日本経済の問題は「デフレ」ではない

池田 信夫

池尾さんの記事のおまけとして、Tyler Cowenの記事を紹介しておきましょう。彼の紹介しているReicherの論文では、1970~2007年の日本の成長と停滞の原因の59%は労働生産性(Y/H)の変動だと推定しています。これはアメリカの27%やイギリスの10%などに比べると格段に大きく、主要国の中では突出しています。



これはかつての日本が先進国の生産性に追いつくことで成長し、90年代以降はその生産性上昇が終わったことによるものだろう、とCowenは解釈しています。これはどこの国も経験するサイクルですが、日本は戦後の成長率が高かった分、天井にぶつかったあとの屈折が大きかったわけです。池尾さんもいうように、こうした成長を制約する実体経済の要因は、金融政策ではどうにもならない。

この他にも19%は労働時間(H/E)の影響で、14%は労働人口(LF/N)の影響ですが、特に目立つのは就業率(E/LF)の影響が8%と小さいことです。日本より低いのはイタリアとギリシャだけで、いずれも労働市場が硬直的であることが共通しています。これは経済変動を雇用の減少や移転で吸収できないため、労働生産性が大きく落ち込んでいると考えられます。

つまり日本経済が停滞している最大の原因は「デフレ」などの金融的な要因ではなく、労働市場の硬直性なのです。これは多くの経済学者が指摘していることですが、是正することは政治的にはきわめて困難です。労組を基盤とする民主党政権では絶望的でしょう。