続・信用保証制度の終焉

原 悟克

震災直後に執筆した記事「信用保証制度の終焉」は拙ブログでも最も人気のない記事の一つになった。「信用保証制度」「保証協会」をGoogle検索しても、各保証協会が公開している制度説明のサイトばかりがヒットし、ブログ検索しても、コンサルが信用保証協会を利用した融資を指導するとうたう記事や、代位弁済請求後の求償権に基づく協会からの請求の体験記等ばかりがヒットする。要するに、信用保証制度は、世間にとって興味がない事項なのだ。基本的に中小企業の経営者しか当事者性がなく、事業が破綻して初めてその存在を正確に認識するケースが多い信用保証制度については、いまだに「破産すると選挙権が停止になる」等という都市伝説が存在する現実等を見れば、一般化された情報が非常に少ないのはやむを得ないことではある。しかし、残高35兆円にのぼる信用保証の影響は、興味の有無にかかわらず、全ての国民の頭上に平等に降り注ぐ


 
信用保証制度のイメージ(資料出所:全国信用保証協会連合会)

信用保証制度そのものについては何度か触れているので繰り返さないが、ご存じない読者の方は、イメージとして上の図がわかりやすいだろう。脆弱な中小企業の信用を補完し、金融機関からの融資実行を促進するのが所期の趣旨だが、現在はこれを大きく離れ、現実には中小企業には保証協会付の融資しか実行されないと言っても過言ではないだろう

(資料出所:日本政策金融公庫)

金融機関は実質ノーリスクで貸付をおこない利息が得られるためモラルハザードが懸念され、2007年10月から責任共有制度により原則として融資額の80%までを保証の限度とする信用保証制度の見直しと保証残高の削減を図った矢先、2007年からのサブプライム問題、2008年のリーマンショックが立て続けに起こり、中小企業の資金繰り支援政策として、セフティーネット保証による100%保証が復活したため、事実上責任共有制度は頓挫した。さらに今回の震災で、東日本大震災復興緊急保証制度が開始され、信用保証制度そのものの見直しは更に困難になった。


(資料出所:社団法人 全国信用保証協会連合)

上の表からも、2007年(平成20年)の保証承認の前年比が件数で121.6%、金額で150.3%と急増しているのが見て取れる。また、中小企業金融円滑化法(以下、円滑化法)が施行された2009年(平成22年)秋以降、保証承認件数・額が激減していることも確認できるだろう。要するに、円滑化法は信用保証協会の代位弁済(保証の実行)を減額し制度の破綻を防ぐための法律であったことは、拙ブログでもこれまで何度か指摘してきた。日本政策金融公庫は、信用保険制度に基づき、信用保証協会が金融機関に代位弁済した金額の一定割合を保険金として各信用保証協会に支払う。日本政策金融公庫は株式会社とはいえ実質は国の機関だから、信用保険制度のような、必ず損をする保険契約に基づいた保険金支払いによる赤字が発生した場合でも、その最終的な負担には税が用いられる。昨年度の国家予算から日本政策金融公庫に使われた補填額は約2兆円と、税収37兆円のうち実に5%以上を占める

また、日本政策金融公庫自身も中小企業に貸付をおこなっており、同じ政府系の商工組合中央金庫(商工中金)と合わせて約25兆円の残高を抱える。信用保証協会の保証残高と合わせて約61兆円が実質公的保証ということになる。これは、国内融資残高の約24%にのぼり、先進国の平均値である12%のおよそ2倍だ。一方で、国内金融機関はバーゼルⅢへの対応も迫られており、信用保証のつかない「プロパー融資」をほとんど実行せず、 その運用先をますます国債に依存するようになっている。昨年7月時点での邦銀の国債保有残高は141.1兆円だったが、今年3月には155兆円まで増加し、震災を経たわずか1ヶ月にはさらに158.7兆円と総資産の20%近くまで膨れ上がっている。メガバンク3行に至っては、その国債保有残高は101兆円と、実に預金残高の38%を占める。リスクの高い中小企業への融資は公的資金任せで、「いちおう」リスクフリーで自己資本比率に影響しない国債で預金を運用する邦銀の実態が浮き彫りになる。いったいこれで金融機関は、経済の潤滑油たる社会的役割を果たしていると言えるのだろうか。

要するに、我が国の信用保証制度をめぐる事象を図式化すると、

【公的資金で中小企業の資金繰りを補助】
【 税負担・歳出増】
【国債発行】
【国債の邦銀引き受け】
【金融機関がプロパー融資に消極的】
【公的資金で中小企業の資金繰りを補助】

… 

 という堂々巡りをしていることに他ならないのだ。

被災地の中小企業による復興資金需要を受け、行政としては、建物や機械等の設備は日本政策金融公庫で融資し、運転資金は信用保証協会付融資で対応する計画のようだ。この予算の積算作業が進んでいるが、どうやら両者で50兆円規模の事業になる。しかし、国に過去の公的融資・保証を維持しつつ新たに被災地の資金需要に応えるような財源は存在しない。となると、どう考えても、被災地以外の公的融資・保証は締め付けが予想されるので、資金繰りの備えが必須となる。

余談かもしれないが、筆者は最近、上記のような全ての元凶は、日本人の預金好きにある気がしてならない。日本では社会保障への不安から資産を預金で持つ傾向が強いうえに、国民が窓口に現金を持参すれば、金融機関は問答無用で預金として受け入れなければならない。そして金融機関は強制的に預金の運用を強いられる。金融機関は自らの生き残りを考えると、昨今ますます厳しくなる自己資本比率規制により、投資有価証券
などのリスク資産による運用も避けたいし、さらに資産としてのリスク評価が厳しい中小企業への融資などもってのほかだ。結果として国債というリスクフリーの資産で預金を運用することとなる。バーゼルのルールに遵えば、間接金融を中心とした金融システムには自ずと理論的限界が来る。池尾和人さん過去にTwitterで述べたとおり、預金を受け入れないという経営も必要なのではないかと思う。預金者に預金手数料を負担させるなども一考の余地があるだろう。

2011/02/19 23:09:54
「預金が集まるから国債を買うしかない」というのは、金利リスクを貯め込んでいること対する、やっぱり「言い訳」のような気がして。預金量が完全に受け身なはずはないんだから、リスク管理をすべきでしょうという話です。 @ikedanob

とにかく、信用保証制度というシステムが破綻寸前であることは疑いの余地もない。圧倒的多数である現状維持しか考えていない中小企業の延命のために、結局は税金が使われるなどという縮小再生産が許されるほど、人口減下の資本主義は甘くない。一日も早く、直接金融市場を育て、イノベーションを原動力とした経済に転換する必要があるのだ。

(原 悟克 ― アゴラ執筆メンバー)
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