「いまさら聞けない経済学」の復習

池尾 和人

昨日のニコニコ生放送「いまさら聞けない経済学~お札を刷ればデフレは止まるのか?~ 」の復習の代わりに、私が説明で使った図を2点、簡単な説明付きで再掲しておきます。(>大学生の皆さん。大学の授業を受けた後も、「復習」をしましょうね。)


1つは、「公的純債務の対GDP比(%)」。日本の公的債務残高が総額(グロス)ではGDPの200%を超えようとして、世界的にみても断トツに大きいというのは、比較的よく知られていると思う。ただし、これに対しては、日本政府は他方で巨額の金融資産も保有しているという異論があって、債務残高から保有金融資産を引いた純額(ネット)ベースでみるべきだという指摘がある。そこで、そうしたネット・ベースの値を国際比較したのが以下の図である。

公的純債務の対GDP比(%)

データの出所はOECDのEconomic Outlookで、金融資産は控除しているが、実物資産までは控除していない(だって、国道を売って借金の返済に充てるわけにはいかないからね)。確かに1990年代の前半までは、日本の純額の対GDP比は20%程度で、むしろ少ない方だという指摘が妥当した。しかし、その後はネット・ベースでも急増し、2008年にはイタリアを抜いて純額の対GDP比でもわが国の状況は先進国最悪となった。2007年以降の動きは、ギリシャと全く重なっている。

純額でみた債務が急増した理由の1つは、いわゆる「埋蔵金」を財源に使ったこと。「埋蔵金」とよばれる積立金の類は、金塊や小判で保管されているのではなく、国債で運用されているのが普通である。これが、日本政府が保有しているという金融資産である。それゆえ、「埋蔵金」を債務の返済に充当せず、他の用途に使ってしまうと、総額での国債発行残高は増えないが、保有資産が減って純額でみた債務は増える。

この点は、前に「『埋蔵金』の正体は国債」という記事に書いたので、参照して下さい。なお、震災増税の負担を減らすために、政府保有の日本郵政株等を売却するという話があるが、政府保有株を売却すれば、やはり資産が減って純額でみた債務は増える。資産を切り売りして、真の意味での負担が減るなどということはない。フリーランチは存在しないというのは、最も確かな経済原則である。

もう1つは、「日米欧のマネタリーベースの動き」。この図は、日本銀行が実はいかに破天荒な中央銀行かということを示している。GDPでみて米欧は日本の約3倍の経済規模があるのに、絶対額で比べて、しかも2008年のリーマン・ショック以降の動きだけ取りだして、日本銀行が金融緩和にあたかも消極的であるかのような印象を与えようとする人がいる。そこで、名目GDPで基準化して経済規模の大きさを調整した上で、1990年代の初めからマネタリーベースの動きをみたのが、以下の図である。

日米欧のマネタリーベースの動き

日本は、欧米に十年以上先だって金融危機に陥ったので、1990年代の半ばからマネタリーベースの拡大が始まる。そして、対GDP比でみると、2002年の第2四半期には既に現在の米連邦準備の規模に到達している。その後、量的緩和を行ってさらに拡大し、その終了後は少し減少するが、近年は再び拡大し、量的緩和期を上回る規模になっている(というか、実質的に量的緩和をまたやっている)。

こうした事実を宣伝することが、日本銀行は上手ではないのかも知れない。実質的に量的緩和をまたやっているのに、それにQE2とかいう分かりやすいネーミングをつけない(もっとも、米連邦準備も自分でQE2といっているわけではない)。「包括緩和」といっているのだけれども、もう一つ浸透せず、知名度が低い。「量的緩和」も「時間軸」も、日本銀行が世界で最初に導入した金融政策手法だということを再認識すれば、いかに日本銀行が破天荒かが分かるというものだ。

なお、2008年のリーマン・ショック時、日本は直接に金融危機状態になったわけではないので、金融危機下にあった米欧に比べると、その時点でのベースマネーの変化は日本は小さい。しかし、1990年代から現在までを比べると、ベースマネー対GDPの変化は3~4倍で、変化率でも日本銀行は米連邦準備に負けていない。以上の記述は、「ベースマネーに関する2,3の事実」で書いたことの繰り返し。

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池尾 和人@kazikeo