ホルミシス効果
「低放射線では健康に良い」という意味でよく使われる言葉です。
広島、長崎の被爆者や、放射線取り扱いの従事者などの疫学調査から、ホルミシス効果が現れていると言う研究者がいます。ただ、これは疫学で言う「健康労働者効果」の可能性も有り、まだこれらのデータの解釈に関しては意見がわかれている印象を個人的には持っています。
一方、放射線生物学の分野では「適応応答」というものがよく知られています。簡単に言うと、「はじめに低線量の被爆を受けると、以降の照射に抵抗性が得られる」現象のこと。この現象は細胞レベルだけではなく、動物実験でも確認されており、広く知られているものです。この「適応応答」が、再現性のある数少ない放射線ホルミシスの実証とされています。ただ、ホルミシスと適応応答は区別すべきとする研究者もいます(ま、言葉の定義の問題かと思います)。参考までに言うと低線量域で一過的に感受性が高くなるが高線量域で耐性をもつことを「低線量高感受性」と呼びます。
このような「適応応答」は、免疫学で言うような「免疫」とは少し異なり、比較的短い時間でも発現する現象です。細胞レベルの実験では照射直後でも適応応答がみられますし、動物試験では照射2ヵ月後の放射線耐性を調べた研究がありますが適応応答は観測されています。疫学調査では低放射線量でのリスクが上がる結果が得られていない結果を「日本人は放射線に対する免疫がないから」という理由で否定する方もいらっしゃいます。しかし「適応応答」現象の時間軸を考える限り、その理屈はなんだか違和感を感じます。そもそもホルミシスを否定して、かつ、日本人放射線低耐性を主張するのも、なかなか複雑な主張(複数の異なる傾向のメカニズムを仮定)をしているように思います。
村上たいき(モンテカルロblog)