朝日新聞が、今週から「電力の選択」というシリーズを始めた。第1回は月曜の1面トップで、「自然エネルギー 阻む政官業」という見出しがついている。内容は、通産省(当時)と電力会社がいかに癒着して再生可能エネルギーの普及をじゃましてきたかという話だが、朝日新聞の記者はサンシャイン計画というのを知らないのだろうか。
これは1974年に石油危機を受けてできた計画で、大規模な太陽光発電所や燃料電池、バイオマスなどに(ニューサンシャイン計画を含めて)総額1兆5500億円を投資するものだった。しかし太陽光発電所は実用化できずに破棄され、原油価格が落ち着いたこともあって、2000年に終了した。朝日新聞の思い込みとは逆に、かつて政府は再生可能エネルギーに多大な期待をかけていたのだ(それは当時、政府を取材した私のほうがよく知っている)。
それから37年たっても、再生可能エネルギー(水力を除く)は全電力の1%にも達していない。たとえば昨年、運転を開始した最新の「メガソーラー」である堺太陽光発電所は、20haという福島第一原発より広い面積で、出力は1万kW。総工費は50億円で、2万枚の太陽光パネルを使って1年間に1100万kWhが発電できるという。これは原発1基の10時間分にも満たない。
再生可能エネルギーは自然条件が違うと使い物にならないので、熱帯の砂漠で太陽光発電所が実用化しても日本の参考にはならない。きょうの連載ではスペインの風力発電を紹介しているが、笑止千万というしかない。欧州は偏西風が吹くので、風量は安定している。それでもスペインでは、風力発電の補助金のおかげで財政が破綻した。日本は季節風地帯で風力が安定しないので、電力会社は風力発電を電力にカウントしていない。
それより朝日新聞は、かつて原発を推進した「戦争責任」を忘れたのだろうか。志村嘉一郎『東電帝国―その失敗の本質』によれば、1970年代に朝日は、岸田純之助論説委員の指揮の下に原発推進の方針を決め、東電の原発の全面広告を出した。秦正流専務は「朝日としては(原発推進という)コンセンサスがなくてはならない。記者個人が反対するのは自由だが、それをボツにするかどうかの権限は編集局にある」と明言したという。
その尖兵となった大熊由紀子記者の激しい「原発安全キャンペーン」は、同業者の間でも「朝日は電力会社に買収されたのか」と話題になったものだ。彼女の書いた『核燃料―探査から廃棄物処理まで』(朝日新聞社)は朝日の資料室にあるはずだから、読んだほうがいい。再生可能エネルギーを否定し、原発の安全神話をつくった最大の「戦犯」が誰であるか、わかるはずだ。
こうした忌まわしい過去に口をぬぐって、原発事故が起こったら、自分は何の責任もないかのように「自然エネルギー派」に転向する朝日の体質は、かつて大本営発表を垂れ流して戦争のお先棒をかついだ責任を封印して「平和憲法」キャンペーンに転向したのと似ている。これから「脱原発」キャンペーンを張るつもりなら、まず過去の自社のキャンペーンが正しかったのかどうか、検証してからにすべきだ。