使ってわかった残念な朝日新聞デジタル

田代 真人

snap_func05_015月18日より発行された朝日新聞デジタル。満を持しての発刊だ。端末は、PC、アンドロイド、iPad向けだ。手が回らなかったのか、iPhone向けには提供していない。料金はデジタル版のみでは月額3800円、紙の購読に付加する場合は1000円。これは先行して発刊した日本経済新聞電子版と同様のスタイルだ。

発刊から7月末までは無料というキャンペーンをやっているので、私はすぐに登録し、ほぼ毎日購読してみた。そうしてわかったことをいくつか紹介したい。


まず、登録はクレジットカードのみ。独自のJpassという決済サービスを利用している。これは、以前からWEBRONZAなどの有料版での決済に利用されてきたものだ。また、同じID&パスワードを使って家族間で閲覧することも想定しているので、お父さんは手持ちのアンドロイドで読み、日中お母さんは自宅でiPadを利用して読むことができる。お父さんが会社に新聞を持って行って家族が読めないという紙版より便利に読むことができる。ちなみに全社員に回し読みされると困るからか(笑)、法人契約はない。

ただしかし、個人的に最も落胆したのは、すべてが横書きであるということだ。縦書きでは読めない。歴史ある新聞社が簡単に縦書きと決別したことに驚きさえ感じる。もちろん、もはや縦書きなど世界中で日本と台湾くらいで、日本でも縦書きが読みにくくて嫌いだという意見があることもよく知っている。だがしかし、デジタル版だからこそ、縦書きの選択肢を残しておいてもいいのではなかったのか?

産経新聞社の産経NetViewや日経新聞電子版のような紙面レイアウトそのものが読めるほうが“1面の右上が最も重要なニュースである”というニュースの価値もわかりやすく、多少の読みにくさを差し引いても、より好ましい。しかし百歩譲って、たとえPDF表示を止めたとしても、縦書きでも読めるようなアプリを開発してもよかったのではないだろうか。

私は、さまざまなもののデジタル化というものは、アナログな人間により近づく方法だと思っている。デジタル化したからこそ、いままでの習慣をすぐには変えられないような縦書きが好きな人間にも優しいものであってほしかった。デジタル化したからこそ“横書きでも縦書きでもあなたの好きなほうで読めます”という姿勢が必要なのではなかったのか。

コストの問題もあろう。ただ、iPad版の24時刊に付いている“1面タイムマシン”を開発するくらいなら、縦書きのほうがよほど必要だろうと思う。“1面タイムマシン”機能とは、画面に時計のイラストが出てきて、その針を指で戻すと、1面の記事が変わるというギミックだ。しかし、記事が差し変わった時間がわからないので、記事が変更された“1面”に当たるまで何度も針を動かさないといけない。これでは使いようがないだろう。更新記録を表示してくれればいいだけのことなのに……。

その他、ほかにも言いたいことはあるが、それは次の機会に。なお私は、朝日新聞社の社員だったこともあるので社員の友人も多く、まだ“愛”もある(笑)。なので、このコラムは叱咤激励として書いたつもりだ。ぜひとも生き残りをかけて、記事の内容もさることながら、機能にしても利用者にとって使いたくなる方向に進化していってほしい。(田代真人)