著者:山田 奨治
販売元:人文書院
(2011-09-15)
★★★★☆
日本政府は「知的財産立国」による産業競争力の強化を国策とし、首相を本部長とする知的財産戦略本部が特許や著作権の強化を進めている。その結果、著作権法違反には最高で懲役10年、罰金3億円という強盗なみの刑罰が科されることになった。
しかし日本の産業競争力が高まった形跡はなく、著作権侵害の件数も減っていない。もっとも顕著な効果は、法的な紛争の増加である。ダウンロードの違法化やB-CAS、まねきTVなどのクラウド型サービスの違法化など、必要のない争いが増えてユーザーは不便になり、イノベーションが阻害されている。
これまでアメリカは、知的財産権の強化を求めるプロパテントの方針をとってきたが、最近の特許バブルともいうべき状況によってアンチパテントに転換し始めている。しかし日本では、有線放送の意味も知らない間抜けな官僚が世界一厳格な著作権法をつくり、民放連は「民業圧迫」の名のもとにNHKのIP放送を妨害している。
アジア諸国で日本のアニメやテレビドラマなどは広く見られ、日本文化の影響力は強い。それは官僚や放送局のおかげではなく、流通しているコンテンツのほとんどは海賊版だ。海賊版から利益は上がらないが、それによって日本のコンテンツがアジアに広がり、たとえば日本のAV女優が中国版ツイッターで500万人以上のフォロワーをもち、ステージなどが興行的に成功するようになった。
これは戦後の日米関係と似ている。アメリカは日本に対する援助の一環としてテレビや映画の技術を供与し、アメリカ製の映画やテレビ番組が日本の茶の間に浸透した。これによってアメリカ型の消費文明が日本に広がり、こうしたソフトパワーによって日本はアメリカ企業の大きな市場になったのだ。
日本にとって重要なのは、ますますプレゼンスを高める中国のハードパワー(軍事力)に対抗して、日本のソフトパワーをいかに高めるかである。そのためには、むしろ積極的にコンテンツを無償で公開し、それと補完的なビジネスでもうける戦略を考えるべきだ。本書は日本の著作権をめぐる行政や企業の暴走の実態を伝え、市民がそれに関心をもつべきことを訴えている。