは、「事故は起こらない」という迷信を捨てて
    「事故は必ず起こる」という現実を前提にして備えることです。