「復興特区」で法人税を廃止せよ

池田 信夫

産業空洞化の問題は、欧米では昔から論議になっていたが、日本でも深刻になってきた。今週の『週刊東洋経済』の特集は「日本車が消える」。今の三重苦(円高・法人税・電力不足)が続くと、次のモデル・チェンジは海外でやるかもしれない、と志賀俊之氏(自動車工業会会長)は語っている。


残念ながら、原理的にはこれは避けられない。世の中には「日銀が金をばらまけば円が安くなる」と信じている人もいるようだが、私のブログ記事でも説明したように、今の円高はユーロの崩壊という構造的な原因で起こっているので、日銀がマネタリーベースを増やしたぐらいで止めることはできない。

実質実効為替レートでみても購買力平価(PPP)でみても、今のレートが極端な円高とはいえない。むしろPPPで割高だった非貿易財の相対価格が新興国との競争の影響を間接的に受けて下がっていることが現在のデフレ(したがって円高)の大きな原因なので、長期的にみて正しい為替レートに近づいていると考えたほうがいいだろう。

したがってグローバル市場で競争するには、日本で自動車を生産することは、もはや合理的ではない。日本の自動車メーカーは「日本人としての誇りを守る」(豊田章男トヨタ社長)という精神論で頑張っているが、これは株主にとっては迷惑な話だ。思い切ってグローバル化しないと、トヨタが国際競争に敗れる。

これに対して、政府は来年度予算に7000億円の「日本再生特別枠」を設けるなどの対策を発表したが、こんなものは焼け石に水だ。政府が成長を実現することはできないが、障害を除去することはできる。その最大の障害が、主要国で最高の法人税率である。これは今年度から5%引き下げられる予定だったが、復興財源のために3年間、凍結する方向で調整が進んでいる。

これは逆である。高い法人税率を放置していると、自動車を初めとして国際競争にさらされる製造業は生産拠点を海外に移す。これによってコストが下がるので株主は利益を得るが、国内の雇用は失われ、賃金は低下する。法人税の減税というと「企業優遇」だといわれるが、高い法人税の大部分は雇用喪失という形で労働者が負担するのだ

かといって法人税をすべてやめるのは非現実的だから、私は被災地に設置される予定の「復興特区」で法人税を廃止することを提案したい。これによって自動車メーカーは、アジアに移転する代わりに被災地に移転するかもしれない。円高の問題は残るが、法人税率40%がゼロになれば、生産性を勘案すれば国内に立地するメリットはあるだろう。法人事業税(地方税)を残せば、被災地の自治体は企業から税収を得ることができる。

これによって一時的には税収が減るだろうが、製造業を国内に引き留めることによって雇用は守れ、長期的には労働者の所得税収や消費税収も増える。復興対策としても、被災地に補助金をばらまくより製造業が立地することによって自律的に成長することが望ましいと思うのだが、どうだろうか。