もうイノベーションは終わったのか - 『大停滞』

池田 信夫

大停滞
著者:タイラー・コーエン
販売元:エヌティティ出版
(2011-09-22)
販売元:Amazon.co.jp
★★☆☆☆


著者は人気ブログ“Marginal Revolution”の管理者で、原著は電子書籍だけで出版され、話題を呼んだので紙で出版された。私も読んだが、リカードの昔からある「長期停滞論」の現代版である。

資本蓄積が進むにつれて資本の限界生産性は逓減するので、利潤率が低下する、というのはマルクス以来いわれている話で、ケインズも新古典派成長理論もこの点は同じだった。戦後のアメリカは、労働人口の増加や製造業のイノベーションなどの「容易に収穫できる果実」を食べて成長したが、それを食べ尽くしたので停滞する。

こういうとき、アメリカの成長率が20世紀の最後に上がった理由として金融とITをあげる人が多いが、本書はそれは幻想だという。金融技術は手の込んだ詐欺にすぎないし、ITはむしろ雇用を減らしている。利用できる情報量は飛躍的に多くなったが、ウェブの影響で新聞や週刊誌は廃刊になり、CDの売れ行きは落ちた。そしてネット産業の拡大は既存メディアの減収を補っていない。

――という常識的な話だが、統計データがほとんどないので説得力がない。大停滞の対策として著者は「科学者の社会的地位を高めよ」というが、これはイノベーションを技術進歩という狭い意味で考えすぎている。本書の最大の欠点は、ほとんどの問題を米国内でみており、ライシュの指摘した新興国との競争が視野に入っていないことだ。

製造業では今もイノベーションが起こっているが、その舞台が新興国に移行しただけだ。アップルのように国際分業を活用すれば、付加価値ベースでは成長できるが、雇用は二極化し、所得格差が拡大する。これは単なる停滞というより、グローバル資本主義の本質と考えるべきだろう。

アメリカ経済論としてはコンパクトで読みやすいが、正味132ページで1600円は高い。訳本のボーナスは、解説者(若田部昌純)が「日本の場合はデフレが停滞の原因ではないか」とEメールで質問して、著者に「日銀がよい仕事をしているとは思わないが、25年も続く停滞が貨幣的要因によるものとは思われない」と一蹴される笑い話ぐらいだ。